見出し画像

パリで起きた奇跡の話

Written SNS team Maoko

2019年12月、高校生の頃からの気のおけない友人とパリ旅行に出た。

前半はモンパルナスに、後半はバスティーユ広場の近くの、それぞれローカル感溢れるアパルトマンにAirbnbした。

一緒に旅をした友人は、1年前私が紹介した原田マハさんの最新刊「ロマンシエ」をパリに持ってきた。
この小説は、なんでもパリが舞台だそうだ。
彼女が本を読んでいるバスルームからいう。

"ロマンシエに出てくるリトグラフ工房、実際にモンパルナスにあるらしいよ!"

ヘ〜そうなんだ。今私たちが泊まってるエリアだけれど、まだ小説を読んでないのでなんとなく流す。

ところで、私達は毎日、こだわりのビストロやバーに出かけた。
東京の友人や知り合いから聞いた、今行くべきお店や、
以前のパリ旅行でいってよかったお店に毎晩出かけては、たらふく食べて飲んで、
例年よりずいぶん温かい2019年12月のパリの空の下、アパルトマンに帰宅した。

その日は、予約必須のフレンチビストロMaisonが、
キャンセル待ち繰り上げで予約できたと朗報が入り、ランチに出かけた。
http://www.maison-sota.com/


恵比寿で行きつけのナチュールワインバーWaltzのオーナーや同じくエビスのナチュール酒屋3Amoursの久保田さんから、
今パリで一番行くべき!とおすすめされたお店だ。
若き鬼才と呼ばれて久しいミレニアル世代の日本人シェフが前年にオープンしたばかりだという。

(Maisonはパリでも珍しい一軒家のビストロ。吹き抜けの天井から降り注ぐ冬の太陽がワイングラスに反射して美しい。理想の物件が見つかるまで1年近くかかったらしい。こちらが毎日発行されるメニューブック)

画像1




シェフは35歳くらいの渥美康太さん。同じ歳くらいの奥様も店頭で接客をしたりReceptionでテキパキとお仕事をされている。

人見知りをしない私たちは、喉をさらさらと流れていくナチュールワインの勢いも手伝って、奥様に話しかけた。

普段はアート系のお仕事をしていて、忙しい時はお店を手伝ってるらしい。

さすが今一番予約が取れないとも言われているMaison。
トラディショナルで繊細なフレンチと美味しいワインに舌鼓。

渥美シェフと記念写真を撮ってもらったり、奥様と世間話して、楽しい時間を過ごした。

画像3



そして旅から帰る時、友人が小説を読み終わったというので、その小説「ロマンシエ」を借りることにした。

12月25日から私は「ロマンシエ」を読み始めた。
すると小さな奇跡が重なり始めた。

ロマンシエのストーリーは、日本人のゲイの男の子で大物政治家の息子である遠明寺美智之輔が、美大卒業後、同級生の男の子への恋心を秘めたままパリに渡り、学校に通いながらカフェでバイトをしつつ自分探しをする中で、常連さんの日本人小説家(男性っぽい名前だが実は女性)を通じてリトグラフを知り、実際にモンパルナスにあるリトグラフ工房に関わっていく話。
リトグラフ工房で働いている日本人のさきちゃんという女の子が、
主人公の男の子との親友にもなり恋のライバルにもなる。
*リトグラフとは超絶簡単にいうと版画の手法をとった伝統的な絵の手法です


まず、主人公たちが小説の序盤で、仲間の送別会の場として集まる店がMaison。

わお!私たちその店行ったよね。
やっぱり小説に出てくるほど、パリでヒップなんだ。

そして読み進めていき、順調に読み終えたのが12月31日。

原田マハさんらしい、善的な登場人物たちと、爽やかな物語展開、人々の成長や冒険が心地よく、幸せな気持ちになった。2019年の最後にいい本に出会えたなぁ。

なんて思っていた。


後書きまで読もうと小説の最後まで読むと、"Special Thanks"という欄があった。

ふと目を落とすと、上から2番目に、

Special thanks for 渥美明子と出てきた。

渥美?パリが舞台の物語で、渥美??
パリの渥美といえば。。。渥美シェフ?!

ビビッときた私は早速ググる。
"渥美明子"
どうもこの渥美明子さんという女性は、渋谷ラジオに時々出ているらしい。
収録の写真はどう見ても、私たちがMaisonで話した渥美シェフの奥様である。
あの奥様が何か関わってるんだ。
確かにアート系の仕事してるって言ってたもんね。
小説に関わった人とパリで会えるなんてラッキー。というか感動。

そして後書きを読んでいくと、衝撃の事実が。

主人公である遠明寺美智之輔の親友であり恋のライバルである、リトグラフ工房のさきちゃんのモデルが…

なんと渥美明子さんだったのだ。

自然と目がちょっと潤む。あのさきちゃんが、あの明子さん?

