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【行政関係者に聞くシリーズ】災害時の孤立集落対策に活きる人流データ

台風や豪雨の時、「集落が孤立した」とのニュースがしばしば伝えられます。2021年に限っても、大雨に伴う土砂崩れで道が通行止めになったことで、高知県や静岡県、青森県などで集落の孤立が発生しました。大きな地震や津波の際にも集落の孤立は起こっています。

集落が孤立するとそこに住んでいる人はもとより、外部から訪れている人も同じように取り残されます。しかし、これまでの孤立集落対策では、集落内の定住人口をベースとして避難場所や水・食料の備蓄などが進められる一方で、来訪者までを含んだ対策がなかなか進んでいなかったという課題があります。このため、来訪者が比較的多い集落の場合、いざという時に物資などが不足してしまう事態が生じかねません。

来訪者を含めた対策にこれまで光が当てられてこなかった背景としては、日常的にどの程度の来訪者が集落を訪れているかについて、そもそもデータが不足していた点が指摘できるでしょう。行政には住民票に基づいた定住者の人口データがあり、集落の世帯数や人数までは分かりますが、外部から特定の集落にやってくる人の数を詳細に把握することは実質的に困難でした。

そこで利用したいのが、ヤフーのDS.INSIGHTで把握することができる人流データです。このツールを使うと地域を訪れる来訪者の数や属性などが把握でき、より実態に即した形で孤立集落対策を検討していくことが可能です。今回の記事では集落を訪れる来訪者について簡単にまとめつつ、DS.INSIGHTのデータで何が分かり、孤立集落対策の検討にどう利用していけるのかを紹介していきます。

集落を訪れる来訪者

国の調査によると、地震や津波、水害、土砂災害や液状化現象で道路や港湾が使用不能となり、孤立してしまう可能性がある集落は全国の農業集落で約17,000カ所、漁業集落で約1,900カ所あると推計されています(※1)。数字だけを見ると山奥や海岸沿いにある数世帯規模の小集落をイメージされる方もいるかもしれませんが、孤立が想定される集落の中には小さなものから500人以上の人口を抱えた比較的大きな集落まで含まれています(※1)。

集落を訪れる来訪者という視点で見ると、人口規模の大きな集落の中には地域のハブ機能(学校や職場、公共施設、商店など)があり、そうしたところを目的地とした人流が発生しているケースが考えられます。一方、小集落であれば来訪者が少ないかというとそうとも限りません。例えば観光地が集落内にあるような場合では、観光目的の立ち寄り客や宿泊客、あるいは観光業の従事者などの来訪が見られるはずです。また、別荘地を含んだ集落であれば、季節や週末、長期休暇などによって来訪者数が変動していることでしょう。

このように、集落を訪れる来訪者の数や特徴はケースバイケースです。このため、普段からどの程度の人流が見られるか、集落ごとに確認していくことが重要と考えられます。

(※1) 内閣府防災担当が実施した「中山間地等の集落散在地域における孤立集落発生の可能性に関する状況 フォローアップ調査 調査結果」より引用


DS.INSIGHTで確認できる来訪者に関する情報

来訪者に関する情報を集落レベルで調べる際には、DS.INSIGHTの中のPlaceという機能を利用します。調べたい集落の一帯を「カスタムエリア」として選択することで、集落や来訪者に関して次の5つの情報を得ることができます。

① 集落にどの程度の人がいるか?
 また、来訪者と住民の割合はどの程度か? (人口割合)
② どこから来ている人が多いのか?     (来訪元ランキング)
③ どのような属性の人が来ているのか?   (属性)
④ 休日と平日では変化があるのか?     (人口推移)
⑤ 何時ごろに多く来訪しているのか?    (人口マトリックス)

以下、DS.INSIGHTを通じて分かることと孤立集落対策の検討に利用できることをそれぞれまとめていきます。


① 集落にどの程度の人がいるか?また、来訪者と住民の割合はどの程度か? 

「人口割合(月間平均/日単位)」を参照すると、来訪者と住民の日単位の人口(月間平均)やそれぞれの性別・年代をチェックできます。特に来訪者と住民の割合に注目してみましょう。集落の特性に応じて来訪者と住民の比率は大きく変化するはずです。災害時に孤立した場合には集落で初動対応を取って行かざるを得ない部分がありますが、もし住民に比べて来訪者の割合が非常に大きな場合には、集落の負担もそれだけ重くなることを示唆していると見ることができます。

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来訪者と住民の人口推移(DS.INSIGHTより引用)


② どこから来ている人が多いのか?

