動画制作ディレクション

イメージのすり合わせが難しい動画制作を、どう進めるか?

私が携わっている「1Roll」は、企業のマーケティング担当者や広報担当者が自ら動画を制作・配信するためのツールのため、私が直接動画を撮影・編集するということはほとんど行っていません。ただ、業務の流れの中で動画の受託制作を行うことがあります。

私の本職はプロジェマネジメントなのですが、プロジェクトも動画も、最初は形のないもののイメージから始まり、徐々にそのイメージをすり合わせ、形にしていくという意味で、構造的には同じ問題としてとらえています。

まず、発注者の「こんなものをつくりたい」という要望があります。
要望は本来、新商品のプロモーションや見込客の育成といった目的にひもづくものです。その目的を果たすための動画をつくるうえで、発注者とそれを受ける制作者の間で、つくる動画のイメージをすり合わせ、合意していくプロセスを経なければなりません。

動画制作の場合、これがかなり難しい。

要望はたいていオリエンテーションという形で、目的の他、その動画を視聴してほしいターゲット像、予算、スケジュールなどと共に制作者側に提示されます。このときやっかいなのは、発注側につくりたい動画の参考動画があろうがなかろうが、いずれもイメージのすり合わせについては大して役に立たないということです。むしろ、参考動画があった方がジャマな気がします。

参考動画がある場合、担当者の頭の中に、「ガッキーの透明感のある感じの、あんな動画つくりたいんだよ」といったものがあるとしましょう。担当者はもちろん、発注者側はどうしてもそのイメージに引っ張られる。タレントの起用、撮影したロケーションなどの環境、演出などなど。そこにはそれなりのコストがかかっている訳ですが、そのあたりのコスト感を発注者側はリアルに思い描くことが難しい。その道の経験者でなければ当たり前です。

制作者側は発注者側の予算内で実現できることを考えますが、往々にして参考となる映像を超えるものを制作するための予算は提示されないので、どうしてもいくつかの点で妥協せざるを得ません。となると、参考動画と比べて見劣りのするものになってしまいます。参考動画として挙げるのは良いけれど、それは本当に参考として、そこに固執するエゴは捨て去る必要があります。そうしないと、できあがった動画を見て、「イメージしてたものと違うね・・・」とガッカリすることになります。

逆に参考動画がない。或いは真の意味で動画を参考程度にしかない場合、制作者側は発注者側の要望に基づいて、絵コンテを描き、それを元にイメージをすり合わせていきます。
絵コンテにはカット毎の秒数や演出についての注釈が明記され、できるだけ完成形がイメージできるよう細かな情報を書き込んでいきます。さらに念を入れて、事前にできるかぎりの音楽、効果音の挿入や、セリフを加えた「Vコン」も作成します。そこで合意ができれば動画制作作業に入りますが、ここのすり合わせが十分でないと、

「絵コンテでイメージしてたのと違いますね・・・」

という声が発注者側から出てきます。

今、私は「すり合わせが十分ではない」と書きましたが、形のない動画というものを事前にすり合わせきることはほぼ不可能と言っていいでしょう。
ここに動画制作の大いなる矛盾があります。
イメージをすり合わせるために参考動画をピックアップするけれど、それに引っ張られ過ぎると参考動画を超えるものがつくれない。でも、参考動画がないとイメージのすり合わせが起きにくい。

この問題は動画に限りません。新サービス、新会社のロゴデザインなんかもこれに当たるでしょう。動画が厄介なのは、ロゴデザインであればイメージが違えば修正作業がききますが(そりゃきかないこともあります)、動画の場合はキャストを起用していれば撮り直しはできないし、再びロケに行くということもできません。修正作業をするなら、編集でどうにかするしかない。つまり、プロダクト開発のように後からやり直しとか、アジャイル開発、リーンスタートアップみたいなことはできないわけです。

私が映像制作畑の人間ではなく、色々な業界・製品のプロジェクトマネジメントをしてきた経歴がこう思わせるのかわかりませんが、ゼロからの動画の受託制作はおそろしくコミュニケーションコストやディレクションコストが高いため、制作費用を高く設定しないと割に合わないのではないでしょうか。そうしたフィールドで素晴らしい動画を制作するクリエイターを目の当たりにすると心底尊敬します。

それはさておき、じゃあどうすれば発注者側も制作者がもハッピーな動画制作ができるのか。

これは私個人の意見ですが、発注者側が自身の目的と要望をきちんと整理したうえでオリエンテーションを行うことを大前提に、オリエンテーションを行ったらその出来上がりは制作者のセンスと努力に託すべきだと思います。

そこで最後に提言があります。
宣伝会議やブレーンなどの雑誌には、注目のCMなどに必ずクレジットが入ります。誰がCMを企画し、脚本を書き、編集したかという情報がわかります。発注者はもし自身のイメージする映像があるなら、そのクレジット情報を見た方がいいです。そしてその映像制作に関わった人々の映像・動画を見て、この人に依頼したいと思える人・制作者に発注すべきです。言い換えれば、動画を参考にするのではなく、その動画を作った人のセンスに託す。そういう状況をつくるためには、制作者側も契約上許されるなら、自分がどのような形でその動画制作に携わったかを明記・記名しておくべきだと思います。ポートフォリオも(許されるなら)つくっておくべきでしょう。

以上、勝手ながら私見を申し述べました。

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