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大学・大学院・教育・研究のあれこれ

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記事一覧

研究室紹介(2):製造技術,人工知能,医療・ヘルスケア

研究室紹介のつづき.主な研究内容について述べる. 産業界の課題を解決するここまでに述べてきたような思考やフレームワークを用いて,私自身はデータ活用を推進してきた.ここでは,研究成果の一部を紹介する. 製剤関連では,第一三共株式会社と共同で実施してきた一連の研究がある.最初に取り組んだのは,プロセス解析工学(PAT)の研究開発である.私がこの分野に入り込んだ当初,あちこちの国際会議で,ポテトチップスの写真を見せられ,なんと自虐的な集団なのだろうと思った.共同研究では,近赤外

研究室紹介(3):システム工学思考で課題を解決する

研究室紹介のつづき.これが最後. スーパー安納いもプロジェクトを推進する医療だけでなく,農業分野にもシステム工学的アプローチを展開している.対象としている農産物は極めて限定的で,種子島産の安納いもである.サツマイモの一種である安納いもは,ねっとりとした食感と強い甘味が特徴で,焼き芋や天ぷらにすると美味しく,スナック菓子や惣菜パンにも使われており,全国的に人気である.しかし,現状の抜き取り検査による品質保証は十分な水準にはなく,競合する新品種も次々に現れていることから,生産農

研究室紹介(1):課題解決型の応用研究を志す

京都大学大学院情報学研究科にある研究室(ヒューマンシステム論分野)の紹介をしてみる.研究室の公式ウェブサイトをまったく更新していないのだけれども,ある学会から研究室紹介記事を書くようにとの依頼があって,意を決して書いたので,その原稿を編集した内容をここに残しておくことにする. 課題解決型の応用研究を志す私が大学院修士課程に在学していたとき,橋本伊織先生(当時の教授)から「加納君,基礎研究の対極は応用研究か?」と尋ねられた.私は「そりゃそうでしょ」と思った. 研究には基礎研

海外出張で地獄を見た事件

大学教員として地獄を見た.その事件からちょうど1ヶ月が経ったので,記録に残しておく.大学の教員や学生の参考になればと思う. 2023年8月中旬,制御工学応用の国際会議 IEEE CCTA に参加するため,バルバドスに滞在した.修士課程の学生1名と私自身がそれぞれ研究発表を行い,カリブ海リゾートの島国バルバドスを大いに楽しみ,充実した日々を過ごした.帰国日までは... 学生のビザの関係で,学生と私は異なる航空会社を利用した.学生はアメリカン航空,私はエア・カナダだ.ホテルも

機内食の事前予約はいいぞ フードロスも減らせるだろう

今回のシドニー出張で初めて「機内食の事前予約」を利用してみたのだけど,機内メニューにはない料理も注文できるし,フードロス削減に貢献している感もあるし,良いことしかなかった.航空会社は「機内食の事前予約」をもっと強く乗客に勧めたらいいのにと思った. コロナ禍期間を除くと,年に3回くらいの頻度で海外出張をしてきた.なのに,これまで機内食を事前予約したことがなかった.今回,シドニー滞在中に機内食事前予約サービスがたまたま目に入ったので,利用してみることにした. 帰国するために搭

「大規模言語モデルは新たな知能か」の前に,LLMの凄さの秘密を問いたい

ChatGPTが世界を変えた,そして変え続けているのは確かだろう.あの流暢な文章生成能力,間違えながらも何にでも回答する能力,他のサービスと連携することで際限なく拡張できる能力など,とんでもなく凄まじい. 昨日(2023/7/21),私が企画担当の1人であった某研究会で,国立情報研究所所長(京都大学教授)の黒橋先生に大規模言語モデルの現状,仕組み,将来について講演していただいた.講演後の質疑応答とその後の討論会では,黒橋先生が質問攻めにあわれていた.皆,とても強い興味を持っ

「ANTHRO VISION」人類学的思考法を身に付けるともっと強くなれる

大いに学ぶものがあった.新しいモノの見方を与えてくれる素晴らしい本だ.社会人類学で学位を取り,Financial Times誌の米国編集委員会委員長を務める著者が,人類学を通して身に付けた観察方法や思考方法,物事へのアプローチの仕方が,ビジネスの世界でいかに役立つかを,豊富な興味深い事例と共に解説している. 日本での事例も紹介されている.キットカットだ.世界中で食べられているキットカットだが,以前,日本では売上げが伸び悩んでいた.ネスレのグローバル本社の偉い人達にはその理由

