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【極・短編小説】死んでも守るって言ったのに

腹部から大量に出血した男が横たわっている。
女は今まさに息絶えようとする男を抱きしめていた。

「ジョセフ! ジョセフ死なないで! 死んでも私を守るって言ったじゃない!! あなたが死んだら……あぁ……お願いっ」

泣きながら男に話しかける女。
その後ろから銃を手にした黒いコートの男が近づいてくる。
コートの男はニヤニヤとイヤらしい笑みを浮かべ女に話しかけた。

「こんな弱い護衛しか付けられないなんてガビス家も落ちたものですね」

女は貴族の娘であった。
彼女の一族は腐敗した王族に立ち向かおうとした。
しかし一族は皆粛清され、今、彼女だけとなってしまったのだ。
黒いコートの男が銃口を彼女の頭へと向ける。

「何か言い残すことは?」

「……」

彼女は男に返事を返さなかった。
護衛であり恋人でもあったジョセフを強く抱きしめる。
段々と生気がなくなっていくジョセフの身体をさらに強く抱きしめた。

「時間もないんだ。言い残すことがないなら、もうサヨナラだ」

コートの男が引き金を引こうとした瞬間。
ジョセフの身体が消えた。
彼女のジョセフを強く抱きしめていた腕が空を切り自身の脇にあたる。
コートの男の背後に禍々しいオーラをまとったジョセフが現れる。
あまりの速さにコートの男は反応する事が出来なかった。
ジョセフはなんの躊躇いもなく男の首をねじ切る。

「すまない。驚かせて……でももう大丈夫だ」

そう言ってジョセフは彼女を優しく抱きしめた。

ジョセフ・ファニシス、彼は能力者である。
自身に向けられた悪意、殺意、攻撃全てを反転させて相手へのダメージとする能力。
例え殺されたとしてもそれすら反転させてしまえる能力。
これからも彼は彼女を”死んでも守り続ける”のであろう。


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