【21】コミュニケーションのゴールは何か
さて、過去数回にわたり、組織作り、チーム作りにおいて重要な2つの点について解説してきました。
(1)組織の最小単位は「個人」ではなく「コミュニケーション」である
(詳細は【18】)
(2)「コミュニケーション」を見直すことが組織力、チーム力を上げる
(詳細は【19】【20】)
繰り返しになりますが、組織やチームにおいては、そこに属する個人の力を伸ばすのと同じくらい、あるいはそれ以上に、そこで行われているコミュニケーションの質を高めていくことが大切なのですね。
では、コミュニケーションの質を高めたその先、つまりコミュニケーションのゴールはどこか、というのが今回のお題です。
自分の言いたいことを相手に理解してもらえたら、それがゴールでしょうか?
相手の意見に自分が納得できたら、それがゴールでしょうか?
動作学のレンズを通して見てみましょう。
正解を選ぶのではなく、納得解を生み出す
早速ですが、動作学の観点から見ると、コミュニケーションにおけるゴールは、ズバリ、両者の「納得解」を導き出すことです。
どういうことかというと、AさんのAという意見、BさんのBという意見、それぞれの交流の結果として互いが納得できるCという新しい答えを生み出す、ということですね。
これ、言葉にすると普通にできていそうに感じますが、人は意外と、どちらか一方の意見を選ぼうというスタンスでコミュニケーションに臨んでいることが多いんです。
どちらか一つを選ぼうというスタンスは、正解は一つであるという考え方、もしくは、物事には優れている方と劣っている方があるという考え方と表裏一体です。
たとえば、自分の意見が間違っていると指摘されないように理論武装に躍起になったり、相手を論破するためにその人の落ち度や不備を探したり…そういうことをついやっていないでしょうか?
もしやっているとしたら、その裏には「物事の正解は一つ」もしくは「物事には優劣がある」という思考がないでしょうか?
そのように「物事の正解は一つ」「物事には優劣がある」という前提でいると、コミュニケーションは、どちらが正解か、どちらが優秀か、勝敗を決める戦いになってしまいます。
その戦いのことを討論(ディベート)と呼ぶのかもしれませんが、コミュニケーションにおいては、AかBかのどちらかを選ぶという姿勢でいる限り、どちらを選んだとしてもAかBの延長線でしか物事は発展していきません。
一方で、納得解を導くというスタンスであれば、これまであったAでもBでもなく、これまでなかったCという新しい物事を生み出せる可能性が出てきます。
動作学的に見れば、それこそがコミュニケーションの醍醐味であり、組織・チームであることの面白み。
というのも、最適解という新しい物事は、個人の力ではなく、組織・チームでコミュニケーションが行わてこそ生み出せる物事だからです。
創発が起こるほど組織・チームは強くなる
このようにAとBのコミュニケーションによってCという新しい何かが創造されることを、生命(いのち)の仕組みで「創発」と言います。
それぞれの個が互いに作用しあったことによって、それぞれの個だけでは予測できなかった新しい物事が生み出される、そうして生命(いのち)のシステムはより豊かに、強くなっていくんですね。
この見方を組織・チームに当てはめると、創発が起これば起こるほど、その組織・チームは豊かに、強くなると言えます。
簡単に言えば、1+1は2、さらに1を足して3、というふうに単純に加算していくような拡大ではなく、1+1が5にもなれば、10になることもあるし、そこに1を足したら100になった、というふうに、組織・チームがしなやかに進化成長していくわけですね。
もちろん、AとBのコミュニケーションによる最適解が必ずしもCという新しい答えではなく、AかBかどちらかに落ち着くこともありえます。
ただ、どちらかの正解を選ぼうというスタンスで臨むのと、互いの納得解を出そうというスタンスで臨むのとでは、そこで起こるコミュニケーションの内容が全く違ってきます。
ですから、コミュニケーションは勝敗を決める場ではなく、最適解という新しい創造をする場と捉えて、そこから何が生まれるか、その創発を楽しむことを、ぜひ今日から意識していただきたいのです。
自分一人では思いつかなかった新しい創発が生まれて進化成長する、それこそが生命(いのち)のシステムの素晴らしさであり、強さでもあり、面白さですから。