編集部座談会:インターネット漢詩同人誌の今までとこれから



――『蓬莱同楽集』(第二集)編集部反省会――(二〇一九年一月一四日)
蓬莱同楽社編集部(酔翁・周山・聽雪・櫻岳)

まずはおつかれさまでした!
酔翁:まずは皆さまお疲れさまでした!
周山:お疲れ様でした。後半はなかなかお手伝いできなくて申し訳ありませんでした。
聽雪:お疲れ様でした! あまりお手伝いできなかったので、文フリ当日は頒布頑張ります。
櫻岳:お疲れ様でした! なかなかお手伝いできず申し訳ありませんでした(汗)
酔:いやいやもう、おかげさまであとは頒布だけのところまでこぎ着けました。
櫻:東京と京都でどう手に取る方の反応が違うか楽しみですね。
聽:京都の文フリは他所と比べ、若干来場者数が少な目なので、皆々様にご覧頂けるように工夫せねばです。
櫻:文フリ当日、参加できず申し訳ないです…。

文学フリマ京都会場の様子
周:京都会場の様子が東京とどう異なるか、またお話し伺えれば幸いです。
酔:印象なんですが、京都のほうが押しが効くというか(笑)。
聽:あ、やっぱりそういうことあるんですかね?
酔:ありますねー(笑)。京都のときみたいに推したら東京では引かれましてね(笑)
聽:難しいところですね(笑)
周:関西のほうが「掛け合いのノリ」というか、そういうものが通じるんですかね〜
櫻:なるほど、たしかに東京は推しが効かない雰囲気でしたね(笑)。関西では値引き交渉とかもあるのですか?
酔:やりましたねー(笑)。むしろ「セットで買うんやったら引くで?」みたいな。
聽:うちも今回は第一集と第二集とあるので、セット割など設けますか?
酔:そうですね、しましょうー。予算は前回時点で既に黒字で、諸経費を勘案して第二集は一五〇〇円にしたいなあと。また第一集を高値にした理由も、前回売出しのときに公表していたようにあくまでも第二集の予算確保でしたから、多少値下げしても良いかと(笑)。
周:たしかに一〇〇〇円台になると、買う側も財布の紐が緩みそうですね。
櫻:なるほど、一五〇〇円かつセット割引ありなら売れそうですね(笑)。
聽:これ(以前よりほんのり安価)をきっかけとして、たくさんの方々が漢詩に触れるきっかけとなるといいですね!
酔:ですね!
周:京都という、古代から頼山陽を経て現代に連なる漢詩文受容の先進地としての土地柄が、漢詩や同人の広がりに影響するといいですね。
櫻:ですね!

