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虹の根本には

 夕暮れの空に、大きな虹を見た。
 雨上がりの空に、虹を見るのは、それほど珍しいことでは無いのだが、快晴の青空の中、虹がかかっていた。

 その時、私は運転中であったが、信号待ちの交差点でその虹に、完全に見入ってしまった。青空の中、ほぼ半円の虹が架かっている光景など、最近は見ることがなかったから。

 それだけ完全に近い状態で見ると、虹の根元と言うか、地面から立ち上っている部分も見えた。
 その根元の位置は、私がいる地点からかなり近いところにあった。

 皆さんの中で、虹の根元を見たことがある人はいるだろうか。
 残念ながら、私は今までにそのような経験をしたことが無かった。
 たしか、さだまさしのエッセイに書かれていた話では、虹というのは、言わば水蒸気の固まりみたいなものなので、虹の根本の部分、そこだけが陽炎が立ち上っていて、それが上空に続いているという。
 ホントか、どうかは分からないが。

 そういえば、「虹の根本には夢の宝箱が埋まっているんだ!」なんてことを言っていた物語があった。
 虹を見ていた時に、その話を思い出し、「こんなに近いのだから行ってみようか」と、ふと思った。

 虹の根本と言うそのイメージが、非常に魅力的に感じたのだ。
 子供の頃、思ったように、虹を橋のように渡ることは出来ないだろうが、虹の根元を見たと言うだけで話のタネになりそうだ。

 そう思い、私は虹の根元へと向かった。
 時間は夕方、日没がタイムリミットであろうと急いで向かった。
 何とか目指していた場所には10分後くらいには着いた。

 ところがだ。確かに、そこから虹が出ていたように見えたところまで行ったのだが、気づくと虹はまたそこから少し離れたところに見えるのだ。
 仕方がなく、またそれを追ってということを繰り返し、気づくと日も暗くなって、虹は見えなくなっていた。

 虹の根元に行けなかったのは残念だが、その場所に行こうとすると、次の場所に移動しているとは、いかにも虹らしい神秘的な姿だ。
 現実のような、幻のような、そんな夢の世界のような、あやふやな形が虹にはふさわしいのでは、と私も納得した。

 などと考えていたのだが、ふと我に返り、ココは何処だろうと辺りを見回した。
 するとそこは、それこそ夢の国のお城のような建物がたくさんあるところで、そのお城の中に男女2人連れの車が次々と入っていく。

 つまりは、虹を追いかけているうちに、ホテル街に一人で迷い込んでいたのだ。
 居たたまれなくて、逃げ帰るように、その場所を立ち去ったことは言うまでもない。

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