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3日間で7000回RTされた「ラグビー図解」を作るときに考えた「初心者向けルール説明」の情報設計

「せっかく日本でラグビーワールドカップが開催されるのに、いま世の中にあるラグビーのルール説明がどれも分かりにくい」と常々思っていたので、自分で作りました。

昨年の11月に一度公開した後、今年のワールドカップの日本代表の試合の日に再度Twitterに投稿したところ、3日間で7000人近くの方にリツイートしていただけました。「これが一番分かりやすい」「こういうのが欲しかった」「もっと早く見たかった」といったコメントも多数いただけて非常に光栄です。

この図解を作っている過程で、スポーツのルールを初めての人に説明する際に「何を・どういう順序で・どんな言葉で話すと分かりやすいのか」の典型的なフォーマットが見えてきたので、そのフォーマットを解説してみます。

私のラグビールール説明は絵をたくさん使っていますが、文章だけでの説明でも、使う言葉や話す順序を工夫することで、分かりやすさが大きく変わります。

ラグビーに限らず、スポーツやゲーム全般にも通ずると思うので、マイナースポーツやボードゲームの関係者など、ゲーム性のあるものごとを普及したいと思っている方にご参考にしていただきたいと思っています。

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初心者向けルール説明の必須4要素

1.  こんな人たちが、こんな場所で、こんな道具を使って戦います
2. こうなったら勝ちです
3. ただし、これをしてはいけません
4. こんな攻防がよく見られます

そのスポーツを初めて知る人に説明するときは、この4つの要素を含めます。順番もなるべく1→4の順がおすすめです。一つずつ詳しく解説していきます。

私は誰なのか

詳しい解説に入る前に軽く自己紹介をしておきます。私は4年前の「五郎丸ブーム」の頃にラグビーをゆるく見始めた「歴がちょっと長いにわかラグビーファン」です。普段の仕事はデザイン会社でWebサイトやアプリの情報設計を担当しています。

ラグビーのプレー歴はまったくゼロ、生観戦の経験も両手で数えられる程度なので、ラグビーについては素人側です。一方、仕事柄「情報をどう分類し、どんな言葉で呼ぶか」についてはある程度の知見があります。文章を書く仕事ではないものの、ある種の「説明のプロ」ではあると思います。

そんな「ラグビー素人で説明のプロ」が考えるルール説明の必須要素を、実際に作ったラグビー図解も例にしながら、見ていきます。

1.  こんな人たちが、こんな場所で、こんな道具を使って戦います

はじめに伝えるべきは、人・場所・道具の説明です。これを最初に伝えることで、聞き手の頭の中にビジュアルが浮かびやすくなります。

具体的には

・個人戦なのかチーム戦なのか
・サッカーのような「対決」なのか、マラソンのような「競走」なのか
・競技エリアはどんな場所で、どれくらいの広さなのか
・どんな特有の道具や装備を使うのか

といった情報です。

たとえばテニスなら、

・1対1 (もしくは2対2) で戦う
・コートの真ん中にネットが張られている
・ラケットとボールを使う

などです。

ラグビー解説では、1枚めがこれに当たります。

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ここで伝えたかったのは、主に

・サッカーと同じくらいの広さの競技エリアで
・2つのチームが戦う
・楕円形のボールを使う

の3点です。

スペースが余ったので、さらにプレイヤーの人数やポジション、体形の話も盛り込みましたが、必須ではないかもしれません。1チームが何人かを言う前に、まずはチーム戦かどうかを明示することを優先しましょう。

2. こうなったら勝ちです

2つ目は勝利条件です。あわせて、得点条件(こうなったら点が入ります)や 終了条件(こうなったら試合終了です)もセットで説明することが多いでしょう。

たとえば、野球なら

・ベースを一周すると1点
・一定条件で攻守交代し、9回交代したら試合終了
・終了時に得点が多いほうが勝ち

などを説明することになります。

ラグビー図解ではこの部分です。

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2枚めで得点条件、4枚めの最後で勝利条件、と分けて説明しています。

勝利条件や得点条件を説明するのは一見当たり前に見えますが、意外にこれができていません

たとえば、ラグビーについて「時間が来たら試合終了」や「その時に得点が多いほうが勝ち」を説明していないものをたくさん見かけますし、テニスやバレーについて「どうなったら1点が入るのか」を説明していないものもたくさんあります。協会やチームのような「公式サイト」にも散見されます。

