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企業人が島(海士町)で見つめ直す

サマリー

この記事は、自動車業界で中間管理職を務める企業人が企業文化とまるで異なる海士町の文化に触れ、1ヶ月の島研修滞在を通じて感じたことをまとめたものです。体感した学びや気付きは、客観的な正確性よりも主観的な解釈ですが、実務に活かせそうな点も多く、似たような悩みを持つ企業人に参考にしてもらい、海士町に興味を持っていただけたら幸いです。


どんな人に読んでもらいたいか?

  • 企業で一生懸命働いており満足感があるものの、どこか満たされない感覚、これまでの延長線上の働き方に一抹の不安がある人

  • ダイバーシティ、働き方改革に取組みつつも勘所が分からず、気遣いが増えて人と人の関係性が複雑、困難になってる感じがする人

  • VUCAだ環境変化だと時代の変化を感じて、何か新しいことを始めたいと思うが、自分に何が出来るのか?したいのか?スッキリしない人


私の考える海士町の魅力

  • 挑戦する町

海士町と言えば2000年代前半の財政破綻の危機、過疎化・高齢化による人口減少からの再生に取組む地方創生のトップランナーとして、新たな挑戦に挑みつづける町として有名。「ないものはない」というフレーズが象徴的。ここでは多くは述べないので、気になる方は是非検索して欲しいです。

  • 天然資源が豊富

海士町は、1221年承久の乱で敗れた後鳥羽上皇が島流しにされた地であり、当時の流刑地の選定基準は以下のようなものがあります。

  1. 都から見て、吉兆の方角にあること

  2. 豊かな食事ができること

  3. 栄えていること

1と3は当時と現代では相対的に違うように思えますが、2は現在でも十分魅力的。湧水があり、お米が美味しく、海産物は多岐に渡り豊富です。野菜・果物などの農作物は潮風にさらされた結果、味がギュッと濃くなるようです。鳥に食べられて種が運ばれ繁殖する為の生存本能と思えば、納得。逆境が生き物を強くするのでしょう。美味しいものが食べられる状況は、食べる喜びを思いださせてくれます。

  • 人と人の関係性を重要視

業界次第ですが、企業人であれば合理化や生産性といったミッションから逃れることは難しい。私の働く自動車業界でも効率化の議論が活発です。ただし、あまりに時間短縮という形で効率化を進めすぎると、各人の中で余力がなくなり、人と人の関係性が希薄化、接点自体が少なくなる場面も散見されます。チームで仕事しているのに孤立感を感じたり、無意識に相手に無関心な状態(気にしている余裕がない)が生じてしまいます。一方、海士町では時間がややゆっくりと流れており、焦って結果を追いすぎない、それよりも人と人の関係性を育む機会や場を設けることに重きをおいています。田舎臭くもあり、懐かしくもある家族的な人間関係が妙に安心感を醸し出します。職場の働きやすさ改善にも通じるものがあると思います。


どんな体験をしたか

  • 1次産業(農業、漁業)を体験する

農業:稲刈り前の草刈り、水抜き用の溝堀
普段何気なく食べている(スーパーで購入する)お米を生産する苦労が身を持って分かります。一部で機械化が進むものの、まだまだ手作業が残る場面も多く、肉体労働で大変です。また、自然が相手なので天候に左右されます。虫や雑草ともうまく付きあっていかないといけません。

秋の稲刈り前の草刈り
秋の稲刈り前の水抜き作業

漁業:定置網(漁および網のメンテナンス)、サザエ漁
時期にもよりますが、漁獲高というのは基本的に安定しません。海がシケたり潮の流れが速いと漁が出来なくなります。作業も安定せず、予想外の状況も起きますが、海の上は危険と隣合わせなので無理をし過ぎる訳にはいきません。気持ちや努力だけではどうしようもない場面があります。

朝日に向かって出航(定置網業)
大きなタモで魚をすくう(定置網業)

1次産業の生産者の苦労を理解することで、何気なく口にしている食品が誰かの継続的な努力の上に成り立っている構図が理解できました。そこから周囲への感謝の気持ちも芽生えました。また、大自然の力と対峙することで、自分1人の無力さをはじめ、思い通りにいかない状況でいかに知恵を絞るか、チームでどう支え合うのか、を体感知として学ぶことが出来ました。思い通りにいかない状況は当たり前で「自身がどう対峙するか?」という意識がリアリティを持ってその場で磨かれていく感覚を持ちました。


