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風に吹かれタンポポは舞う

「ピサンリ」という野菜をご存知でしょうか。

「ピサンリ」はセイヨウタンポポの葉っぱで、食用タンポポとも呼ばれています。ほろ苦さが特徴で、ヨーロッパでは主にサラダにして食べられています。また、動物性の油脂との相性が非常に良いため、ベーコンや、パンチェッタ(豚バラ肉の塩漬け)などと一緒に軽くソテーにして食べられたりもしています。

先日、タワーマンションが乱立する街を歩いていた時に、タンポポの綿毛が三つとんでいるのを見かけました。いつもだったら気にも留めないような光景ですが、幼稚園に通う娘と一緒に朝顔を育てていることもありどうも気になったのです。

タンポポの綿毛はふわふわと漂いながら、どこに根を下ろそうかと考えているようでした。しかし、実際にその場所を決めるのはタンポポの綿毛自身ではありません。風に吹かれ、たまたま着地したところで、根を張らなければいけないのです。花壇に舞い降りた綿毛は喜んでいるかもしれないし、アスファルトの隙間に落ちた綿毛は嘆いているかもしれません。それが運命というものです。

私もフリーターをしながらフワフワと漂っていた時期があります(正確に言えばフラフラと彷徨っていた時期ですが)。当時の私は坊主頭にヒョロヒョロ体型で、バイトをしては飲み歩くという日々を送っていました。
そんな時に、高校時代にお世話になっていた、坊主でいかついロックなバーのマスターとばったり再開しました。(なぜ高校生の時からお世話になっていたのかは、書き始めると長くなってしまいそうなのでまたの機会にさせていただきます。)

その坊主でいかついロックなバーのマスターは原宿神宮前でオシャレなカフェレストランを経営していました。
「キッチンのスタッフが足りないから、お前フラフラしてんならうちで働けよ」
といきなり言われた私は押しに弱く、あれよあれよと言う間に最初の出勤日を決められてしまいました。

そして、そのオシャレなカフェレストランで私を待ち構えていたのは、坊主でいかついロックな料理長と、坊主でいかつい体育会系の副料理長でした。万事休す。煮えた人参とはこのことか。
料理長の大きな耳たぶにぶら下がる、太くて重そうなリングのピアスが妖しく光っています。
なんでこんなところに足を踏み入れてしまったのか、と後悔してももう遅いのです。

かくして私は料理人になりました。

物事は一見、全て自分で選んで進んでいるように見えますが、半分は風に舞うタンポポの綿毛のように、自分では抗えない運命のようなものに導かれているのかもしれません。

タンポポの葉っぱも、人生もほろ苦いのです。






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