見出し画像

69.言語化まで数光年

アグニオン

(上記リンクをクリックすると版元・新潮社のページ。買えます。)

三省堂書店池袋本店のヨンデル選書フェアでお買い上げの方に渡す特製カードに350文字のオススメ文を寄せた。以下、そのまま引用する。

医療者や医学者は、そもそもSFに対して厳しい目というか一家言をお持ちの方が多く、かくいうぼくもご多分に漏れず、設定が破綻しているタイプのSFを読むと縦に裂きたくなるめんどくさい性格をしています。でも「アグニオン」はよかったんすよ。ジュブナイルっぽくもあり、古典SFの香りもさせつつ、「ぼくがうれしく読めるタイプのSF」で、読み終わったときにまず「ああ、この本はいつか息子に読ませたいなあ」と思いました。そういえば、ビッグデータの集積の末にぼくらの生活に何かが起こるというのはすでに現在進行形どころか過去進行形くらいのペースで進んでいますし、シンギュラリティなんてとっくに通り過ぎてるんじゃないかって思う昨今、この本を読むと「ああぁーシンギュラリティうぜぇなー人間でいてぇなー」ってなります。

上記のおすすめ文を書いたのは2年前、実際に買って読んだのは4年前。未だに輝く名作である。

ぼくは先輩とウェブラジオをやっているのだがときおりSFの話をする。そして、たまに、「中途半端な科学考証で書かれた本は読めないし、設定が完璧な(世界の中で設定に破綻がない)作品には敬意を表する」という、ちょっと偉そうなことを言う。何から目線だ。しかし、読者とはいつも作品に対して、上から見下ろそうとがんばったり、逆に下から見上げたりしてしまうものだと思う。

アグニオンはすごくいい。どこから見てもいい。言語化できる部分もいいのだが、「表象の前後にあるもの」がじわりとしみこむ感じである。

そういえばKindle版は持っていなかったな、と思って、今日購入した。推しのために使う金はこの4年間で倍くらいに増えた。自分のために使う金が減ったからかな? いや、推しのために使う金とはつまり、自分のために使う金であろう。

(2020.8.21 69冊目)

この記事が参加している募集