★極道学園(545)

千葉医師が「親分、そろそろ退院しますか?」と聞いてきた。これは俺一人では判断できない。外に出ればまた襲われる可能性があるからだ。

海上病院は見舞いの親族でさえ入口で指紋による判定があり、セキュリティチェックがたいへん厳しく刺客は病院内への侵入がかなり困難、しかし俺が外に出れば狙い撃ちできるチャンスが無限大に増える。それを防ぐために以前より護衛を増やしたい、太田はきっとそのように考える。俺みたいな年寄りを守るために組の貴重な戦力を三人、五人と使うのは全くもったいない。

俺はそのように考え、しばらく病院暮らしを続けることにした。だいぶ身体が動くようになったので厨房に行きサトジュンの調理補助を行う。

病院食は患者によりメニューが異なるため配膳前にお盆を一つ一つチェックする。一人がその患者のメニューを読み上げ、もう一人が実物を目視確認だ。それを200人分、朝昼晩の三回やるのだ。かなり面倒な作業だ。もし提供内容を間違えば看護部から厳しい叱責がある。

なお、俺や工藤組長は食事制限がないため、昼過ぎになるとサトジュンが病室に来て「親分、今日の晩御飯は何にしますか?」とニコニコ笑いながら聞く。俺は工藤組長と相談し、じゃあ、うなぎ、とか答える。全く贅沢なものだ。

相変わらず慶子は連日見舞いに来てくれて、俺の雑談相手になってくれる。酒は禁止されていないため、一緒に船内の従業員専用ラウンジで酒を飲むこともある。カラオケルームもある。最近は相川七瀬の「夢見る少女じゃいられない」を歌っている。

慶子の株取引は相変わらず順調でかなりの利益を出している。世の中、企業情報があふれかえっていて、その企業の今後の業績については様々な予想がある。その中から慶子が納得できる道筋を見つけて、それに賭けるわけである。

慶子は相変わらず日本企業に対して厳しい見方をしている。国内はベンチャー企業がそもそも少なく、企業経営者の勇気が萎んでいる。どんどん縮小する国内マーケットで小さなパイの奪い合いをしているのだ。

なので慶子は日本国内の企業一割、中国など海外の企業九割という割合で投資を行っている。中国は現在、国内の不動産価値の減少などもあり、国民の消費マインドが冷えてきたので、内需中心にやっている企業は売上減に苦しんでいる。しかし、電気自動車などで世界を席巻しようと考える経営者がたくさんいるのだ。

結局はハイリスク・ハイリターンなのである。死を覚悟して誰も航海したことがないルートを進み、新しい大陸を発見して、母国に多大な利益をもたらした冒険者たち。まさにベンチャーである。そのような勇者が中国にはたくさんいるのだ。

一方の日本はこじんまりとした、器の小さい経営者が多く、年商20億程度で満足して渋谷、六本木で毎晩飲み歩く小物社長がたくさんいる。

GDPではドイツに抜かれ、もうすぐインドにも抜かれるだろう。かつての経済大国Japanは経済老国になってしまった。孫正義、ユニクロの柳井など、大きな絵を書ける経営者が少ないのでこれは当然の結果である。トヨタも中国メーカーの台頭により今後はかなり苦労するであろう。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?