野球、サッカー、テニス、マラソン、ゴルフ…と比べてみると、得点方法も試合終了の条件も勝敗の決まり方も様々です。「点が多い方が勝ち」すら当たり前ではありません。軽くでもいいので「こうなったら勝ち」に触れておきましょう。

3. ただし、これをしてはいけません

3つめは制約条件です。要は反則です。多くのスポーツでは、2で説明した勝利条件や得点条件を達成する上で「やってはいけないこと」があります。

たとえば、

サッカー「手でボールに触ってはいけません」
バスケットボール「ボールを持ったまま歩いてはいけません」
ボクシング「背中と下半身を殴ってはいけません」

あたりが有名だと思います。

この制約の中でいかに勝利を達成するのかが、多くのスポーツでは面白さに直結していきます。忘れずに押さえておきましょう。

ラグビー図解ではこの辺です。ノックオンとスローフォワードに言及しています。

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ここで注意点が2つあります。

(1) 反則を大量に並べ立てない

ここで細かい反則をすべて一気に説明する必要はありませんし、おすすめしません。情報が多すぎると聞き手が混乱してしまうからです。

最初はあくまで、サッカーの「ハンド」やバスケットボールの「トラベリング」のような「それを可にしてしまうとゲームがまったく別物になってしまう、最も原則的な制約」だけに留めておくのがよいでしょう。

(2) 先に反則を説明しない

基本的には

こうなったら勝ちです→ただし、これをしてはいけません

の順で説明します。逆はおすすめしません。

特にラグビーの場合、いきなり「ボールを前に投げてはいけない」から説明するケースを本当によく見かけるのですが、勝利条件を知らない段階でそれを聞かされても意味が分かりません。

そうではなくて

・得点するためにボールを前に運ぶ必要がある
・ただしボールを前に投げてはいけない

という順で説明するほうが、意味が伝わりやすいはずです。

4. こんな攻防がよく見られます

最後に、試合を観戦していてよく見かける典型的なプレーを紹介していきます。

ここまでの時点で「最終的に目指すこと」「してはいけないこと」が伝わっているので、あとは「その条件の中で、実際にどんな攻防が行われているのか」が伝われば、そのスポーツの全体像に対する基本的な理解が完成するという狙いです。

外から見た動きだけでなく、そのプレーにどんな意味があるのか、勝つことに(あるいは負けないことに)どう繋がるのかが分かるように説明できると良いでしょう。

ラグビー図解では3枚めの「ボールの運び方」と4枚めの「トライをめぐる攻防」に分けて説明しています。

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典型プレーといっても、高度な戦術の話は初心者にはまだ不要です。そうではなくて、詳しい人にとっては当たり前の、今さら説明の必要があると思わないような基本動作を、あえてちゃんと説明することが大事です。

たとえば野球なら、ピッチャーの投球について

・バッターにうまく打たれると相手の得点になってしまうので
「うまく打たせない」ためにいろいろな工夫をしている
・すごく速く投げたり、ボールに回転をかけて軌道を曲げたりすることで、バッターのタイミングや軌道の予測を外す

といった超基本的な話をするのも良いと思います。

典型プレーとその意味を知っておくことで、試合を観戦して実際に見たときに、プレイヤーの意図が分かり、試合で今何が起きているのかを理解しやすくなります。

何が起きているのかを理解できれば、試合を楽しむことに繋がります。楽しんだ結果、ファンになってくれたら嬉しいですよね。

まとめ

以上、私なりに考えた「初心者向けルール説明」のおすすめフォーマットを紹介しました。

1.  こんな人たちが、こんな場所で、こんな道具を使って戦います
2. こうなったら勝ちです
3. ただし、これをしてはいけません
4. こんな攻防がよく見られます

の4ステップです。

なるほどそれなら分かりやすくなりそう、と思われた方がもしいらしたら、ぜひご自身で好きなスポーツやゲームの「ルール説明」を作ってみてください。そしてぜひ @drivesketch に見せてください。とても喜びます。

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ボードゲームデザイナーの方が書かれた、ゲームの説明書に関するnoteです。スポーツを見るのと違って、実際に遊ぶ人のための説明なので、細かい部分まで書かれていますが、

内容物→…→ゲームの決着→…→ゲームの流れ

という構成はよく似ています。

おまけ

今回紹介したフォーマットの観点から、この「ドッジボールのルール」に何が不足しているのかを考えたり、フォーマットに沿ったドッジボールルール説明を考えたりすると面白いかもしれません。

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