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【12】自己肯定感とは何か

近年、自己肯定感という言葉をよく見聞きするようになりました。

もともとは心理学から発生した概念ですが、現在は生き方について考えるときに必ずついてくるといっていいくらい、一般的に知られる言葉になっています。

基本的には自己肯定感は高い方が良いとされており、動作学でもよりよい人生、よりよい社会の実現のためには、それぞれの個人が高い自己肯定感を持てていることがとても重要だと考えます。

ただ、自己肯定感とは何か、ということを突き詰めていくと、英語でもself-esteem(自尊心)だったり、self-efficacy(自己効力感)だったりと訳が複数ありますし、日本語にしても提唱する人によって解釈が微妙に異なっていることが少なくありません。

一体、自己肯定感とは何なのでしょうか?

動作学のレンズを通して見ていきましょう。

なぜ今、自己肯定感なのか

まずはじめに、今なぜ自己肯定感という考えが多くの人の関心を集めているのか、その背景から考察します。

そもそも人間は生物であるという原点に立ち返ると、私たちが生きる第一の目的は生存、すなわち生き延びることです。

そのためには何よりも食べ物を得ること、身を守ることといった生命の安全の確保が優先されますが、今の日本(そして、その他の先進国と言われる国々)の社会では、生命の安全が脅かされる心配はほとんどありません。

もちろん、生活していく上で不安があるという人はいるでしょうし、事故や災害に見舞われる危険は常に誰にでもあるのですが、日常生活の中で、飢餓や衰弱で生命を落とす脅威にさらされている人は、とりわけ日本においては限りなく皆無に近いはずです。

そのような生きる環境の変化は、私たち人間にとっての生きる目的、人生の意味を大きく変えようとしています。

今、いたるところで言われている「自己実現の時代の到来」とは、まさにそのこと。

生き延びるために必死にならなければいけなかった時代には、生きることそのものが私たちの生きる目的になっていましたが、生き延びることが容易に達成できる今、多くの人にとって人生は生き延びるためだけのものではなくなっています。

端的に言うと、「生き延びるために生きる」人生から「自己実現のために生きる」人生への転換です。

自己実現のために生きるというのは、文字通り、人生で「自己」を「実現」させていくということですから、まずそもそも「自己」を知ることが求められますし、その「自己」を「肯定」しないことには、人生をかけて「実現」しようなどとは思えません。

しかし、私たちの多くは、生き延びるために生きることに慣れていて、生命の安全を確保することについてはちょっとばかりわかるようになっていても、自己実現のために自己を肯定するということについては、まだまだよくわかっていません。

今、まさにそうした時代の転換期にあって、生き方を変える時がきているから、多くの人が自己肯定感というものを模索しているわけです。

自己受容✖️有能感=自己肯定感

このように時代背景から整理していくと、自己肯定感とは自己実現の時代を生きるために必要とされている、いわば新しい時代のライフスキルのようなものだということが見えてきます。

少なくとも、そのように捉えることで、自己肯定感の本質的な部分がわかりやすくなります。

具体的に解説します。

自己実現にあたってまず一番必要なのは、実現したい自己を知ることです。

実現したい自己というのは、簡単に言えば、他の誰でもない自分の感性や価値観。

すなわち、自分は何にワクワクして、何が嫌いで、どんなことをしたいのか、といった自分の心に響く基準を知るということです。

が、そもそも自分の感性や価値観を正しく認識するためには、己の存在をありのままに認めて受け入れるという、「自己受容」が欠かせません。

というのも、己の存在をありのままに受容することができていないと、自分自身について好きになれない部分を「足りていない部分」と否定的に捉えて、そこを埋めることが自分の望みであるという思考に陥りやすいからです。

足りていない部分を埋めたいという気持ちは一見、自分のやりたいことのように感じられますが、厳密には何かを得ることで自分を満たそうとする欲求で、自己を実現したいという欲求とは異なるのですね。

そう考えていくと、自己実現のためには、まず、ありのままの自己を認めるという「自己受容」の感覚が必要だと言えます。

ただ、「自己受容」は、「自分が何者で、どこに向かっていきたいか」を受け入れるということで、いわば自己実現のスタート地点にしか過ぎません。

「自分がどこに向かっていきたいか」がわかっても、「自分はそこにたどり着くことができる」と信じることができなければ、動き出すことができません。

この「自分にはできる」という感覚が、一言で言うと「有能感」です。

このように分析していくと、自己実現とは「自分というものを受け入れて、なりたい自分に向かって進むこと」で、そのためには、「自己受容」に加えて、「有能感」も必要だとわかります。

以上を踏まえて、動作学では、自己肯定感を、自己受容✖️有能感と捉えています。

自分を受け入れるだけでは自己実現には至りませんし、有能感があってもそれを使う目的が違えば、自己実現にはなりません。

言うは易し、行うは難し、ですが、まずは自己肯定感には自己受容と有能感の2つの要素があると理解すると、自己肯定感の育み方についてもよりクリアに見えてきます。

自己受容と有能感、そして自己肯定感についてはまだまだお伝えしたいことがたくさんありますので、また機会を改めて詳しく解説していきたいと思います。