「来訪元ランキング」では、どこからの来訪者が多いのかが確認できます。同じ来訪者と言っても近隣市町村からの場合もあれば、遠方からの場合もあります。平日と休日の違いもチェックしてみてください場所によっては、平日は近隣の市町村からの来訪が主ですが、休日は県境を超えてやってくる遠方からの来訪者が多く見られるところもあるでしょう。休日に災害が発生した場合には、地域に不慣れな来訪者の対応も集落として求められるということがデータを通じて見えてくるかもしれません。

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来訪元ランキング(DS.INSIGHTより引用)


③ どのような属性の人が来ているのか?

来訪者の属性も性別や年代別に把握できます。「高齢の来訪者が多い」といった特徴などをデータから読み取ることができるため、災害時要援護者となり得る年齢層が多数来訪していないかなどを確認しておきましょう。該当する場合には、そうした方への対応を想定した準備を集落として行なっておく必要性があると考えられます。

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来訪者と住民の性別年代別の人数(DS.INSIGHTより引用)


④ 休日と平日では変化があるのか?

「人口推移」のデータでは、「全体(来訪者+住民)」、「来訪者」、「住民」の3パターンで1カ月ごとの人口の移り変わりを調べることができます。集落によっては休日と平日で来訪者数が大きく異なることがあるため、「来訪者」を対象としたデータから傾向を確認してみましょう。人口推移を一年分チェックすれば、年間を通じての最大の来訪者数や季節変動などの把握に役立ちます。来訪者数の最大値は孤立対策の前提や訓練の想定などにも利用できます。

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来訪者と住民の人口推移(DS.INSIGHTより引用)


⑤ 何時ごろに多く来訪しているのか?

「人口マトリックス」のツールを使って1時間ごとの人口もチェックしておきましょう。集落によって来訪者のピークとなる時間帯や曜日が異なる可能性があります。ここで得たデータも対策の前提や訓練の想定などに活かすことができるでしょう。

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1時間ごとの人口(DS.INSIGHTより引用)


データ活用の留意点

DS.INSIGHTの推計人口は、ヤフーのアプリサービスにおいて、許諾を得たGPSデータをプライバシー配慮し統計化したデータです。値はあくまで推計値であり、人口の少ないエリアにおいては、誤差が大きくなる傾向があります。そのためエリアの定義は小さめでなく、2,3km四方程度に広めに定義することをお勧めします。

また、自治体で所有する他のデータとあわせて利用することで、より良い現状認識や判断に活用できると考えます。
例えば、実地調査のデータとDS.INSIGHTの結果を同時期で比べて傾向を把握した上で、実地調査をしていない時期のDS.INSIGHTの結果を確認すると、より良く分析を進めていただけます。


まとめ

DS.INSIGHTを使うことで来訪者の実態がある程度明らかにできるため、調べたデータをもとに既存の孤立集落対策で十分対応できそうか、ぜひ確認してみてください。集落によっては、災害担当者や自治体の方のこれまでの認識とは異なった数の来訪者がやってきているかもしれません。

来訪者を含めた孤立集落対策が必要となる場合には、人がやってくる拠点となっている施設や場所(学校・勤務先・観光地・宿泊施設など)と行政や集落の連携が必要不可欠です。そうした連携を推進する上でも、どの程度の人数が来訪しているか、災害発生時に何が問題となりそうかなどを裏付けるデータは役立つことでしょう。


筆者プロフィール
渡邉 俊幸(わたなべ としゆき)
2001年より愛知県旧西枇杷島町の防災担当として災害対策に従事。2005年に民間気象会社に移り、情報を伝える側として全国の自治体などに向けて防災気象情報を提供。
その後、民間シンクタンクを経て、2013年よりオーストラリアの大学院にて気象情報の利用に関する研究を進める。2014年から水害対策で世界の先端を行くオランダに拠点を移し、気象情報の利用や水害対策についてコンサルティングを行う気象とコミュニケーションデザインを設立。
2017年から2018年にかけて、世界銀行の防災分野のシニアコンサルタントとしてエチオピア政府を対象としたプロジェクトにも参画。
リスク対策.comにて連載を持つ他、気象情報の利用方法をまとめた『情報力は、避難力!』を執筆(2021年10月以降発行予定)。
気象予報士。


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※本記事の内容は公開日時点の情報です。

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