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渡辺 弘 防衛庁合気道連合会

植芝大先生の「かえりみる」を心に刻んで


 昭和29年、防衛庁に入庁、以来防衛庁合気道連合会の設立に奔走するなど、防衛庁合気道部の発展に貢献。またその間、合気会本部道場の稽古に通い、大先生はじめ諸先生の指導を受ける。
合気道の精神が日常生活を処するうえの支え、財産となったと語る渡辺7段に大先生の教え、稽古から得た教訓を語ってもらった。
(取材 2000年11月21日 合気ニュース編集部にて)
※所属や肩書きは、季刊『合気ニュース』127号に掲載当時のものです。

渡辺弘師範 第40回防衛庁合気道連合演武大会


合気道との出合い

―― まず、合気道との出合いからお話しください。

 大学を卒業した直後に大病をしまして、約4ヶ月間寝たり起きたりの生活で心身ともに自信を失ってしまいました。
 実は就職しながらある国家試験の合格を目指していたのですが、就職そのものも病気のため棒にふり、国家試験挑戦の意欲もすっかり失ってしまいました。その後、病はなおったので防衛庁に入りました。
 体力は回復してきましたが、心はむしろ前より弱くなっていました。なんとか心を強くしなければいけないとその解決を武道に求めました。
 武道は学生の頃からあこがれをもっていましたので、母校(中央大学)の柔道場をのぞいたり、防衛庁(霞ヶ関)にあるいくつかの武道のクラブもたずねてみました。しかし、どれもみんなしっくりこないのです。合気道もそのひとつでした。
 職場の同僚の一人が熱心で、稽古が終わって事務室に戻ってくるとよく相手をさせられました。また稽古を見にも行きましたが、あまり関心はもてませんでした。
 それから数ヶ月たったある日の昼休み、ちょっとした用で屋上へ行ったのです。その帰りの際、屋上の片隅で合気道の稽古をしている同僚のそばを通ったので、軽い気持ちで稽古を見ていたところ、指導されている方とぱっと目が合ったのです。するとその方が丁寧な礼をされたんです。私はびっくりしまして、あわてて返礼しました。あとで同僚にあの方はどなたかと聞いたところ、若先生(吉祥丸先生)とのことでした。先生も私のことを聞かれたそうです。

 私はとくに合気道に関心があったわけではなかったのですが、武道の先生が私のような若僧にお心遣いをされたことに感激しました。
 私は中学時代の剣道の先生の話や武道の本から、新陰流の流祖上泉信網に関心をもっていました。強さについては勿論のことですが、その謙虚さや心を重視されていたことに関心がありました。

 私は吉祥丸先生に上泉信網を見た思いがしました。それですぐに入門させていただきました。その橋渡しをしてくれた同僚というのは現在(財)合気会本部師範の佐々木(将人)先生なのです。

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