④倒産家族の生活 ~ 社長家族は辛いよ
「再生される側」「再生する側」両方を経験した立場から、「倒産」について書く第4回です。読むのに6~7分くらいかかります。
第1回でも触れましたが、倒産の家族への影響についてより詳しく書きます。今回「例のウイルス」の影響なのか、過去分含め、一連の倒産関連記事のアクセス数がじわじわ伸びています。
良いことなのか分かりませんが、やはり、皆さん心配される家族のことを書くのがよいだろうと考えました。創業、承継のことを考える方にも「再起できる転び方」が伝わればと思って書いています。
本人の生活と家
「自己破産=生活できなくなる」というイメージがありますが、自己破産しても法律で最低限の財産保有は認められますし、新得財産(破産手続き後に得た年金等の財産)に裁判所は手をつけません。
自宅が担保に入っている場合、自宅は「競売」(裁判所が財産を処分すること)の対象になります。とはいえ直ぐに出て行けと裁判所に言われることはありません。(賃貸物件の場合も、自己破産を理由に賃貸借契約は解除できない)
私の家族のケースですが、以下の通りです。
・裁判所の手続き中の数カ月は普通に生活
・競売開始後、不動産会社と祖母が応札 ⇒ 祖母が購入
・祖母名義になった自宅に継続して居住
・祖母が亡くなった後、再び父が自宅を相続
(裁判所の手続き後なら相続可能)
競売時に応札してくれる親族がいない場合、自宅は他人の手に渡ります。その場合、賃貸物件を探すことになりますが、自己破産者は家賃保証会社による入居審査に引っかかることがあるらしく、受け入れてくれる物件を探すことになります。
なお、自己破産と相続の時期が重なると極めて手続きが複雑になるので、弁護士に相談することをおすすめします。
精神の病
思い返してみて、倒産や競売よりも私は両親が精神を病んだことの方が辛かったです。
特に父は以下の状況になりました。
・車で電信柱に激突
・発狂して家で絶叫し、自傷行為
・自宅が血だらけ ⇒ 後日、血のついた株券と会社の書類を私が処分
・見かねて家族が精神病院に入院させる ⇒ 直ぐに会社は破産処理
・医師の指導の下、自殺防止のために拘束具つきの部屋に数日入る
・就職活動中の私に発狂した親が電話をかけ続ける(内容意味不明)
⇒ 私もストレスで昏睡
それでも破産処理が落ち着くと父はすっかり回復し、今は問題なく生活しています。事前に弁護士の先生に相談の上、破産後のプロセスを認識していたからでは?と今となっては思います。お金(弁護士を雇うお金、破産処理のためのお金)と知識があったからこそ、「再起できる転び方」になったのではと思います。何の準備も無しにいきなり破産となると、パニックになってしまう経営者もいるのではないでしょうか。
子供と進学
子供を連帯保証で巻き込んでいない限り、親が自己破産しても子供の進学や就職には法律上、何の影響もありません。
ただ、大学の学費に関しては、多くの家庭が苦労すると思います。
私の場合、生活費に加え、私の学費のために母が貯金していたお金まで父が会社の資金繰りに使い込んだので、相当苦労しました。10代の私に「自力で奨学金を借りて、大学に現役合格しなかったら高卒で働け、金がないから予備校にも行くな」と言う親もどうかと思うのですが…私が中学生のころから会社は傾き、両親は経営にどっぷりだったので、「勝手にしてくれ」と思っていたのでしょう。
厄介なことに経営者は額面上の年収が高いので、親の年収で審査される公的な奨学金制度に通りにくいという問題があります。私はある企業の奨学金制度に救っていただき、無事大学にも行けましたが、10代のころは自分の境遇を恨み、サラリーマンの子供の同級生を羨ましく思ったものです。学校の先生もビジネスへの理解が乏しく、結局一人で戦っていたのを思い出します。社長の子供は既存の支援制度の間に落ちているのかもしれません。
「親の会社の倒産=進学断念」にならないよう、同じ経験をしたメンバーが集まって行っている活動が以下のリンクになります。
