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星と電線と

 夢の中に何度か迷い込んだ。最近良く眠れていないので、夢をたびたび見るのだが、起きた瞬間に忘れてしまうことが多い。
 しかし、今日見た夢は覚えている範囲だと綺麗で不安で恐ろしい夢だったからかよく覚えることができた。

 通っていた小学校の体育館そっくりな造りをしている建物の出入り口付近にそれはあった。
 一見、人一人入れるほど大きなお菓子のパーティバレルだったが、近づくにつれて違うとわかった。
 どう違うのか説明を求められてもわからないが、衝動的に隠さなければならないものだとわかり、大きなその容器と、近くに散乱していた類似品をかき集めて抱えて走った。

 小学校から家まで遠いのだが、なぜか体育館の廊下から飛び出ると、すぐ家の前まで到着していた。そんなこと気にならないほど焦っていて、家に飛び込み、お菓子の容器を見つからない場所へ仕舞い込む。

 仕舞い込んで気がついたが、実家とほぼ同じ家の構造なのに、どこか違うことが背筋に鳥肌を立たせた。
 考えながら廊下を歩いていると、歯磨きをしながら歩いている、髭面の知らない男性が、泡を口から垂らしそうになりながら怒鳴ってきた。突然のことに面食らいながら、その男の行き先を後ろから見る。男は二階の洗面所にいった。歯磨きをしているから当然なのだろうが、そのせいで怒鳴られたときに何を言われたのかさっぱりわからなかった。

 父親でもなんでもない人が家を自由にしているのが怖くて、逃げ出そうとするも、窓や階段から降りようとすると怒鳴り声が聞こえてドスドスと廊下を足早に歩いてこられるのがとてつもなく怖かった。

 どうやって逃げ出そうか考えていると、洗面所に戻ったタイミングで悪知恵が働いた。
 二階の洗面所には何故か外から鍵をかけられる場所がある。
 男が洗面所に戻り、口をすすぐ音が聞こえたタイミングで実行に移すと、「何しとるんじゃ」と今度は聞き取れる罵声が聞こえてきた。
 手早く鍵をかけおえ、階段から逃げる。
 逃げ出す間、その男以外――母と父――は見当たらなかった。夢だから当然なのかもしれない。

 神社へと続く見慣れた道まで走って逃げる。家からそう離れていないので、追いかけられていたらすぐ追いつかれてしまう距離だ。
 家を見ても誰も追いかけてきていない。鍵のおかげだろうか。

 現実ではそこに電線なんてほとんどないはずなのに、電線が張り巡らされ、火花が散っているものまであった。
 どういうわけか、体がいきなり浮き始めた。風を受けて飛ばされそうになっているらしい。

 そこではずっと風が吹きすさんでいた。おかげでずっと飛ぶことができたし、墜落もしそうになった。電線に引っかかって感電しそうにもなれば、火花がとんできて熱いとも思わされもした。
 コツを掴み、ほとんど自由に飛べるようになった頃、椿の蕾が開きかけている木のところに近寄っていった。
 その椿は白色だったが、茎の方に近い部分からほんのちょっぴりピンク色が混ざっていて、魅力的な色をしていた。

 椿の周りをぐるりと周って飛んでいると、飛び出してきた家が目に入った。ベランダには出ていなかったから気づかなかったが、布団が干されっぱなしになっている。そしてふと空を見上げてみると、降り注いできそうなほどの綺麗な星空を見ることができた。夜にしては空がとても明るくて、夕方くらいだと思いこんでいたが、それは気のせいだと気付かされる。

 母はよく、「日が暮れてくると洗濯物や布団が湿気ちゃうからそれまでにしまわないと。」と言っていた。
 布団が干してあるということは母がいたのだと気づく。そして、仕舞われていないということはどこかに監禁されてしまっているか、殺されたのか。

 風に乗って、家のベランダ目掛けて飛んでいく。空から星が見守ってくれているような不思議な感覚に、はやる心を落ち着かせてもらいながら着地した。自分の父親と母親を探しに、見知らぬ男がいる我が家へ。

 着地すると目が覚めてしまった。結局、両親は夢の中で無事だったのかわからないし、あのお菓子のパーティバレルが結局なんだったのか気になることだらけのままだった。

 それを差し置いて、空を自由に飛ぶのはとても楽しいものだった。空を飛ぶ夢を見るときはだいたい、電線に邪魔されたり、高く飛びすぎると不安な気持ちを抱いて落下するという展開が多い。それと、追いかけられる夢を見ているときもまた、よく空を飛べていた。
 高く飛びすぎて落ちるのが怖いと思った瞬間に落下してしまうのは、自分の不安な気持ちと、落ちるということを意識してしまったからなのだろうと毎回思わされる。低い位置を飛んでいるときはずっと、上を目指したり、風に乗るコツをつかもうと夢中になっていて急に落下したりすることが少ない。心の持ち方で飛んでいるのは夢独特なものだと思わされもする。

 夢を見るのは楽しい。怖い夢や嫌な夢も多いけれど。

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