備忘録:2023度の国際会議

2022年12月17日現在の情報.2023年度に自分が参加するかもしれない国際会議の情報をメモしておく.網羅性はないので注意を. 分野としては,プロセスシステム工学(Process Systems Engineering),化学工学(Chemical Engineering),制御工学(Control Engineering),機械学習(Machine Learning),データ解析(Data Analytics),自然言語処理(Natural Language Proce

人間と共生する,ちょうどいい「コンヴィヴィアル・テクノロジー」とは何か

Industry 4.0とかSociety 5.0とか何でもN.0と名付けてしまう軽薄さは気になるが,技術が段階的に発展してきたことを踏まえて,何とかN.0という言い方がされる.人間は自ら技術を発展させて,その技術を使ってきたわけだが,高度化した技術からはむしろ人間は疎外され,あるいは人間は技術に隷属してしまっているのではないか.そのような問題意識から,あるべき人間とテクノロジーの関係を模索するために,本書で取り上げられているのが「コンヴィヴィアリティ (Conviviali

脱炭素ビジネスで世界経済を動かす「グリーン・ジャイアント」が日本には存在しない

自分がカーボンニュートラル(CN)の勉強を始めたばかりの素人なので,内容を評価はできるわけではないのだが,よくまとまっていて読みやすい.この界隈の勉強をしようと思っている人が最初に読むには良い本だと思う. エネルギー業界において,20世紀は石油メジャーが世界経済を牛耳っていた.その代表格がエクソン・モービルだが,アメリカの地方電力会社であるネクステラ・エナジーがエクソン・モービルの時価総額を抜くという事態が起こった.2020年10月のことだ.ただの地方電力会社にすぎなかった

「カーボンニュートラル・プラットフォーマー」を読んで日本のCN戦略について考える

日本総合研究所の瀧口さんから名刺代わりに手渡しで本書「カーボンニュートラルプラットフォーマー」をいただいた.私自身,これまで環境やCNを主眼とする研究に取り組んできたわけではないし(研究成果に付随してCO2削減が達成されることはある),特に気にかけてきたわけでもない.ホテルの歯ブラシや髭剃りをなるべく使わないようにして,使ったら持ち帰って何度か使うようにするくらいだ. そんな私が恐らく初めて「カーボンニュートラル」についての本を読んだわけだが,まず,著者の熱い想いが伝わって

「バッタを倒しにアフリカへ」に研究の醍醐味を感じるー最高だった

無茶苦茶面白かった.以前から気になっていた本だが,ようやく読んだ.本の裏には,ホントは「バッタに喰われにアフリカへ」とある.確かに喰われに行ってたわ.その願望は残念ながら成就しなかったようだが...いや,これぞ白眉研究者だな.京大も良い仕事(研究者として雇用して研究費を出す)をしたものだ. 昆虫学者になりたくて,しかもバッタが大好きで,単身モーリタニアに乗り込んでサバクトビバッタの研究に打ち込む著者の前野ウルド浩太郎氏.誰々の子孫という意味を持つウルドというミドルネームは,

「大学は何処へ 未来への設計」で過去を学び未来を考える

この20年ほど改革を迫られ続けて今や疲弊の極みに達している,そして実際に論文数はガタ落ちになっている(それでも「改革が足りないからだ!」とか言えてしまう人達に囲まれている),日本の大学の将来を考える上で,まずは過去を知る必要がある.その観点から,とても勉強になった.というか,これまで知らなさすぎた. 著者である吉見俊哉氏は,現状を以下のように指摘している. では,1930年代以前はどうだったのか. 明治時代以降,旧制高等学校が,高等教育機関として,帝国大学を中心とする旧

[メモ]MacにPythonとJupyterLabをインストールする

使用中のMacBook ProでPythonを使うために,PythonとJupyterLabをインストールした.これまでJupyter Notebookしか使ったことがなく,JupyterLabは初めてになる.環境は以下の通り. macBook Pro (2021) Apple M1 Max macOS Mnterey 12.3.1 作業日 2022/5/9 作業手順は以下の通り. Homebrewのインストール(必要なら) pyenvのインストール(必要なら) p