蓬莱同楽集の存在意義
酔:さてさて、座談会とはいえ方向性はさほど決めていないのですが(笑)、皆さんに伺ってみたいこととして、今回やってみてどうでしたか?
周:漢詩も無論そうなのですが、山陰生さんの作品に見られるように、広く「漢文全体の発表の場」を求める需要があるんだと、ふつふつと感じられました。
櫻:皆さんで仕事分割したのでまだ何とかなりましたが、一人でやると確かに鬼のような忙しさになるだろうなと思いました(汗)。
聽:新たな企画としてやってみたかった平成自由詩が、作るとなると難しく投稿できなかったのが悔やまれます。
周:平成自由詩は私がテケトーに作った一作だけ(ボツにしましたが)だったので、数作が集まらないとどうしても難しいですね…。といって、そこの分量が肥大化しすぎてもということもありますし。
聽:周山さんの仰せられるように、「発表の場」としてこの蓬莱同楽集を存続させていくことだけでも意義がありそうです。
周:twitter詩壇だけではどうしてもまとまりきらないというか、拡散してしまう「核」とでも言うべきものを、同人誌という形にすることで、束ねる効果は間違いなくありますよね。
櫻:たしかに、twitterは自由な反面カオスなので、形にするところがないとそのまま埋もれてしまいますよね。
聽:吟社ともその流れを異にする、市井に点在する核を連ねて成る数珠(という喩えであってるかな…)は、また独特な煌めきを放ってる気もします。
櫻:言い得て妙ですね(笑)。
周:逆に平成自由詩はtwitterのカオスな空間の中で同時多発的にボコボコ湧き上がってくる部分に最大の魅力があるのかもしれません。
聽:それが和習や日本現代詩的感性に因るなら、それはそれで問題になってしまうといえば儚いのですが(笑)。
櫻:普通は吟社という形でまとまりますが、このような形で集まることは次世代型とも言えそうですよね。
酔:これまでの型は明らかに越えている気がしますね。
櫻:平成自由詩は、ある程度漢詩の知識がある上で作るとしっかりした作品になるのでないかと思います。だから例えば、詩吟をする人など向いているのかもしれません。
聽:詳しくないので的外れかもしれないのですが、吟社が唐代的(士大夫層が主な作者)なのに対し、このtwitter上にみられる一部隆盛は、私のような一般人も作者として出てくるという点で宋代的なのではないかと感じました。
周:地域や吟社を越え、かといってtwitterのみの散漫なものとならない、こうした繋がりの中で、現代の文物についての詩語が豊富に生まれて来ればなぁと思っています。そうした詠題の広がりというか日常化も宋詩的と言えばそうなのかも…。
櫻:なるほど、吟社は唐代的、twitter漢詩人は宋代的なら平成自由詩は清詩的な一面もありそうですね。
酔:実態を表しているかどうかは別にして(笑)、類比という意味ではそういう面もあるかもしれませんね。

興味深い表現について
聽:少し逸れますが、古典を踏まえつつ新たな表現を駆使する方としては、『蓬莱同楽集』に寄稿されている望之さんが挙げられますね!
酔:望之さんのはすごいですね(笑)。最近ツイッターに上がってるのはますます着眼がキレてきたというか。
聽:先日の前澤社長の合計一億円バラマキに関しても、古詩に纏めて呟かれていましたね。
酔:それそれ(笑)
櫻:「造城矜財雄、澤錢養聲利、投彼一億金、分與一百位、辦法真簡單、隨之再推出、紛紛推界中、歡喜滿天地、遊客來相隨、百萬已成市、勝者是何誰、人生感意氣、幸甚網海民、股價十分貴、汝等何寂寞、身世兩相棄」。たしかに上手く纏められてますね…。
酔:実に洒落た話ですよ(笑)。
周:世に対する憤懣に対し、マジレスしたり斜に構えたり、諦観するのではなく、こう「チクリ」とやりたい時に、漢詩というジャンルは本当に効果的なのだなぁと、私も始めてみてつくづく思いました。
酔:一方で山陰生さんもすごいですね、こちらは伝統的というか。文がかける人も今時なかなかいない。
櫻:山陰生さんの詩では、蓬莱同楽集第一集の「富士山発火」が世間の出来事をチクリと諷刺していましたね。
酔:風刺以外にもいろいろな効果があると思いますが、表現といえば、楸花さんがアル中を描いたのにもびっくりしましたね。書くって言うんで止めなかったんですけど、さすが現代詩人というかなんというのか(笑)。
周:酒は詩の根源というか、情景が切々と迫る作品でした。
櫻:アル中をアル中と認識して描くことはたしかに画期的かもしれませんね。飲酒の詩は過去に多く作られましたが、おそらく酒浸りをアルコール中毒と認識して描かれた作品はなかなかないでしょうし。
酔:ある意味では清末の詩人がアヘンを描くのに近いとは思うんですが、本人自らの話ですしね。
櫻: そうですね、あと明治時代のタバコの詩とか。あれは寧ろ肯定的に描いていますが…。
周:私の投稿作では、酒が迫害される社会全般のへの鬱憤という表層的な部分に留まっていたので、この詩のように、より個人的な部分にぐさりと食い込む力が欲しいなあと切に思います。
酔:実際問題、「瘾」の字を探すのがとても大変だったんですよ。

