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Louder Than Words : DRAWING AND MANUAL Documentary Series vol.2 Masaki Miyamoto 後編 | 観ること、感じること

いわゆるマイノリティと呼ばれる人たちを撮影し、映像に映し出すことで光を当てることをライフワークとしている宮本正樹の仕事について訊く、DRAWING AND MANUAL ドキュメンタリーシリーズ 第二弾、後編です。

(前編はこちら)


クライアントワークからプライベートワークへ

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宮本は、クライアントワークにおいては監督だけではなく、取材や事前交渉、ロケーションコーデディネートからスタッフィングまで、いわゆる「制作業務」全般を行う希有な監督である。その分、クライアントワークは最小限のチームとなり、機動性に富むが、一方で案件が積み重なっていくと、宮本のリソースが圧迫される。けれど制作業務もできる監督という特色が差別化にもなると思い、自分のやりたい事をやるための糧にすべく細かい業務にも尽力して経験を積んだ。予算感も身につき、結果クライアントワークへの強みとなった。自ずと、プライベートワークにその強みは活きた。

"GREBNELLAW"

宮本の最近のプライベートワークのひとつ、スウェーデンのLGBTQダンスパフォーマンス集団「Grebnellaw」の来日時のドキュメンタリー。新宿二丁目fancyHIM、そして鶯谷にある東京キネマ倶楽部で行われているマンスリーフェティッシュイベントDepartment H、新宿歌舞伎町「Golden Egg」への出演や中目黒でのゲリラパフォーマンスの撮影、そして彼らの滞在生活にも密着した。

「fancyHIMのPR映像制作のお手伝いをしていた関係で、彼らを紹介してもらいました。Grebnellawの活動コンセプトはキャピタリズム (資本主義)に対するアンチテーゼで、LGBTQ差別や消費社会がもたらす弊害など、現代に蔓延る社会問題への警笛を鳴らす目的で活動しているグループ。コアメンバーは二人だけなのですが、彼らの活動にインスパイアされたパフォーマーが各地で参加してメンバーが増えるというのも面白いと思いました」

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ありのままを撮影編集しているだけのようで、リサーチも構成もしっかりつくり込み作品の柱としている宮本の映像。インタビューは被写体から自然に出てくる言葉を大切にする。伝えたいことはいつも当事者のものであるという意識の現れが窺える。

「クライアントワークでは伝えたいことが予めわかっているので、ビジュアルでの表現、演出に力を注げる。プライベートワークではリサーチに力を入れながらも自ら方向性を決め、現場でしか見えてこない真実を大切に自由度の高い構成で映像づくりができる。演出、構成どちらもバランスをとりながら、プライベートワークとクライアントワークをどんどん近づけていきたい。そう思ってどちらも頑張っています」

コロナ禍では相次ぐ興行中止に加え、緊急事態宣言でフィットネストレーニングでのトレーナーの仕事もなくなり収入が途絶えたボクサー、永田大士のタイトルマッチまでの奮闘を追いかけた。

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(追記:7月20日、新型コロナウイルスの影響で実に2月27日以来の興行となった後楽園ホールにて無観客で行われたタイトルマッチで念願のタイトル初奪取を成し遂げ、日本チャンピオンとなった。この映像はただいま絶賛編集中、後日公開予定です)

新型コロナウイルス感染を警戒する永田選手には一定の距離を保って撮影する必要があった為、SonyのG Master ズームレンズを使用。GMレンズは解像感と美しいボケ味を両立したレンズ。被写体に近寄ることなく単焦点のような雰囲気のある画が撮れ、Sony FX9と組み合わせると精度の高いオートフォーカスで被写体を追え、俊敏なアスリートの動きにもついていくことができた。


様々な問題を追いかけ映像にしながら、国内外のニュースサイトにアプローチしたいと語る宮本が、常に興味を持っているのは「移民問題」。日本では年間1万人以上の移民申請があるにもかかわらず、受け入れはわずか1割満たない。環境問題・紛争などで増え続ける世界の移民に対し、日本は硬く扉を閉ざし続けている。

「米国留学中にベトナム戦争時に難民としてアメリカに来たモン民族のクラスメートがいました。彼らとの関わりを通して、祖国を失うことの辛さ、新天地で生きることの厳しい現実を知りました。現在日本で行われているNPOの取り組みや、技能実習生の実態など、移民を取り巻く現状を伝えたい。映像を通して考えるきっかけがつくることができたら」

百聞は一見にしかず。映像の本質はきっと、言葉では伝わりきらない部分を訴えることなんだと思う。社会の片隅で、ひっそりと存在してる問題たちに、光を当て続ける。一人でも多くの人が映像を見てそこに潜む問題を感じてくれたら。幸か不幸か、追いかけるべきネタが尽きることはそうそうなさそうだ。

最後に、宮本の思う「いいドキュメンタリー」について訊いた。
「3つあって、ひとつめは当事者が語っているストーリー。それからナレーションや説明的要素が極力減らされた余白のある作品。あとは映像的な質感。映像が綺麗に撮られているのは必須だと思います」


宮本正樹 おすすめドキュメンタリー映像

映画編

Rize
2005年製作/アメリカ
麻薬事件や暴力、銃が蔓延するL.A.サウス・セントラルで、ダンスに情熱を捧げるストリート・ダンサーたちを圧倒的な躍動感で映像におさめたドキュメンタリー。監督は世界的ファッション・フォトグラファーのデヴィッド・ラシャペル。


American Factory
2019製作/アメリカ
かつてゼネラルモーターズのプラントであり、現在は中国企業のフーヤオが所有するオハイオ州デイトン・モレーンの工場を題材としたドキュメンタリー映画。バラク・オバマとミシェル・オバマの製作会社であるハイヤー・グラウンド・プロダクションズの第1作であり、2019年度アカデミー賞長編ドキュメンタリー賞を受賞。


「ヤング・ヤクザ」(原題:Young Yakuza Documentaire)
2016製作/フランス
フランスのジャン=ピエール・リモザン監督が指定暴力団・稲川会系碑文谷一家熊谷組に密着した異色ドキュメンタリー映画


番組編

Hotel 22 | Op-Docs | The New York Times (2015)
Directed by Elizabeth Lo

シリコンバレーにある24時間バスを寝床にするホームレスを映すドキュメンタリー映像。


Teenage Heroin Epidemic | VICE


商業・広告編

監督:柘植泰人
Me and Honda ×クリープハイプ「ゆっくり行こう」MUSIC VIDEO


監督:岩下力
岩下監督作品 ① ポカリガチダンスFES・ドキュメンタリー


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