・Iターン/Uターン者の挑戦を聞く

この島のIターン/Uターン者はその立地ゆえに「なんとなく話の流れで」という人は少ないです。自分なりの意思を持って選択した人がほとんどです。「ないものはない」というフレーズが示す通り、この島には不便な実態もあります。ただし、それを超えるだけの魅力を感じ、その魅力を自身でも生み出そうとする挑戦心が随所に見られます。そのような方々のお話を直接伺うことが出来ました。既にあるものを伝承して改善するケース、衰退した事業を再生するケースなど様々です。自分の意思で行動している人の言葉は熱を帯び、覚悟が感じられます。過去にしろ現在にしろ自分の中でそのような種火がくすぶっている人には、良い着火剤になると思います。何かが足りない感覚、それはリアリティのある逆境感かもしれませんね。
決して成功が約束されている訳ではない。未経験から島ならではの生育技術を開発してきた崎みかんの再生プロジェクトには心が打たれました。何かに挑戦することの輝きをこの島の挑戦者たちは教えてくれます。

出典:ふるさとチョイス 島根県海士町崎地区の崎みかん

未来の社会を考えた時、何か新しいことに挑戦すべきでは?それは何か?と何か胸に突っかかっていたものが取れた感覚がありました。企業内という問題がそれほど顕在化していない場所にいるから気付きにくいのです。問題のある現場を知らないままに新規事業のネタをWebで探しても表面的にしかなりません。現地で挑戦する人たちとの交流は題材が具体的で大きな刺激になります。課題が顕在化してやや逆境感のある環境でこそ芽生える気持ちに気づくきっかけになると思います。
特に1次産業から見た関連業種は多岐に渡り、作業用の工業製品・生産品の流通販売・食品加工・マーケティング等の切り口で企業人の専門分野でも、1次産業者の負担軽減と経済性改善による持続可能化(後継者育成)への支援ネタが見つかるように思いました。


・大自然と交わり遊ぶ

真面目な話ばかりでは、どこでも息が詰まりますよね。笑 この島では大自然が遊び相手になってくれます。山で遊ぶもよし、海で遊ぶもよし。有名観光地のように遊び場所がそれほど整備されている訳ではありません。だからと言って遊べない訳ではないのです。自分で遊び方を考えて遊んでしまえば良い。誰かの管理下であればルールが存在しますが、ここにはルールというのは最低限しか存在しない(そこは利用者のモラルが問われるでしょう)。普通の感覚では出来ない逸脱感のある体験や自分オリジナルといった遊び方が無限に広がっていると思います。
また、自然の楽しみ方は島の人に教えてもらえば良いのだと思います。僕は今回頼み込んで魚のさばき方(刺身の作り方)を教えてもらいました。自身の趣味スキルが上がれば、家族や友人にお披露目できるようになります。一人で遊ぶより気の合う仲間と遊ぶ方が楽しいですよね。そのような遊びや趣味のスキルアップの舞台にも、この島は最適だと思います。

手つかずに近い自然、遊び方は人それぞれ

大自然と交わることの醍醐味は毎回違うことです。海にしても朝日にしても星空にしても、日々何かが違う。だから、飽きることがないのです。この一瞬しか同じ景色は見られません。だからこそ、価値があり遊びにも本気になります。他人とは違う自分だけ1回だけの体験をぜひ謳歌して欲しいです。

・島の行事に参加してみる

夏に島を訪問すると数々の行事が予定されています。町主催のキンニャモニャ祭りであったり、個人主催のBBQや旅館主催のパーティ等がありました。伝統行事であれエンタメ系であれ、手を上げれば島の人たちが快く仲間に入れてくれます。その理由の1つは人手(参加者)が足りていないことが多いからです。人手が足りないと言うとネガティブに聞こえるかもしれませんが、「全員に出番がある」と捉えると、ポジティブに聞こえませんか?出番があるからこそ、主体性と自己効力感が生まれると思いませんか?細分化された組織の中では、やたらと狭いフィールドで、皆で出番を競い奪いあっている感覚が生じることがあります。社内競争を活発にして競争力を高めることは必要なことですが、それ一辺倒ではもう限界が見えている気がします。では、どうすれば良いのか?その答えを見つけ出すのは難しいですが、この町の出番作りによる動機付けは一つの大きなヒントになると思います。
僕が手を上げたものの1つがかんこ舟競争。見たことも聞いたことも無かったけど、教えてもらい、出番も貰えて、知り合いも出来ました。