面白かった作品について
酔:せっかくだから今回の投稿作のなかで面白かった詩を皆で挙げませんか(笑)。ちなみに私はさっきの「酒瘾」がなんしかインパクト強かった(笑)。
周:作品と言うことでは、山陰生さんの「記生番之事」ですかね。現代でも「伝奇」というものが叙述し得るのだなぁと思いました。
酔:あれは圧倒的でしたね。安原くんどうです?
櫻:いま振り返ってきましたが、やはり私も山陰生さんの「記生番之事」が校正していて一番印象に残りました。まさに伝奇ですね。
聽:僕は楽水さんの絶句の起承が印象に残りました!。対句仕立てで秋の風景が綺麗に映像化されていたので。あと酔翁さんの「インターネットにおける漢詩文実作の動向」も読みごたえがありました。
酔:なんと、ありがとうございます(笑)
周:漢詩文実作の動向は、今この時点で記しておくことに本当に意味がある内容ですよね。今後、二・三が綴っていただけるとしたら、どう世の流れが推移していくのかが楽しみです。
酔:なるほど、二・三ですか。これは思いもよらなかった(笑)。ここから先はある種の実況中継になりそうですね。
周:是非に。今の流れがこのまま拡大すれば、きっと叙述すべき内容には困らなくなると思います。

蓬莱同楽集をどう位置づけるか?
酔:とすると、話は最初の話題に戻ってきそうです。これから先本誌をどう位置づけていくかというところですね。先程話題で出てましたように、たくさんの方々が漢詩に触れるきっかけとなること、広く「漢文全体の発表の場」を求める需要に応えることが課題になりそうです。
櫻:明治時代の新聞、漢詩集を彷彿とさせますね。
周:参加者の間口を広げるためには、一番作法が確立している絶句を中心とした漢詩投稿をメインに、漢文については参加者の希望で枠を設ける、とするのが基本的には良いのかなと思います。
酔:できれば参加者・作品ともに数がほしいところですね。
櫻:そもそも母数が少ないのが問題ではありますね。
酔:こればっかりは、少なくとも当面は勧誘して集めるしか無いでしょうね。
櫻:ネット以外の漢詩界(吟社など)においても若手は少ないようですし…。
酔:むしろネットに居てるんですよね、これが(笑)。でももし一人でも見つけたら一本釣りしていただければと。
聽:作法を知らないだけで詠んでみたいという方はたくさんいそうなものですが、足掛かりとなるものに先ず巡り合うことさえ出来ない状態でくすぶってしまっている感がプンプンします。
櫻:何人か同年代の知り合いはいるのですが、参加してくださるかどうか…(笑)。
酔:くすぶっている方には、こちらから見つけて拾っていくのが一番いいでしょうね。

自注について
周:作ることはできても、註釈を付けるのが難しいということで、二の足を踏むということはありそうですね。といってもこれがないと形にならないのですが。
櫻:注釈は現代人と中国古典詩を結びつける架け橋になりますからね…。
酔:注釈を多量につけたのは、多分私が最初に同人誌を出したときがはじめだと思うのですが、最初の意図としては読者がまず読めないだろうというところからだったんです。
周:たしかに、読者が理解できないですもんね。かといって投稿だけしてもらって、編集が全て註釈を付けるとなると、大変な仕事量になりますし。
酔:注釈を編集部がつけるなんて、ぜったいやりたくないですね(笑)。
周:まったくまったく。
酔:まあたしかに、自作に注をつけるなんてのは滅多にない状態だとは思うのですが、こればっかりは…(笑)。
櫻:編集がすべて付けるとなると、作者の意図と食い違う可能性も出てきますね。
酔:むしろ自注を見ながら、「それならこうするとより良いと思います」とコメントを編集部がつけていくくらいが、より良い循環なのかなと。
聽:なるほどなるほど。
酔:そういう意味では、コメントをつけるのも実に難しい作業ですね。基本的には、内容については本人の意思を優先して形式のみ見ることにしているのですが。

