★国語教師(30)

知能発達、発想力強化のためには読書だけではダメ、旅が必要、それは僕の授業の活性化に役立つと感じたので五人の息子を全て睦美に押し付けるのはたいへんな抵抗感がありましたが月に一度、土日を利用して行ける範囲で旅行することにしました。

僕には学生時代から貯めこんだわずかな貯金がありました。しかし睦美はちゃんと僕のために旅費を準備してくれました。彼女が会社員時代に貯めた1500万円があるのです。これは子供の学費用に貯金していたのですが睦美はそのお金の一部を出してくれました。

「これはリュウ君への投資である」と睦美は重々しく言いました。(笑)

僕はまず、佐渡島に行きました。以前ゆかり先生から佐渡島の話を聞いてぜひ行ってみたいと思っていたんですよ。

家の近所でレンタカーを借りて深夜に都内を出発、関越道を北上して早朝、新潟港からフェリーに乗り昼過ぎに佐渡島に到着しました。

島内あちこちを走り回り、夜は浜辺に行き、車の中で寝ました。ふだん東京にいると海岸付近には滅多に行きませんので四方を海に囲まれた佐渡島はとても新鮮でしたね。高層ビルがほとんどないことにも非日常感を覚えました。

翌日も早朝から車で島内を走り回り、昼過ぎにフェリーに乗船し、夕刻、新潟港に着きました。そして夜遅く、都内に到着しました。かなりハードな旅で僕は疲れ果てました。(笑)

東京の住人から見て佐渡島一泊二日は距離的にかなり厳しいな、という感想です。しかし、この感想は実際にやってみて初めて分かったことですので、それなりに貴重な体験です。僕の身体が覚えたんですよ、東京から佐渡島一泊二日はけっこうキツいよ、と。島で観光する時間が圧倒的に足りません。

僕は生徒たちに佐渡島の話をしました。二年生200人の中で佐渡島に行ったことがある生徒は三人でした。佐渡島にはマックやスタバがないんだよー、と言ったら生徒たちは驚いてましたね。電車もないし、ユニクロもない。

ゆかり先生はスキューバダイビングをするために何度も佐渡島に行っているのです。ゆかり先生が「もし時間があったら長三郎寿司に行ってみて」と教えてくれました。地元でかなり有名な店のようです。僕は二日目、フェリーに乗る前に長三郎さんに行き、寿司を食べました。メニュー表を見て驚きましたよ。寿司だけではなく、ラーメン、カレーライス、とんかつまであるんです。少々奇妙な店ですが味は文句なしでしたね。

生徒からいろんな質問を受けました。なぜそのような不便な場所に行ったのですか?と。

僕は正直に答えました。東京の人はさ、速くしゃべる、速く歩く。TimeイズMoneyだ。

でもね、佐渡島は全てがゆっくりしているんだよ。満員電車なし、人混みなし、昭和初期の、写真でしか見たことがないような古い住宅が今も残っている。本州より何十年か時計が遅れてるような気がした、それが意外と心地好かったと。たまに田舎が恋しくなるのは歳をとった証拠。なお、生徒の中で、僕の話を聞いて佐渡島に旅立つ子は皆無だと思いますよ。(笑)  

沢木耕太郎の深夜特急みたいなドラマチックな話ができればいいんですが、僕はまだまだ人間が浅いから、当然ながら話に深みがありません。これから徐々に自分を耕していけばいいんじゃないですか。

湯川先生が僕の授業を見学して、「リュウ君の授業は年々面白みが増している」と褒めてくれました。しかしこの言葉を聞いて油断するのはよくありません。何故ならいまだかつて、湯川先生が他者の何かを否定したことは一度もないからです。

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