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100冊読書計画020『他人の悩みはひとごと、自分の悩みはおおごと。 #なんで僕に聞くんだろう』幡野広志著

子供がスマホを使ってホラーやグロいものを観ているようだ、と相談されたことがある。
その人は恐らく、自分の子供の趣味趣向が変な方向に行ったり、性格が歪んでしまったりしないだろうかということを心配したのだと思う。
ただ、僕はその相談を受けたとき、まずどうしてそんなことが気になるんだろうと不思議に思った。

説得力が薄れる覚悟で敢えて白状するが、まさにこの僕が、子供の頃にグロい映像を好んで観ていた。
果たして僕はどんな人間になったのだろう。一人暮らしで、働いていて、インドア・アウトドアに関わらずさまざまな趣味に手を出し、恋愛もそこそこ経験してきた。友達にも恵まれている。
僕はその人が不安に思うような人間になっているのだろうか。
当時それを一緒に見ていた友達は、建築士になったり、東京で家庭を持ったり、地元でギターを弾いていたりしている。
それは、かつてグロい映像を好んで観ていた子供たちが、未来で味わう地獄なのだろうか。

子供の趣味や遊びがその人間性に多大な悪影響を与えるというのは、もはや説明するまでもないくらい馬鹿らしい言説だと個人的には思うのだが、
もし子供たちに多大な悪影響を与えて未来に絶望を与える最強の毒があるとすれば、それは親を含む周りの大人の対応ではないかと思う。

スマホをチェックする。遊びを制限する。勉強を強いる。友達や恋愛に口を出す。
僕にはどこからどう見てもただの暴力にしか見えないのだが、子供が相手となると、それらが教育の技法として認知されていることが、なんだかとてつもなく気持ち悪いし怖い。グロい映像よりよっぽどグロい。

その相談をくれた人には、とりあえずそれは放っといたほうがいいという旨を伝えて終わったが、未だに僕の心の隅にずっと残っている。
そして、これと全く同じ相談が、この本に載っていた。
 
 
***
 
 
幡野広志著『他人の悩みはひとごと、自分の悩みはおおごと。 #なんで僕に聞くんだろう 』という本を読んだ。
前回記事にした『なんで僕に聞くんだろう』の続作である。
写真家であり、余命宣告をされたがん患者でもある幡野氏が、大量に届く人生相談のなかからいくつかピックアップしそれぞれに回答をする内容となっている。

本を読んでまず感じたのは、前回に比べて相談内容がグレードアップ(不適切な表現かもしれない)していることだ。
重さが違う。
不倫相手との子を育てる母親や、毒親に復讐するために自殺を企む若い人など、様々な人からの相談が届き、それらに対して相変わらず同じテンションでロジカルに答えていく様子が面白い。

ここで面白いと思えてしまうのは、タイトルにある通り「他人の悩みはひとごと」だからなのだろうと思う。

幡野氏の回答は、心理学や社会科学をベースにしたものでもないし、宗教などの説法に裏打ちされたものでもない。
ただただ自分なりの正直な言葉で相談と向き合っている。これは意外と大抵の大人にはできないことなんじゃないかとも思う。

ただ、その幡野氏の言葉が間違いなく正しいとも思わない。
前回同様、基本的に口調はキツいし、決めつけるような言い回しも目立つので、全ての言葉をピュアに受け取るのは注意が要る。その感想は今回も変わらない。

幡野氏本人も「僕ならこうする」というスタンスをとっているので、そこは相談者も読者も忘れてはならない視点だろう。
 
 
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「子供のスマホを見てみると、酷い映像コンテンツを観ていた」という相談に対して、子供のスマホを観るというその行動が子供にとって一番のショックだし信頼を失うのだという回答をしていた。
これは本当にそうだと思う。全ての親に知ってほしいくらいだ。

漫画家になりたくて絵の練習をしていた頃、なんとなくホラーな絵を描いて机の引き出しにしまっていたところ、親にその引き出しを漁られて絵が見つかり、ショックを受けた様子で「変な絵を描いている」と周囲の人たちに漏らしまくられたことがある。
ついでに、漫画家になりたいと親にしか話していなかったことを、同じ時期に楽しそうにばら撒かれた。
あの時に受けた屈辱はいま思い出しても凄まじいものがある。漫画家を目指すのは大人のネタにされる恥ずかしいことなんだ、と諦めたのもその頃だ。

絶対に良い教育というのが存在するのかはわからないが、絶対に良くない教育というのは、たぶん世の中にいくらでもある。

「他人の悩みはひとごと」と言うものの、同時に大事なヒントにもなりうるはずだ。
悩む人も、悩んでいない人も、自分ならどうするかと考えながら読んでみると、何か発見があるかもしれない。
ぐったり疲れるような、それでいて自分が少しアップデートされたような、良い読後感だった。

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