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2040年「仕事とキャリア」年表を見て,人生のビジョンについて思案する

リンダ・グラットンの「ワーク・シフト」には,これからの時代には「働き方をシフトする」ことが必要だと書かれている.それは特定の国で必要になるということではなく,世界的にそうなるということだ.本書では,対象を日本に絞り込み,先進国(特にアメリカ)と比較して日本の特殊性を指摘しつつ,これからの時代を生きていかなければならない日本人がどのように仕事をしていくべきか,どのようなキャリアを考えるべきかについて,国際経営コンサルタントでありかつ弁護士でもある著者の見解を述べている.

2040年 「仕事とキャリア」年表
植田統,三笠書房,2022

成長している国にいれば,あるいは成長している分野にいれば,どのような仕事をしていようが,それなりに成長の恩恵に浴することができて,生活していける.しかし,日本はそうでない.世界に類を見ない成長しない国になっており,物価は上がっても賃金は上がらない.少子高齢化が急速に進み,年金制度は破綻しつつあるにもかかわらず,それに対応しようという真剣さは政治になく,挽回の兆しは見えない.そのような状況で,自分を守るためにどうすべきかという話だ.

ちなみに,リンダ・グラットンは,「ワーク・シフト」において,働き方における3つのシフトが必要であると指摘している.

第一のシフト:ゼネラリストから「連続スペシャリスト」へ
第二のシフト:孤独な競争から「協力して起こすイノベーション」へ
第三のシフト:大量消費から「情熱を傾けられる経験」へ

「ワーク・シフト」も出版されて10年が経つ.その間,日本は成長できないままで,猛烈な勢いで貧乏になっている.自分の身は自分で守らないといけない.

3つのシフトの中では,第一のシフトが,本書「2040年「仕事とキャリア」年表」でも取り上げられている.知識や技能を継続的にアップデートしていかないと,不要な人材になってしまうというわけだ.

本書で繰り返し述べられているのは,就職や転職をするなら,外国に行くか,国内に留まるなら外資系企業に行けということだ.

日本の旧態依然とした企業は年功序列を基盤とした「メンバーシップ型雇用」を続けており,社内でしか使い途のないようなゼネラリストを育成している.経営者は,その結果として出来上がった高給取りだが使えない高齢者をすぐにでも辞めさせたいと考えている.もはや,破綻しているとしか言いようがない.そんな会社に就職していいわけないだろうということだ.

日本型雇用の対極にあるのが「ジョブ型雇用」であり,変わることができる日本企業はジョブ型雇用に切り替えていくとされる.そうすると,労働者は自分の専門家としての能力を高めることに力を注ぐようになり,より良い条件(給料等)を提示する企業への転職はあたりまえに行われるようになる.終身雇用,年功序列,新卒一括採用などは過去の遺物になる.そのような社会の変化に対応していくためにも,自分の専門家としての能力を高めるためにも,変われそうにない日本企業はサッサと見限るべきでしょうというわけだ.

著者が示している年表(帯に書かれている)を挙げておこう.

2025年 「大リストラ時代」の幕開け
2029年 若手社員の「転職」が激増
2031年 サラリーマン「超格差社会」の到来
2037年 日本企業から「若手社員」が大量流出!?
2039年 ついに年金崩壊!? 「生涯現役」の時代へ
そして2043年ーー日本から「サラリーマン消滅」!?

もちろん,著者が予測した年に予測したことが起こるわけではない.当たるか当たらないかが大事なのではない.その背景にある社会の変化を把握して,しっかりと対応し,自分が希望するように生きることが大切だ.

まず,2025年だが,団塊ジュニア世代(1971-1974年生まれ)が50歳代になると,企業はその負担に耐えられなくなる.このため,人件費削減を目的とする大リストラが起こる.

再就職(転職)を目指す労働者は,必要とされるスキルを身に付けなければならない.そこで,学び直しがブームになる.リンダ・グラットンが指摘したことでもあるし,もっと以前からピーター・ドラッカーなどは学び直しの重要性をずっと言い続けてきた.それが猶予なしに必要になる.解雇か勉強かだ.

2029年には,ジョブ型雇用が増え,外資系企業のように転職すると給与が上がるようになり,というか,企業が価値ある人材にはそれに見合う給料を払うようになり(そうしなければ生き残れないから),スキルアップする能力のある若手社員の転職が激増する.

こうして,2031年には,サラリーマンの超格差社会が到来する.

日本企業でも,外国人や女性の社長/CEOが大きく増える.企業が生き残るためには,それが必要だからだ.

変われない日本企業は若手社員から見放され,2037年には,日本企業から若手社員が大量流出する.

2039年には年金制度が崩壊し,年金では生活できず,生涯現役時代に突入する.生涯現役と言えば聞こえはいいが,真面目に仕事をしてきたというだけでは,定年を迎えて年金等で生活するということが不可能になるということだ.働き続けるか,他の方法で稼ぐかだ.

企業に守られて生きるという考えはなくなり,一念発起してスタートアップ企業を創る人が増える.自分に投資をして,自分に付加価値を付けて,自分をマーケティングして,自分を商品として売る人が増える.

こうして,2043年には,日本からサラリーマンが消滅する.

ザッとこんな具合だ.

本書で著者が描く未来像を信じても信じなくてもいいが,自分なりの未来像を描いて,そこでどのように生きていくかを考えておいた方が良いだろう.そこで,ビジョンを持つことが重要になる.そして,ビジョンに向かってとにかく行動することが重要になる.実際に行動を起こせる人は少ない.だからこそ,行動を起こすことのインパクトは大きい.

私は毎年,担当講義の中で,将来の夢は何か,何をしたいか,そのためには何が必要か,そのために今何をしているか,と学部生に問いかけている.正解があるわけではないし,そんなことを考える必要はないと判断するのも自由だ.ただ,こういうことを考えるキッカケがないままに,大学に進学し,大学生活を過ごしている学生もいるのではないか.海外に留学する将来や海外で働く将来を具体的に思い描いている学生もいるが,一方で,そのような可能性についてまったく考えたことがない学生もいるかもしれない.そういう学生に,とりあえず1回は,考えるキッカケを持って欲しいと思っている.その後は本人次第だ.

© 2022 Manabu KANO.

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