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全文公開 『2020年6月30日にまたここで会おう』 第五檄「人生は『3勝97敗』のゲームだ」

 はい。では次のスライドいきましょう。
 リーダー論を少し。
「なぜ日本にはリーダーが育たないのか?」
 こういった議論を昔からよく見かけますが、これは問い方が間違っているんだと思いますね。
 この問いが前提としているリーダーって、要は「カリスマ」のことなんですよ。誰か自分の代わりに世の中を良くしてくれる救世主、ジョブズみたいな巨大なリーダーを求めているわけです。
 そうじゃなくて、今は、「どうすれば日本に『小さなリーダー』たちが育っていくのか?」を考えていくべきです。
 今の日本って、地縁とか血縁、会社の社縁とかでつながった古いタイプの組織が徐々に瓦解して、新しい組織やつながり、新たなルールを自分たちの手でつくっていく社会に変化していく、ちょうど入り口の段階にあるのだと思っています。
 今はまだ小さいけれど、志と静かな熱を持った「新しいつながり」「新しい組織」が、若い人を中心にゲリラ的に次々と生まれていますよね。ベンチャーやNPOもそうだし、私塾や社内の新規事業、業界横断型のプロジェクトなんかもあります。
 そういった「群雄」の中でリーダーシップを発揮している小さなリーダーにこそ、注目すべきなんです。
 社会変革というのは、ひとりの大きなカリスマをぶち上げるよりも、小さいリーダーをあちこちにたくさんつくって、その中で勝ち残った人が社会でも重要な役割を果たしていくというモデルのほうが、僕は、はるかに健全だと思っています。

ショボい場所から始めよう

 たとえば、アメリカの大統領だったビル・クリントンという人は、晩年のスキャンダルのせいで悲惨な人っていうイメージが強いと思いますけど、じつはいろんな大きな仕事をしていて、僕はけっこう良い大統領だったと評価しているんですね。
 クリントンは32歳のときにアーカンソー州の知事になって本格的な政治キャリアを歩み始めましたが、アーカンソー州って全米50州の中でも断トツのド田舎でして、仕事もないし州政府も貧乏だし、住民がどんどん逃げ出していたんですよ。
 それが、クリントンが州知事になって、立て直した実績が評価されたことから、大統領への道が開けていったんです。
 オバマなんて、もっとショボい場所からスタートしています。
 彼はもともとシカゴのコミュニティオーガナイザーという仕事をしていました。そう言うとなんとなくかっこいい仕事に聞こえますけど、要はそこらへんの市民運動家ですよ。そこで実績をだんだん積み重ねていったときに、たまたま民主党の党大会があったんですね。
 当時の民主党は国民からぜんぜん人気がなくて、「もう俺たちは終わりだ。ドヨーン」みたいな雰囲気になってたんですが(笑)、むちゃくちゃスピーチがうまいオバマが出てきて「みんな頑張ろうぜ!」みたいな話をしたら、「なんかあの人、いいんじゃない」みたいに思われ始めて、いつの間にか大統領候補になったんです。
 実際の話、オバマという人は最初、超泡沫候補だったわけですよ。当時の新聞とか雑誌を見ていただけるとわかりますが、「オバマというわけのわからないやつが急に出てきて、ちょっとずつ若者の間でオバマブームが起きている」みたいな色物扱いされてます。
 その後もしばらくメディアでは「こういう小さなブームはすぐ終わるだろう」といったネガティブな論調がほとんどだったんですが、どんどんブームが大きくなって、大統領に当選することになりました。
 なので、日本でもオバマのような、最初は小さい、辺境の悲惨な場所で頑張ってる若いリーダーが、だんだん仲間を増やして大きくなっていくという流れは、起こってぜんぜん不思議じゃないと思っています。

計画された失敗

 だからですね、いろんな立場の人が、バラバラの場所でいろんなことをやったほうがいいんです。
「計画された失敗」って言いますけど、いろんな人がローリスク・ローリターン、ハイリスク・ハイリターンで「自分はこれが正しいと思うからやってみよう」という行動を試してみたら、今日は会場に300人ぐらいいますから、そのうちひょっとしたら何人かが正しいゴールにたどりついて、天下を取る可能性だってあるんですよ。
 それを僕は期待しているわけですね。

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● 第二檄「最重要の学問は『言葉』である」(常時全文公開中)
● 第三檄「世界を変える『学派』をつくれ」(全文公開終了)
● 第四檄「交渉は『情報戦』」(全文公開終了)
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第六檄「よき航海をゆけ」(全文公開終了)

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