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213/366 【ほろり】 三谷幸喜 「大地 - social distancing version」

役者がいて、観客がいて、台本があれば演劇の火が消えることはないのです

三谷幸喜さんのこんな前説で物語は始まる。

舞台はロシアの広大な大地に設置された強制収容所。そこには、政府による文化改革で反政府主義者と見なされた文化人らが送り込まれている。その中で舞台関係者らばかりのバラックがあった。

お芝居をせずにいられない人々が、豚やらトウモロコシ畑やらでの労働をしつつ、「いつかまた普通の日々が帰ってくる。その時、ここでの経験も意味があるものになる」と言い聞かせながら極限状態を生きていく。

例え明日地球が滅んだとしても、役者にとって、今日やることは決まっている。

発声練習と柔軟。台本があればセリフを覚える。

そこまでやったとしても、例えしぶとく生きたとしても、「芝居」は観客がいなければ成立しない。1人でも観客がいなければ、3つの要素が揃わないのだ。

劇場の中と外界とのパラレル感にドキドキする。コロナ騒動中に書いたのかしらと思ったら、台本自体は昨年末にあったらしい。ものすごい先見。

タイトルにsocial distancing versionと入っているように、ステージングは距離を保つ為に調整されていた。それがびっくりするくらい自然だった。

収容所の中は各人の区画に分かれており、その区画の中でやりとりの多くは行われる。多くの人物が一斉に舞台に登場する場合、舞台手前と奥の上下に分かれて一斉にドアを開く。

舞台上のドアも何度も開閉される。演出でちゃんとそうなっている。

お客さんも、劇場に入る前にまずは靴の消毒をして、体温を図られ、手指の消毒をしてから劇場に入る。

劇場内にはあちこちに手指の消毒液が設置されており、係りの方々もがっちりフェイスマスクまたはマスクを着用している。

お手洗いの出口にも靴の消毒場所がある。

ロビーから外のウッドデッキに出られるようになっており、そこでの換気も完璧。

席は、基本1席おき。でもそれ以上に空席が目立っていたので、おそらく1/3くらいの入りだと思う。

観客が少ねえなあ

途中の劇中劇でのセリフ。バラックの中で彼の芝居を目撃していたのは、たったの3人。それを指して言っているのだけれど、客席を見回して仰っていた。

カーテンコールでも、皆客席の埋まり具合(または空っぽ具合)を確認して、この光景を忘れない、と胸に刻んでいるみたいだった。

沢山笑って(山本耕史さんの乳首芸!!!!!!)、上に挙げたような共時性が強いセリフにハッとして、最後のカテコで泣けてきた。

半分しか埋まっていない客席。ざわめきのない幕間。感想を言い合う言葉も極端に少ない静かな終幕。

なるべくこの空間を清浄に保てるように、個々人が出来る限りのことをしていた。それもなんだか泣けた。

週末にみた劇団ノーミーツの「むこうのくに」の幕前や幕間、終演後のチャット上でのわちゃわちゃ感とあまりにも対照的で感慨が深い。

それでも舞台は続く。

どうか終焉まで、俳優の方々、スタッフの皆さん、そして客席の人々が元気で走り抜けられますように。

伴走23日目!






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