奥さん(配偶者)と離婚
「倒産=離婚」というイメージがあるようですが、調べてみると裁判所の統計の離婚原因ランキングトップ10に「事業失敗」はありません。
私の母は自分の年金だけでは暮らせない、いっしょに暮らして生活費を抑えたほうがいいという理由で離婚しませんでした。(真意は分かりませんが)
地方では、子供がいじめられないように、子供の名字を変えるため、社長夫婦が離婚していたケースがありました。(離婚しても一緒に暮らしていましたが)地方特有の「監視の目」が再起の障害になっている側面はあります。
夜逃げ
夜逃げしても法律上の支払い責任から逃れられるわけではありません。
この4月施行の改正民法では借金の時効は5年もしくは10年ですが、債権者側が「時効の中断」手続きをすることも可能ですので、物理的に逃げて時効を待つことは困難です。
この記事を書くにあたって参考にしている本では、夜逃げした場合
・債権者に知られないために住民票を移さない
・そのため国民健康保険、年金等の手続きに問題が生じる
とのことなので、「逃げた方が状況が悪くなる」と指摘されています。
これも、地方に多いですが、夜逃げの要因になるのは「監視の目」では?と思います。取引先、従業員、親族に迷惑をかけた、恥ずかしい、この町にはいられない…そういう思い。「○○さんって会社失敗したらしいわよ」という井戸端会議の怖さ。そんな噂話も時間とともに消えてしまうのですが。
バッシングに耐える
「お前の子供だけ大学行きやがって」
母が実際に倒産時に従業員に言われた言葉です。
ストレスの捌け口を探していたのか、私は両親に
「なんで大学なんて行ったんだ」
「就職活動も失敗しやがって」と言われました。
「普通に大学に通って卒業することがそんなに悪いことか?」と当時は苦しみましたが、途中から「ムカつく大人どもうるせー!俺関係ねーだろ!」と開き直りました。
必死の思いで学費を払っていた大学も、そんな生徒がいることを理解する教授は少なく、残念な思いをしました。私は学費の問題で4年で就職し、大学院に行かない決断を早々にしましたが、それだけである教授から「なんで就職するのかわからん」とネチネチ言われました。学費の問題でそもそも大学進学さえ断念する人が多い現実も、大学の中にいると分からないのかもしれません。
身勝手な大人達を10代から見れたのは私にとって良い経験でした。
「自立」この言葉の大切さを知ることができました。
個人的見解 ~ 創業支援とリスク説明は表裏一体
少し本筋と離れますが…
去年、車の免許の更新に免許センターに行く機会がありました。
交通事故死の歴史、交通事故の悲惨な動画を見せて、運転のリスクを問う。何回目かの更新でしたが、毎回説得力に磨きがかかっている印象でした。
なぜ車の免許についてはここまで整備されているのに、経営については未整備なのでしょうか?
私は20代である会社の取締役(形式的なものです)になりましたが、法務局に書面を出すだけで簡単に「取締役」になれてしまい、拍子抜けしたものです。最低限の法務、財務知識のチェック表、個人保証と倒産リスクの説明書くらい法務局窓口で渡してほしいと思いました。最低限の知識チェックも無しに持ちあげられて「経営者」になるのは普通に怖いです。
「キャバクラ社長」も少しは減るのではないでしょうか。
創業支援、承継支援や金融に従事する人たちも、「経営のリスク」について取締役になろうとする人には説明する必要があると思うのです。経営のリスクは今のような有事に一気に表面化します。
と、書いておきながら私自身も自社の若手にこの経営リスクについて十分説明しないまま、コンサルをいっしょにしているので…まだ不十分ですね。
関連記事連載:倒産家族の生活第1回:リアルな生活と正月に届かない年賀状第2回:経営者の親を殺さない方法第3回:個人保証ってまだ合法なんですか?
実際に相談を受けてみて