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【怪異譚】パチンコで大儲けしたら、褐色美女の狐に化かされた件

 今から20年ほど前、バブル景気が崩壊し、就職氷河期などと騒がれていたが、まだ好景気の残り香で、世間が浮かれていた時代の話だ。

 都内の私立大学に通う金田さんは、その日はついていた。
 新聞の占いがギャンブル運絶好調だったため、パチンコ屋に行ったところ、出るわ出るわが止まらない。
 あまりにも調子がいいものだから、ドッキリか何かと疑うほどだった。

 「オニイサン、調子イイネ」

 そう、声をかけてきたのは、モデルかと思うほどスタイルのよい、褐色の美女だった。
 やはり、ドッキリか。そうでなければ狸か狐に化かされているのか。
 金田さんがそう思うほどの美女だった。

「ソノラッキー、ワケテヨ」と言いながら美女は金田さんへと近づいてきた。
 金田さんも悪い気はしなかったので、箱の中のパチンコ玉を一掴みして、女性に渡した。
 「アリガトネ」そう言って女性は去っていった。
 その1時間後、再び先ほどの女性が金田さんのところにやってきた。
 「アリガトウ、スゴクデタヨ」
 そう言って、たんまりと景品を入れた袋を金田さんに見せた。

 「ネエ、コノアト、ウチノ店コナイ?サービススルヨ」と女性が言ってきた。
 聞くと女性は、この近くの飲み屋で働いているらしい。出店前の暇つぶしに寄ったのだとか。

 パチンコでフトコロも暖かくなっていた金田さんは「やはり、ついてる?いや、騙されている」と半信半疑で、女性の店へと行くことになった。

 「ホーリー」というのが、彼女の働く店の名前だった。地元の祭りの名前らしい。 
 店に行くと、彼女が脇につき。「ラッキーノサービスデ2時間ハ、ワタシノオゴリ」と言ってきた。
 さすがに、これはおかしいと思った金田さんだったが、そもそも店に来たのが間違いだったのだろう。あっという間に、上手に酔わされ、2時間が経っていた。
 パチンコで儲けたあぶく銭は、あっという間に延長時間へと消えていった。
 半濁した意識の中で彼女が言っていた言葉だけが、なぜか強く耳に響いた。

 「オイテケ、オイテケ。ミンナ、オイテケ。楽シイコトダケ、モッテイケ。オイテケ、オイテケ。悪イモノ、ミンナ、オイテケ。」

 金田さんが気づくと、もう早朝だった。もちろん店内でなく、どこかの神社の境内だった。
 二日酔いの痛む頭を押さえながら、財布を見ると、案の定、あれだけあったはずの金は空っぽになっていた。
 クレジットカードなどは学生で持っていなかったので、無くなったのは現金と学校への定期券だけであったのが幸いだ。

 財布の中には、なぜか5円玉が一枚だけ残っていた。
 10円だったら、公衆電話をかけることが出来たのだがと思いながら(携帯電話はまだ一般的に普及していない時代だった)金田さんは、それを自分がいた神社のさい銭箱に投げ入れた。
  神社は稲荷神社のようで、狛狐があった。
 「やはり、狐に化かされた」などと思いながら、金田さんは歩いて家路に着くのだった。

 この話には、ちょっとした続きがある。
 昼過ぎになって、ようやく家に帰った金田さんはテレビのニュースを見て、呆然となった。
 その日は1995年3月20日。そう、地下鉄サリン事件があった日だ。
 パチンコで勝った時、普通に帰っていたら、次の日、学校に行くのに、地下鉄を利用していただろう。
 あるいは、目覚めた時に財布の中に定期券や、小銭でも残っていれば、地下鉄を利用していたかもしれない。

 「オイテケ、オイテケ、ミンナ、オイテケ」

 確かにお金も無くなったが、不運も置いてったのか。
 やはり狐に化かされた。
 それ以降、金田さんは、パチンコにも、あの店にも行っていないので、本当に化かされたのかどうかは分からない。

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