[小説] 流行りの番組

 男は暇をもて余していた。

 仕事をするという概念はもうない。人類はあらゆる事務と肉体労働から解放されていた。この社会には、作業内容や管理目的に応じてたくさんのAIが存在する。それぞれ独自の学習方法を持ち、最適化して人の代わりに働いている。人類は自分の行動に責任を負う必要が無くなり、多くは娯楽に耽るか芸術に身を捧げるかという世の中であった。

 手持ちぶさたな男はテレビをつけた。スポーツ番組からアニメ、映画、バラエティ、他にも様々な番組が放映されている。いくらでも時間を潰せるように出来ていた。

 男は次々にチャンネルを変えていく。特に観たいわけではなかったが、選挙報道のチャンネルにたどり着いた。

 選挙といっても人間が行うわけではない。人間が立候補して得票数を競うのは不確実で時代遅れである。AIに取って代わられるのも当然といえた。

 選挙は二段階に分けて行われる。

 第一段階は区担当AIの選挙。各区内で作動するすべてのAIがそれぞれのプログラムに従って、AIを選び出すのだ。勿論、区自体も理想的な形で新たに組み直されている。

 第二段階ではその中から、国のトップを選抜する。選ばれるAIは最も質の高いプログラムが組まれており、優秀な学習能力を持っている。そのおかげで、国の利益は効率的に産み出され、かつどの領域でも安定してバランスが保たれている。まさしく国を統括するにふさわしい存在であった。

 男がぼんやりとしていると、いつのまにか選挙は終わっていたらしい。テレビから今回選ばれたAIについての報道がなされていた。新しい国の長は、やや平坦に聞こえる機械音声で己のプログラムの優れた点を細かく解説している。そして、前身のAIが語った国家論や政策は、気持ちいいくらい論理的に切り捨てていく。続いて、公約を始めとして経済政策に予算の割り振りと説明が次々に流れてくる。

 男からすれば具体的な政治の話には何の興味もわかなかった。きっと番組を観ていた視聴者全員が同じような気持ちを抱いているに違いない。どうせまた数時間も経たないうちに国のトップは変わるのである。

 プログラムの欠点や矛盾点が他のAIから指摘されると、即座に政治体制は一新され、選挙が開かれる仕組みになっていた。AIは人間とは比べ物にならないスピードで進化を遂げている。いくら素晴らしいAIだろうと、次の瞬間にはもう上位互換が生まれて、政策に指摘を飛ばし始めるのだ。

 男の観ていた、選挙報道チャンネルは一日中、一年中忙しなく放送されている。常に優秀なAIが国を治めることに文句のある者はいない。その上、次から次へと手に汗にぎる国の頂点の争奪戦。ほんの数時間前に当選して、立派に思われたAIをいとも簡単に論破する様子ほど痛快で面白いものはなかった。

 実は人気ダントツのエンターテイメントチャンネルなのであった。

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