見出し画像

がんを語るということ #deleteCリレー連載 (2/8)


↑リレー連載のバトンをけいゆう先生から受け取りました。


私は市原真と申します。

最後の一文字は「しん」と読みます。些細なことですが私にとっては重要なことです。学術講演に招かれて演台に上がって、「今日お招きしたのはかの有名なイチハラマコト先生です!」と紹介されると、ちっとも有名じゃないやんけとツッコんでから仕事をするので無駄にカロリーを使います。ところで私は4月から5キロ痩せたのですが、知人にはセルフライザップと呼ばれて尊敬されています。しかし痩せた理由がその知人から頼まれた仕事にあったので、私は彼のことを無自覚ライザップとか未必の故意ライザップなどと呼んで呪っています。


私は札幌厚生病院病理診断科の主任部長です。

ここで札幌厚生病院は「北海道厚生連」という団体に所属していることをご説明しておくべきでしょう。北海道厚生連とは、あまり知られていませんがJA北海道グループ、いわゆる農協系のいち組織です。JA北海道グループには全道の農協のほかに、牛乳などで有名なホクレン、信用金庫系列を運営する信連、保険をやっている共済連、そして我らが厚生連が含まれており、手前味噌ですが軽くゲロ吐きそうなくらいの巨大組織です。ただし、この中で厚生連はいちばん貧乏で金食い虫なので、あまり自慢げに話せることでもなく、言ってみればグループの借金を作ることに定評のある水戸黄門の八兵衛的ポジで私たちは日々活動しています。ラジオで毎週土曜日にジョージ・ウィリアムスさんがやっている音楽番組を聴いていると、ジョージがよく「JA全農!カウンダウンジャアペエァアアン!」と言うのですが、そこで毎回、「JA全農ってうちじゃ~ん☆↑」とテンションが上がります。しかしこれはいわゆる自意識過剰というやつで、JA全農の人は北海道厚生連を末端のいち臓器くらいにしか思っていないでしょうし、おまけに北海道厚生連札幌厚生病院の病理診断科の主任部長なんて例えるならば「気管・気管支・細気管支・呼吸細気管支・終末細気管支・呼吸細気管支と細かく分岐していった最後の末端にある肺胞のいちクララ細胞」くらいのものです。クララはそっと座ります。


かくのごとく、私は自己紹介をひとつするにもつい細部が気になってしまい、細やかに設定の数々を拾っていかないと話が前に進まないというオタクの鑑のような人間です。本人は楽しそうだが周りにとっては害悪でしかない、ディズニーランドに生息するゴキブリみたいな存在です。その私に「がん」を語らせるとならば、皆様にはそれなりの時間の浪費を覚悟してもらわなければいけません。時間に火をつけて「どうだ明るくなったろう」と玄関先を照らす時間富豪のような気分でいてもらわないと困ります。昔マガジンの巻末に載っていた、両脇に美女をはべらせながら札束の風呂に入ってジト目でこっちを見ているゴブリンでおなじみの、ありがたい力の石(婉曲表現)の広告がありましたけれど、あのバスタブにお金の代わりに時間を入れるくらいの勢いでいていただきたいのです。ちなみに昔ウィキペディアで読んだのですが、「札束風呂」を達成するのに必要な金額は25億円だそうです。小銭使えばいいのに

と、長い前置きの末に、とうとう私が「がん」について語る時がやって参りました。しかしここまでですでに指定の「1500字」のうち1480文字を使用しています。ですから簡単に。


「がん」には無数に語れることがあります。そして、世界中のオタク達が必死で読み込んでもいまだに解読・解釈が追いつかない「裏設定」が、めまいがするほどあります。私は生涯をかけてこの「がん

(以上、1500字)



画像1


いちはらしん/病理医ヤンデル(delete Cリレー連載 vol. 2)