初めて選挙に行った話

初めての選挙は27歳の夏だった。

それまでの私は、選挙に関心がなく、強いて言うのなら21歳で結婚してから今まで、選挙に行く余裕がなかった。

日々追われる子育ての中で、ふと気付くと子どもが大きくなっていることに気が付いた。子どもが日本語を話して、そして理解している。

思えば、私が育った家では政治の話などしなかった。親も、選挙に行くような人間ではなかった。バラエティを見ては笑い、親から学びの文化を譲り受けたのは読書に関してのみだ。

これは大変なことだぞ、と思った。

親である私が、政治に興味がなく、選挙にも行かない人間のままでは、子どもたちも同じようになってしまうと思った。

メロスは、政治がわからなかったが、邪悪に対しては人一倍敏感であった。邪悪への関心があったからこそ、結果的に王政への批判をして、そして国を変えたのだ。

残念ながら、私には政治がわからないし、邪悪に関してもそこまで関心があるとは言えない。

わからないことを、わからないままにしていたらそのまま変わることがない、そう思い、選挙へ行こうと思ったのである。

当然のことながら、それまで関心がなかったから、誰に入れればいいのかも分からなかった。

左手は息子と、右手は娘の手を繋いで近所の学校まで行った。 多分、何も分からぬまま投票しても、意味はないのだろうなと思い、サッと紙に名前を書いて出した。

娘とこんな話をした。

「さっき、はま寿司に行ったね。ガチャガチャやったけど、お金を出してくれたのは誰だっけ?そうだね、おじいちゃんだね。ガチャガチャやろうとして、お母さんは『ダメだよ』と言ったけど、おじいちゃんは『いいよ』と言ったから、ガチャガチャできたね。お金を使うって決めるのは、おじいちゃんだからだね。

ここ(ちょうど自慢のコンクリートが、二箇所剥がれていた)地面が壊れてるね。

地面を直したいけど、どちらか一箇所しか直すお金がない。そんなとき、どうする?」

子「決める?」

私「そうだね。どちらを先に直すか決めなきゃだね。日本もね、日本ってわかる?そうだね、北海道とか、静岡とか、全部だね。日本もね、お金を持っていて、それをどうやって使うかを決めなきゃなんだよ。それを決める人たちが政治家で、今、お母さん名前を書いて出したね?どの人に政治家になって欲しいのかを書いたんだよ。多数決で決まるんだよ」

子「多数決?」

私「例えば、娘ちゃんと息子ちゃんが『アイス食べたい』と言ったとき、お母さんは『嫌だ、飴がいい』と言ったとするね。娘ちゃんと息子ちゃん、それとお母さん。数が多いのはどっち?」

子『娘ちゃんと息子ちゃん。に!』

私「そうだね。多数決ってのは、数が多い方が勝ちで、買った方がアイスを食べるって決めていいんだよ」

と、このような話をした。(細かい部分は、説明を省くために簡略化した)
娘は「わかった!」と言っていたが、どこまで理解していたのかは分からない。でも、子どもの意識の中に、選挙に行くという価値観を植え付けられたのならいいなあ、思った。

おわり




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