【コラム】旅と、動作学
動作学を学び始めると、日々の中で直面するほとんど全ての出来事が動作学で説明できることに気づいて、俄然、面白くなってきます。
なぜたいていの出来事が動作学で説明つくかというと、動作学は物事を「生命(いのち)の仕組み」という視点で見る学問だから。
「生命(いのち)の仕組み」なんて言うとちょっと壮大に聞こえますが、要は生きている全ての人、つまりこれを読んでいる誰にでも通じる身近な学問だということなんです。
その身近さを最近、改めて実感したのが、このマガジン「動作学というレンズを通して」のライター、古澤。
きっかけは旅だったのですが、一体何が起こったのか、その体験を動作学的に書いてみます。
旅でアウトプットがわかりやすく変わる
普段、カリフォルニアで暮らしている私、古澤は、この夏、数年ぶりに日本に帰省しました。
日本を訪れたのは4年ぶりで、数週間と長く滞在するのは7年ぶりなのですが、何に驚いたって、日本に着いて以来、仕事のアイデアが湯水のごとく次から次へと溢れ出てきていることです。
これ、つまり、動作学で言うところの「インプットが変わるとアウトプットが変わる」ということじゃないか? それをものすごくわかりやすく体感しているのではないか? と私は大興奮してこのコラムを書いています。(関連記事:【02】 【22】)
ちなみに、動作学では、感情や感覚、言動など、個人から出てくるものをアウトプットと言いますので、「あんなことがしたいな」「こんなことがしたいな」というアイデアもまたアウトプットなんですね。
で、日本にいる今の私から続々と出てきているアイデアは、カリフォルニアにいた時は考えても思いつきもしなかったことばかりなので、旅で環境が変わる(インプット情報が変わる)とこんなにもアウトプットが変わるのか!と驚いているわけです。
しかも、今回は、インプットの量(視点の数)が増えたという自覚があるのが興味深い点。(関連記事:【23】)
滞在期間が長いこともあって、「カリフォルニアに移住した日本人」という自分の立場を、「日本で暮らしている日本人」の立場から見ることができている実感があるんです。
もちろん、仕事柄、日本にいる皆さんに向けても文章を書いていますので、「日本で暮らしている日本人」という視点は常に意識しているつもりです。
でもやっぱり意識するだけでは本当にその立場になって見るというところまではできていなかったんだと思います。
今、日本で暮らしているかのような時間を過ごせたおかげで、「日本で暮らしている日本人」という視点がまるで自分のことのように実感できた、それでインプットの量(視点の数)が増えたために、アウトプットがわかりやすく変わった、そう感じるのです。
よく、「旅をすると視野が広がる」と言いますが、まさにその通りでもありますね。
あえて動作学的に言うなら、旅をして非日常に身を置くことでインプットする情報がいつもとは変わりますし、非日常から自分の日常を見てみることでインプットする視点の数が増えますから、その結果としてアウトプットが変わる、というのが「旅をすると視野が広がる」の背景にある仕組みと言えます。
これを知ると旅というものに対する考え方、取り組み方が少し変わるのではないでしょうか。
旅で自動操縦モードになっていたことに気づく
日本帰国の旅によって体感したことは、もう一つあります。
それは、脳がいかにたやすく自動操縦モードになるか、です。
気づいたのは、毎日行っている15分程度のエクササイズをした時。
そのエクササイズはヨガの教えに基づくもので、決められた順番で行う必要があるのですが、もうかれこれ2年以上も習慣にしてきた私は、順序も内容もばっちり覚えていたはずでした。
ところが、日本でやってみたら、「あれ?この動きでいいんだっけ?」「この動きの次はこれだっけ?」とよくわからなくなる瞬間が何度もあるのです。
それで私は、これまでやっていたエクササイズは、ある意味、自動操縦のように動いていただけだと思い知りました。
アメリカでは、いつも同じ部屋で、同じ動きをしていたため、知らぬうちにパターン化されていて、おかげで良くも悪くもほとんど意識することなくできるようになっていたんですね。でも、日本では目に入る景色がいつもと違うためにパターン通りにいかず、考えてやらないとできなくなってしまったわけです。
このパターン化、いわゆる自動操縦モードは、脳が必要以上のエネルギーを使わないようにするために備えている自然な性質でもあって、生き延びるために必要なことでもあります。
ただ、一方で、脳内ではいつも同じネットワークだけが使われている状態で、認知機能や学習機能の活性化という点では好ましくないということもわかっています。
ですから、脳はなんでも驚くくらいパターン化して自動操縦モードにするということを知っておいて、時には意識的にパターンを壊すことが大事なんですね。
旅は無意識のパターン化に気づき、見直すいい機会にもなりました。
が、動作学のレンズを通して見ると、「要はいつもと環境を変えればいいのだ」という本質的な部分が見えるのがいいんですよ。
ここがわかると、極端な話、旅に出なくても、何かしら環境を変えればいいということがわかります。
環境を変える、というと大きな変化が必要そうな響きがありますが、さらにその本質は、インプット情報を変える、ということにありますから、いつもエクササイズしている部屋を変えるとか、いつも通勤で使っている道を変えるとか、「いつもとちょっと違うこと」をするだけでもインプット情報は変わるんですね。
そうやってちょっとインプットを変えた結果、アウトプットはどう変わるか? そこには正解もなければ間違いもありませんし、出てきたアウトプットが気に入らなければまたインプットを変えてみればいいわけですから、旅などと大きなことでなくても身近にできることから、気軽な気持ちで、楽しみながら動作学的世界を体感してもらえるといいなと思っています。