世代を超えた参加者が集まるかんこ舟競争

少子高齢化により労働人口が減っていくのは今後の日本の未来。人手不足、後継者不在では、事業そのものが消失する可能性があります。1次産業が衰退すれば、食の安全はおろか量の確保すら困難になるかもしれません。既存の仕組みに都合の良い人を選び育成するだけでなく、人それぞれに合わせて仕組みが柔軟に変化していかなければ危うい。ダイバーシティと働き方改革の重要性に実感が伴いました。また、効率を考えると専業だが、柔軟性を考えると兼業・複業が選択肢に入る。仕組み自体を抜本的に変えたいなら、他業種と知の結合機会を意図的に設けるなど、攻めの姿勢が必要。この島ではそのような取組みを垣間見ることが出来ます。各種の社会実験も進行中でワクワクさせてくれます。

学びと実務への引き寄せ

  • 専業化(細分化)で効率化を最優先してきた時代を、気合と根性で従来の仕組みに順応すべく頑張ってきたつもりですが、そのやり方だけでは困難な時代に入ってきたようです。その危機感はあったが「何を目指せば良いのか?」が掴めず、周囲を見ても暗中模索と言えそうです。そんな時に町で見た文化は、短期的な効率や結果を追いすぎず、持続可能な状態を目指して人と人の関係性を育むことを優先。また、異業種・島外からの参入も受け入れていく知の結合を目指した攻めの姿勢に溢れていました。当然、このような変革には摩擦や抵抗が生じるのも事実。ただし、人と人との関係性を大切にする姿勢が一貫していれば、そこは人と人。深まった人間関係がそれら難所を時間をかけて包み込んで解決してくれるような感覚を抱きました。これが正解なのかは分かりませんが「何を目指すのか?」の答えは、既存の仕組みとこの島の文化のブレンドだと考えています。

  • 「未来の社会に向けて自分は何に挑戦すべきなのか?」この問いの答えは実はまだ見つかっていません。ただ、どのようなやり方をすれば見えてくるのかイメージは掴めました。課題があるその場所に行って見て聞いて体験して「自分だったらこうしてみたい、こうするのに」を具体的に現地の人とすり合わせながら、頭だけでなく、心と体で課題感や対策効果のイメージを捉え続けることだろうなと思いました。一言でいうと、リアリティのある出番と逆境感の醸成。結果的に、このような行動を過去にも実践していたことはありますが、自信を持って言語化出来たこと、体験知に出来たことはこの研修の大きな学びでした。現在業務であれ、将来の新規事業であれ、このスタンスで臨もうと思います。


考察と今後

今回、企業と島。2つの文化を比較分析しながら、気付きを得るスタイルを取りましたが、少し無理があるかもと思うのは、企業は基本的にいくつかの事業に特化した活動形態。島はそれ自体が1つの生態系のようになっている点です。極端に言えば、企業は特化した事業で業績を上げていけば良くて、例えば同業界の競合の業績不振はそこまで気にする必要がない。一方で島の場合は、家族的に島民全体のことを考えるので、誰かの不幸の上に成り立つ特定人物の幸せなんてあるのは良くない。きっと、不満も強いし長続きしない。このような前提の違いをどう考慮して分析すべきか?という点に課題意識が残ります。
ただ、企業も社会全体で見れば大きな生態系の1プレイヤーに過ぎないので、CSR(Corporate Social Responsibility)ではなくCSV(Creating Shared Value)が叫ばれている昨今では、企業活動の善悪を判断するには生態系全体を考慮した全体最適の視点は重要で、スケールは違うものの島の視点を取り入れていくことは、長期的には企業にも有益に思えました。
今後、この点は注意深く思考継続したいと思います。


最後に

僕は過去に数回、海士町を訪問しましたがここで述べたような体験・感覚が芽生えるのは研修として参加した場合です。観光で訪問すると立場が観光客になってしまい、その体験の違いから学びや気付きの質が変化します。自分探しや何か新しい刺激を求めるのであれば、ぜひ研修か観光+1歩踏み込んだ体験を伴う訪問を。

企業向け研修に関する記事
引用元:先端教育オンライン
https://www.sentankyo.jp/articles/667ec07a-849d-4ec7-b6a3-eeda139ec5d6

また、ワーケーションという選択肢もあります。
ホテルや港のウッドデッキ、その気になれば港の堤防でもPCがあればリモートで仕事ができる世の中になってきました。島暮らしを体験しながら企業内では感じられない刺激をもらう。「暮らす」と「働く」の新しい成立形を試してみるのも良いと思います。
部屋からいつも眼前に島と海と空を感じながら、隠岐の成り立ちや島前と呼ばれる3島の魅力を学べる日本初の”ジオホテル”Entôもオススメです。

ワーケーション場所からの絶景
Entô Annex NEST

Entô 公式サイト:https://ento-oki.jp/


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