感情移入するような小説のキャラクターの元となった人と直接話したことは、言葉では表せない感動がある。

そして最後のとどめは。。。

東京ステーションギャラリーの館長による後書きだ。


実はこのリトグラフ工房の作品を展示するリトグラフ展を、
原田マハ自ら持ち込みで、東京ステーションギャラリーに連絡したそう。

作品の内容や考えに共感した館長は、
なんとか東京ステーションギャラリーでの開催に奔走するが、
急に決まった案件で、東京ステーションギャラリーでは2年先まで空きがない。

しかし急遽キャンセルになる展示が出る。

そこで、今度は逆に、開催まで1年という間にリトグラフ展の開催が決まる。

1年しかないとなると協賛でもない限り実施はできないものらしい。
でも1年後の展示に今から協賛する企業はなかなかない。


そこで手をあげたのが株式会社資生堂だった。

資生堂の協賛によって、
このリトグラフ展は無事、2015年12月から展示することができたのだ。
https://www.ejrcf.or.jp/gallery/exhibition/201512_idem.html

資生堂は、日本において戦前から「宣伝部」を銀座に持ち、
化粧品の処方と同じくらい意匠を大事にしてきた会社。
戦時中は華美なパッケージや広告は禁止され宣伝部の活動はほぼ止まっていたものの、戦争が終わると、いち早く、東京に華やかな広告や商品をもたらし、美容部員と呼ばれる、自立した女性に対して仕事を作り出し、戦後の暗い時代に明るさを灯した会社である。

そして、資生堂は私が期待を胸に、新しい仕事の場として、
2020年1月1日から働き始める会社でもあった。

転職によるちょっとした不安も、この協賛という話によって払拭された。

私が感動し、縁を感じ、幸せな気持ちになった一連のリトグラフ工房にまつわる物語を支援した企業で働くことが誇らしいと思った。


そして物語は終わらない。私はこの一連の出来事をInstagramに投稿した。

最後に締め括った言葉は、

協賛に入った唯一の会社は、私が1月から期待と夢を抱いて入社する会社でした

すると数日後、その投稿にコメントがついた。


渥美明子です。素敵な投稿ありがとうございます。
その会社は私が日本にいたら一番行きたかった会社です。
パリにいらしたら、
またMaisonやidem(リトグラフ工房)に遊びに来てくださいね。


Oh my。

明子さんからコメントが来たことも予想外だったし、何より、
明子さんも資生堂に行きたいと思っていたことがまた縁だと思った。

資生堂のクリエイティブ本部(旧宣伝部)は、コピーライターやアートディレクターの中には美大出身の人などもいる。

きっと何かの縁で、明子さんは資生堂ではなく、パリのリトグラフ工房で働いて、天才シェフの旦那様と暮らしている。


一方の私も私はきっと何かの縁で、回り回って資生堂にたどり着き、2019年12月のパリを旅して、Maisonを訪れ、明子さんと話し、ロマンシエを読み、Instaにポストし、明子さんにまたつながった。

もしかしたら私たちは同じ会社で働いていたかもしれない。

でもそうじゃない中で繋がったことの方が奇跡である。


原田マハが好きで、似た感性の友人がいて、パリ旅行をして、
ナチュラルワインが好きで、
3 amoursのシェフやWaltzのオーナーにおすすめされたMaisonに挑戦して、
Maisonの予約は一度取れなかったけど、
キャンセル待ちが繰り上がる小さな奇跡が起きて、
人と躊躇なく喋る性格の私たちだから、渥美シェフや奥様と話す機会があって、
変なところは頭の回転が早い私だから、
「パリ 渥美」というお名前だけでピンときてぐぐっちゃったりして、
状況を読み解くうちにパリと現在がつながって、
それをSNSで表現したことで渥美明子さんに伝わって。

感性というのは、毎日毎日のちょっとした出来事、学び(例えばつまらないと感じた美術の授業だって、習字だって、音楽だって、歴史だって)、出会い(例えば暇すぎる大学生の頃の夏の夜中に見たB級映画とか、ふらっと立ち寄った本屋さんでお勧めされていた小説とか、チケットをもらって行った舞台とかライブとか)などから、少しずつ少しずつ、育てられていくもの。

そうして育ってきた小さな感性の塊が、この出会い、この気づき、この奇跡を呼び寄せたと思う。

こんな喜びがあるから人生は、生きていることは、幸福だと思う。

幸福な人生を送りたいなら、小さな感性を磨き続け、誰とも変えることができない私だけの喜びに気づくことが大事だなぁと改めて2020年。

Dramatic Diningでは、皆様の感性がずっと輝き続けることを心から願い、来場してくださったお客様の感性がさらに磨かれる体験の一つになればと考えています。

2020年11月21日、22日、浅草見番でお待ちしております。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?