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自転車用ヘルメットの寿命を再確認

壊れたら買い換えるという作戦が適用できるものは寿命を気にしなくていい.壊れるまで使えばいいのだから.しかし,ヘルメットの場合,事故に遭って役立たずだったことを確認してから買い換えるというわけにはいかない.「お前はもう死んでいる」となってしまっては手遅れだ.そうかと言って,毎年訳もなく買い換えるほど,お金を出したいと思える対象でもない.そのため,自転車用ヘルメットの寿命を知りたい.

誰しも似たようなことを考えるようで,「ロードバイク」「ヘルメット」「寿命」といったキーワードでググると,多くのウェブページがヒットする.そして,そのほとんどが「寿命は3年」と書いている.

素材の劣化が云々など色々書かれているが,まともな根拠を示しているページはあまりない.恐らく,ほとんどのページは頭を使わずコピペで作られているのだろう.

SGマーク制度

根拠が書かれているページを探していると,一般財団法人製品安全協会の「SGマーク制度」に辿り着く.

「SGマーク制度」は安全基準・製品認証・事故賠償が一体となった世界的にも類を見ない制度です。具体的には、
1.消費生活用製品の安全性品質・使用上の注意事項等に関する基準(SG基準)の策定​
2.SG基準に基づく認証及び認証済み製品への表示(SGマーク)の許可
3.SGマーク付き製品の欠陥による人身事故に対する賠償措置の実施
です。

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自転車用ヘルメットの寿命が3年だとされる理由は,この3番目「SGマーク付き製品の欠陥による人身事故に対する賠償措置の実施」にある.実際,SGマーク制度認証の手続き書<自転車等用ヘルメット>(2020/6/10改正)を読むと,その22ページに,↓のような記載がある.

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世間でなんとなく自転車用ヘルメットの寿命が3年だとされているのは,SGマーク制度による賠償の有効期限が3年だからだ.しかし,これは「表示の有効期限」であって「製品の寿命」ではない.一般財団法人製品安全協会が自転車用ヘルメットの寿命は3年だと主張しているわけでもない.

しかも,その賠償は「SGマーク付き製品の欠陥による人身事故に対する賠償」なのであって,欠陥のないヘルメットをしていて人身事故に遭ったときに何か賠償してもらえるわけではない.

それに,これは日本国内の制度である.外国のサイクリストには関係ない.というわけで,3年を寿命とする根拠にはならない.

自転車用ヘルメットの寿命

では,自転車用ヘルメットの寿命は何年なのか?

そもそも,「ロードバイク」「ヘルメット」「寿命」といったキーワードでググるから,日本ローカルのコピペページばかりがヒットするのだ.気を取り直して,"roadbike",”helmet”,”life”をキーワードにしてググる.

以下に,非営利団体やヘルメットメーカーの主張をまとめる.

自転車用ヘルメットに関する情報提供を目的とした非営利団体 Bicycle Helmet Safety Institute は,2015年に行われた"MEA Forensic study"のデータを引用して,使用済みだがクラッシュしていないヘルメットのフォームライナーは何年(many years)にもわたって性能を維持したとしている.

ヘルメットの安全基準の研究・教育・試験・開発を目的とした非営利団体 Snell Foundation は,ヘアオイル,化粧品,体液に加えて,通常使用時の摩耗や破損などがいずれもヘルメットの劣化原因となることを指摘しつつ,技術革新によってヘルメットの安全性は時間と共に顕著に向上することから,5年ごとの交換を推奨している.

ヘルメットメーカーの Met は,安全余裕をみて,5年ごとの交換を推奨している.

That’s not to say the helmet will automatically be unsafe after five years, but as manufacturer we have to advise the customer: a helmet is a safety device and you really need to take care of it and change it in case of doubt. So we take this safety margin and advise you to change your helmet after five years of use.

ヘルメットメーカーの GIRO は,ヘルメットの劣化と技術向上を踏まえて,使用状況により3〜5年ごとの交換を推奨している.

We make a general recommendation that you replace your helmet every three to five years depending on use and handling. This is based on observation of the average user and factors like wear over time, weather, handling, the potential for degradation from personal care products like sunscreen or bug spray, and the simple fact that helmet technology does improve over time.

というわけなので,3年というのはかなり安全寄りの推定寿命で,衝撃を与えたりせず,丁寧に扱っていれば,自転車用ヘルメットの寿命は5年と考えて良さそうだ.なるべくヘルメットを売りたい(交換周期を短くする動機付けがある)メーカーが5年と言っているのだから.

自転車用ヘルメットを長く使うために

自転車用ヘルメットの寿命を延ばすためには,とにかく衝撃を与えないことが重要になる.自動車に自転車を積載して移動する場合,ヘルメットを衝撃吸収性のある袋に入れておくといいだろう.

また,ヘルメットの素材は石油系の溶剤や洗浄剤によってダメージを受けるので,それらを使ってはいけない.汚れを落としたい場合には,柔らかい布やスポンジ,ぬるま湯,食器用石鹸などを使って洗浄することが推奨されている.紫外線も劣化の原因になるので,ヘルメットの保管には,陽に当たらず,涼しく乾燥した場所がよいそうだ.

結論

2016年4月にRIDLEY FENIX SLに乗り出したとき,ほぼ同時に購入したヘルメットが KASK MOJITO だ.自転車とはいえ,時速50kmくらいで走るときもあるわけで,自分の身を守る道具としてヘルメットは超重要なので,そこそこ良いものを購入したつもりだ.

それから4年経った.そろそろ新しいヘルメットに買い換える必要があるかと思い,ネットで情報を集めた結果をまとめたのが,今回の記事だ.自転車用ヘルメットの寿命は3年だと書いているウェブページが多かったが,そのほとんどは何の根拠も示していないため,信用できない.結局,日本では,SGマーク制度の影響力が大きいことが判明したが,SGマークが3年としているのは賠償期間であってヘルメットの寿命ではない.

ヘルメットの安全性を取り扱っている非営利団体やヘルメットメーカーの主張を調べてみると,普通に扱っていれば,自転車用ヘルメットは5年ごとに買い換えればよいことがわかった.

というわけで,新しいヘルメットは来年買うつもりだ.

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© 2020 Manabu KANO.

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