習作投稿欄
聽:今の日本は七言絶句から入るのが基本ですけど、江戸の昔は七言古詩からやっていたと聞いたことがあるようなないような。門戸を広げるのを目的とする場合、初学者からの投稿詩は「韻のみを踏んだ古詩も可」とするのはどうでしょう。古詩のその他規則は後々しっかりお勉強することにして。
酔:広瀬淡窓の塾がそうだったと記憶していますね。それはありかも。どうでしょう。
櫻:たしか荻生徂徠がそうでしたっけ。不正確ですが。
聽:様々な考え方があるとは思いますが、平仄というハードルがないだけでもとっつきやすさは格段に上がるかな〜、と!。韻を調べるうちに、漢字には平仄があることを知り、そこから近体詩へ辿り着くような道筋を作ってみるのもまた一つと思ったり。
酔:なるほど。
周:良いかもしれませんね。その場合古詩とそれ以外の規則に則った詩がわかるように、各詩の冒頭にそれぞれ詩形を記すようにしますか。
酔:古詩というか、この際「習作投稿欄」としますか?
櫻:逆転の発想ですね。
酔:こりゃおもしろい。いっちょやってみましょう。
周:自信のない人は習作投稿欄から気楽に投稿してもらえるようにするのがいいかもしれませんね。
櫻:習作投稿欄、いいネーミングですね。歌会塔の「若葉集」みたいな感じで。
聽:「入り難く成り易き」漢詩の、その「入り難さ」を和らげられればいいですね
酔:よし、んじゃこれ次回呼びかけましょう。

新企画について
酔:ほか何かやってみたいことあります?。私は、以前わんくんと安原くんには伝えたんだけど、投稿文でMさんとHさんに漢詩文絡みで推しを書いてほしい。
櫻:個人的にはTさんの文を読んでみたいです。
聽:確かに‼
酔:いいですねえ。
聽:文もですが、漢詩文についてお祖母さまから伝授された心構えなどもお聞きしてみたいです。
酔:わかったインタビューだ。
櫻:なるほど、インタビュー形式にすると詳しくお話伺えるかもしれませんね。
酔:とするとアレですね、櫻岳くんと聽雪くん、ふたりで行っておいでよ。交通費は売上からだそうず…!
聽:ほおお(笑)
櫻:行くとすると春ごろになりますね。
酔:次のには十分間に合うでしょう(笑)。

次号について
櫻:次はいつ出しましょうか…?
酔:今回は半年見て、まあなんやかんやでギリギリでしたね(笑)。私にしろ周山さんにしろ社会人なのでどうしても余力を注ぐ格好になるので、主力が大学生に移るともっと速度は上げられると思います(目が光る)
櫻:たしかに、最後の方結構焦りましたね(笑)。来年時間できそうなので仕事量増やしても大丈夫ですよー。専門の校正の方々ほど正確に仕事できるかどうかは分からないですが、頑張ります(笑)
酔:周山さん、担当部分の作業はいかがでしたか?。
周:なかなか一二月は仕事で修羅場だったので、色々遅れて申し訳ない限りです…。作業の方はもう少し各人への催促を密にできたら良かったなというのが反省です。GoogleDriveにまとめる方式に最初からしておけば、編集各人へ見ていただく上でも効率がよかったなぁというのも。次からは最初からフォルダを作って全員で同じものを閲覧できる体制を整えたいと思います。
酔:なるほどです。その節は色々とお手数をおかけしました。
周:とんでもないです。こちらこそ不手際が多くていろいろご迷惑をおかけしました。
酔:いえいえ。
酔:聽雪くんはいかがですか?
聽:インタビュー来春大丈夫です。
酔:ではその時はよろしくお願いします。
聽:こちらこそよろしくお願いします!
酔:よしじゃあ、そんな感じの方針で行きましょうか!。具体はこれから詰めましょうー
櫻:ですねー!
周:了解です。
聽:はーい、第二集作成にあたって、みなさん本当にありがとうございました!。第三集もまたよろしくお願いします。
櫻:ええ、ぜひぜひ第三集もよろしくお願いします。またお世話になります。
周:第三集も現代ならではのバラエティ溢れた詩集になることが楽しみです。どうぞ宜しくお願いします。
酔:できれば…今回は半年だったのでちょっと詰めて作れるようにしましょう…(笑)。よろしくおねがいいたします!
(完) 


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