見出し画像

131.エッセイスト考

ぬかよろこび

(上記リンクをクリックすると版元ドットコム。いろいろな書店で買えます。)

三省堂書店池袋本店のヨンデル選書フェア(本記事は2019-2020のヨンデル選書 2nd seasonが対象)で、お買い上げの方に渡す特製カードに350文字のオススメ文を寄せた。以下、そのまま引用する。

「ひらあやまり」の感想コメントにも書きましたけど嬉野さんの文章は旅に近いですね。先日、『急に具合が悪くなる』を読んでいたら、目的地と現在地を直線でつないでしまって途中をひたすら「無」になって運ばれていくだけの飛行機的な旅行よりも、目的地までの同定をよろよろフラフラ、路傍の花に目を留めたりステキなカフェで一休みしたり、道中を楽しむタイプの旅行のほうがぼくにとってはおもしろいよなー、みたいなことを考えたんですが、嬉野さんの文章は嬉野さんがゆっくりと歩きながら五感から入力したものを組み立てて、そのうちどこかの思考にたどり着いた様をそのまま綴っています。つまり目的地ありきの予定調和な文章じゃない。偶然の哲学でおなじみ九鬼周造とのリンクがこんなところにも……というのはうがちすぎかなあ。

「嬉野三部作」の二作目。上記の350字書評内にも書いたが、紆余曲折の過程をそのまま書くタイプのエッセイというのは、じつは商業作品では少ないのではないか……という気がする。コンテンツを見栄え良くまとめ直す、編集精神を持った人ばかりがエッセイストになっているからではないか?

……と、ここまで書いてふと気づいたが、嬉野雅道さんは水曜どうでしょうでカメラマンをやりつつ、「編集」もバリバリやっていたわけで、つまりは「編集精神」のかたまりみたいな人なのだけれど、エッセイだとこれ見よがしに「編集した!」という気負いはあまり感じられない。そういうエッセイのほうが合う人って、けっこういるはずなので、今後はもっと嬉野さんみたいなエッセイストがちらほら現れてくれるといいなと思う。まあ、嬉野さんがこれからも書いてくれればいいのだが。

(2022.1.7 131冊目)

この記事が参加している募集