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~ある女の子の被爆体験記41/50~現代の医師として広島駅で被爆した伯母の記録を。”「食中毒?」医師が放射線被曝を疑うべき初期症状”

食中毒の様な症状 嘔吐/下痢/食欲不振 

〜8月7日の病院〜

蜂谷道彦医師は、著書である広島日記の中で、原爆が落ちた翌日の8月7日の病院内の様子をこのように記している。

「明かりひとつない病院にすし詰めになった患者の吐瀉物で一夜のうちに病院が汚されてしまった。我々の病院にいる者は病院を死守した者か、逃げ遅れて逃げ場を失った者か、これ以上逃げる力がなくなって、病院に辿り着いた者だ。‥嘔吐、下痢が甚だしくて、歩けぬ患者は大小便はもとより吐瀉物で一夜のまで床の上へそのままにし放しだ。‥」

これは、原爆が落ちた次の日の様子である。この記載によると、8月6日の原爆当日から、嘔吐や下痢症状が激しく見られたことが指摘されている。

〜ゴイアニア被爆事故(Acidente radiológico de Goiânia)〜

1987年9月、ブラジルのゴイアニア市で起きた、放射線治療機器の盗難による急性放射線障害事故である。セシウムが格納させた医療機器を盗んで自宅へ持ち帰った当人たちと家族4名が死亡し、249人が被爆した事故である。

9月13日に、2人の若者が「高価なものがある」と聞き、廃墟の病院から放射線治療機器を盗んだ。セシウムの格納庫は壊したところ、珍しい、「青白く光る粉」を見つけ、自宅に置き、また友人や家族にも分け与えた。

9月13日から2人の若者は、嘔吐症状があった。食べ物に当たった、と考えた。

9月14日から、下痢、めまいを認めた。病院では食中毒の可能性や食物アレルギーを、疑われる。

9月28日、若者が、「これが原因だと思う」と、保健当局事務所にセシウムの入ったカバンを持参した。

9月29日、線量計で放射線濃度を測った医師によって、急性放射線障害が発覚した。当初、医師も半信半疑で、線量計の故障を疑った。別の線量計でもメーターが振り切れるのを観察し、放射線の影響と確信した。患者たちの症状は急性放射線障害によるものと判明した。

青白く光るセシウムを食卓の上に置き、触った手で食事をしていた娘は10月23日に死亡した。

亡くなられた方の病理解剖では、触った左手の皮膚潰瘍・消化管内の大量の血便・多種臓器の内出血、及び脳内出血・再生不良性貧血(骨髄の異常)・脱毛が見られた。

嘔吐と下痢(食中毒様の症状)、複数人の症状、喉の痛み

放射線障害は、2020年の現代の医療現場では通常出会うことはないほど、レアなケースである。下痢や嘔吐の患者だからといって、日常の医療現場で最初から放射線障害を疑う必要はない。しかし、放射線障害の初期症状を知らなければ、実際に臨床の現場で目にしたときには、診断が遅れてしまう

2019年8月8日に起きた、ロシア北部アルハンゲリスク州ニョノクサの海軍実験施設で原子力推進式ミサイルの爆発事故が発生した。そのとき、負傷者の治療にあたった医師たちは、政府関係者から放射線被ばくの危険性について知らされなかった。このため、負傷者の原因や対処が遅れただけでなく、医師たち自身の被曝のリスクを負った。この様な事態もあることを、医療者は知っておく必要がある。

ポイントなので、もう一度。”下痢と嘔吐”、”同じ症状の複数の患者”、”喉の痛み”

高濃度の放射線を浴びた患者の初期症状として、嘔吐、下痢は非常によく現れる症状であることは、プライマリケアの現場にいる医師は、よく記憶しておかなければならない。

さらに、この症状が、近い距離にいた複数の人々に及べば、放射線の事故や兵器などによる症状を疑う。なお、広島で見られた様な、喉の痛みの症状もあれば、高濃度の放射線を短時間に浴びた可能性が高くなる。

数日後に消化器症状が少し改善する頃、喉や口の痛み、口内炎や扁桃腺炎、食道の症状が目立ってくる。また数日後、外傷が改善してくる人も多くなるが、歯茎からの出血や皮膚内出血が目立ってくる。この出血傾向は、重篤さを示す。広島や長崎でもよく見られていたが、火傷や怪我の看病をしていた人が、この頃、けが人よりも病状が悪化し、死亡する人もいて、当時は大変不思議がられた。

放射線事故は、滅多にないものではある。しかし、今後小型の核兵器などが開発された場合には、テロを含め、放射線事故をに遭遇しないとはいえない。プライマリケア医、家庭医は、放射線障害の初期症状を記憶しておくべきである。

もちろん、そんなことが起こらない様に、核兵器の使用を止めるべきである。何度となく言うが、核兵器は、大人より子供ほど強い被害を出す。そして、不必要にも何十年も、病気を繰り返して起こし、人々を苦しめる。この様に無意味で、犯罪的で、非人道的な兵器に、自分の家族がこの被害に遭うことを考えたら、核兵器の製造も使用も禁止するべきではないだろうか。過去の被害者が、それを教えてくれているではないか。


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