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尾坐原實雄 (財)勝田若葉会 名誉館長 剣道範士八段

弱い自分に勝て
剣道で子供たちに伝えたいこと



「稽古をしっかりやらんと
 稽古をろくすっぽせずに肚ができるはずがない」

小学校4年ではじめた剣道は、今年で修行歴70年を迎える。
試合と稽古の指導を通じて長年、3千人あまりの子供たちと接してきた
勝田若葉会 尾坐原實雄名誉館長は、指導した子供たちが人間としてまともに成長していくことがいちばんの願いであるという。子供たちへの思いと、今、館長が伝えたいことについて、語っていただいた。

※所属や肩書きは、季刊『道』に取材当時(2008年5月29日)のものです。


稽古の量で肚が決まる

 私は剣道は子供の頃からやりました。鹿児島は武の国だからね。剣道は小学校の正課だった。4年生から始めてもう70年になるんですね。ここまで続けられたのは、ひとつには剣道が好きだったからでしょうね。
 もうひとつには、自衛隊にいる時に全国大会まで勝ち進んで東京で個人優勝をしたこと。そういうこともあって、だんだんだんだん剣道が好きになっていった。私はだいたい、試合が好きだったから(笑)。
 試合というのは、技術はもちろんですが、心の重要性のほうが高いと思う。相手のことがぜんぜんわからなくても、構えて剣を向けたらわかってくる。相手と剣を交えたら相手が〝何段〟ではなく〝値段〟がわかる(笑)。
 自分が勝つかどうかはわからないが、剣先の振れで相手の値段を聞く、それから無意識に体が動くね。
 試合では技的に学べることはまずないですが、試合での気持ち、心というものは稽古では学べないものです。
 しかし、稽古の量で肚が決まってくる。だからまず稽古すること。稽古をろくすっぽせずに肚ができるはずがない。

目に見えないところの修行が剣道の醍醐味

 剣道の指導の目的、やり方、そういうものは変わっていないんだが、今の剣道の内容はやっぱり少しずつ変わってきているね。今のほうが精神面を強調することが多い。昔は精神面はあまり言わず、もう「どんと来い!」と。あまり頭の中のことは言わなかった。
 私はだいたい声が大きいから、「こらっ!」とひとこと言ったら子供たちはビシッとなるんです。地声が大きいから。剣道でもまず声をしっかり出せということをいつも教えている。相手の目をしっかり見て声を出す。それと動きを止めない、常に動けと。それが基本ですよ。
 そうやってこの若葉会の実力をここまでもってくるのに苦労をしました。どこの試合に行っても、優勝するか準優勝をする実力をつけさせるのに、最初は往生したんですよ。ほんとうに泣きたいくらいいろいろあった(笑)。最近は実力がついて、どこの試合に行ってもほっといてもいいくらいになった。
 試合は技術だけじゃなくて、ここ、心だね、精神的なものが強く出る。「勝てるだろうか」「負けてしまわないだろうか」という気持ちと「なに、負けやしないんだ」という気持ちとでは、戦い方そのものが違ってくる。
 そこの心の違いというのは、普段の稽古をうんと積むかどうかが大切なんです。
 指導者も個性がいろいろですが、稽古自体の内容は違わない。面、小手、胴、突きがあるだけですからね。打ち方も「こういうふうに打て」というのはない。晩にパッと障子を開ければ、月の光がパッと入るでしょう。「間髪を入れず」打つということを、そういうふうにたとえた。それが本当の剣道の真髄ですから。そういう気持ちを持たせてやらせるのが大切なんですよ。
 つまり「相手よりも先に打つ」。
 相手が動いてからじゃ遅い。剣道というのは相手が「動こうとした」そこを打つわけです。
 対峙して相手の眼の色を見ていると「お、くるぞ」というのがだいたいわかる。自分の今の年齢でもそれはできます。勝つかはわからないが、そこそこ違うはずです。そういう眼に見えないところの修行が剣道の醍醐味だね。

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日本剣道形の演武 左、尾坐原範士
 平成9年9月 茨城武道にて


剣道は我慢することだ

 剣道が日常に活かせるところは、とにかく礼儀作法ですね。私自身も厳しく言われてきたし、子供たちには常にやかましく言ってきました。座っていても立っていても礼儀を忘れちゃいかんと。姿勢、態度については、とにかくいつもやかましく言ってきたんです。
 それから克己心がなければ何もできない、「剣道をしよう」というのも克己心だ。弱い自分に勝っていくというのが大事だな。
 たとえば「勝つ」ということ。学校の「勝つ」と道場の「勝つ」は意味が違う。剣道なんだから、強くなければならない、勝たなければならない、でも自分に勝てと。遊びたい心を抑えて稽古に向かう、そういうことが大事です。
 剣道は、強い者が勝つんじゃなくて、気力に勝つ者が勝つんだと。克己心が強い者が勝つんだということを教えている。
 やはり我慢できる子供は強くなる。我慢ができれば気力も出る。「剣道は我慢することだ」と教えますね。
 今、我慢できない子供が多いからね。でも教えればきちんとできる。そういう一つの項目を設けて、噛み砕いて話してやるんですね。
 子供に教える時にいちばん大事にしていることは、人間としてまともに成長して生活できるようにということ、それをいちばん重要視しています。子供が横道に入らないように、私の指導を受けてまともに成長していくように。
 今まで飛びぬけて優秀な者もいなかったけど、悪くなっていくような子は一人も出なかった。剣道によってほんとうによく育ってきているんですよ。
 昔はやめる子が多かったけど、今はほとんどやめる者はいない。それだけ剣道に魅力があるんでしょうね。
                              (談)


―― 季刊『道』 №157(2008夏号)より ――


〈プロフィール〉

尾坐原實雄 おざはら じつお
昭和元(1926)年生まれ、鹿児島県出身。剣道範士八段。
25歳で自衛隊に入り、転勤で長崎をはじめ各地を転々とし、昭和42年に現在の茨城県に転属と同時に若葉会道場に入門。初代館長のあとを継ぎ二代館長就任、ひたちなか市唯一の剣道専門道場として指導にあたる。(財)全日本剣道道場連盟副会長、茨城県剣道連盟相談役、茨城県剣道道場連盟名誉会長、茨城県ひたちなか地区剣道連盟名誉会長。(財)勝田若葉会名誉館長。 


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「行動している人」の原動力を探り、エネルギーを伝えるインタビューを中心に発信。 季刊『道』とその前身、武道・合気道研究誌 季刊『合気ニュース』からお届けします。 記事一覧 → http://www.dou-shuppan.com/interview/