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日野原重明 聖路加国際病院理事長

あなたが歩んでいる時間それがあなたの 〝いのち〟です

いつか伝えたいではなく、いま伝えたいことがある。

70余年の長きにわたり医療現場に携わり、96歳の今もなお、現役医師として現場に立ち続け、日々、ホスピス患者を診察し、終末医療の普及や医学・看護教育に力を注ぎ、多くの講演活動を通していのちと平和の大切さを伝えておられる聖路加国際病院理事長・日野原重明先生。今、小学校で子供たちにいのちの授業をすることが、自らのエネルギーとなっていると語る先生に、いま伝えたい〝いのち〟への思いを語っていただきました。
(取材 平成20年3月6日 聖路加国際病院にて)
※所属や肩書きは、季刊『道』に掲載当時のものです。



 この季刊誌『道』の「道」というのは「人生の道」ということでしょう。「人生の道」というのがどこで終わりになるかは我々には予想ができない。しかし、大切なことは、どれくらいこれから歩くのかということよりも、今、私たちが歩いている道の方向が、本当にそれでいいのかということを、今の時点でチェックをする必要があるということです。そして、その方向でいいと思えば、勇気をもってそこへ向かっていくという行動が必要であるのです。

 私は、長い長い人生で現在96歳を過ぎ、あと半年あまりで97歳になるのですが、こんなに長く生きようとはぜんぜん思っていなかった。今は、これまで自分が守られてきたことに感謝し、その感謝の気持ちをどのように世間に返せばよいかということしか考えられない心境です。これまで受けてきた恩恵に対し、何をどのようにどこに向かって返すべきか、今、私はそのことを考え歩み続けています。

 私自身は、戦争を経験しましたし空襲も経験している。またこれまでたくさんの癌患者を看取ってきました。ですから、私は、次の時代をつくる子供たちがどういうふうになればよいかということを、私なりに願いながら、そしてその子供たちにとって私の歩む道が参考になるように、あるいはモデルとなるように、自分を進めていきたいというのが今の私の思いなのです。

あなたが歩んでいる時間それがあなたのいのちなのです

 私はつい2週間前にNHK出版から、『いま伝えたい大切なこと  いのち・時・平和』という本を出しました。それは、来年伝えるとか、いつか伝えるとかということではなく、「いま、伝えたい」という切実な思いをもって書きました。

 いのちというものはどんなものか、いのちというものはつかめない、目に見えないものである。空気や酸素や風は目に見えなくとも、それなしでは人間は生きていくことができないように、目に見えないもののなかに非常に大切なものがあるということを、多くの子供や大人に教えたい。

 そして、目に見えないいのちというものは、あなたが今、歩んでいる時間そのものなのだということ。あなたが歩んでいる時間、それがあなたのいのち。その時間をあなたは自分でどういうふうに使うかということを考え、生きてほしいというメッセージを子供に伝えたいということがある。そして、生きるということはいのちを大切にするということなのだと。

 人間というのは、相手に対し「気をつけてください」とか、「お大事」にとか言いますが、まず自分のいのちを大切にする、いのちを与えられたことに対し感謝する。その、感謝の気持ちと、いのちを大切にするというところから、人のいのちも自分のいのちとまったく同じように重要なのだということを感じていく。

 私だけではなく、いろんな人々、この地球上の人々のいのちを健やかに保つために何をすればいいかということを考えて、私は今、小学校で行なう授業こそが大切であるという結論をもちました。その結論をもって前進をしているというのが今の私の心境です。

聖路加国際病院 中央の塔と、前方に突出した建物は昭和8年に建てられた旧病院の一部

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