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【ホラー映画シナリオ】あふれる 【「禍話」リライト番外編】

【前】



 本記事は、「禍話リライト」のシナリオ(脚本)版となります。

Q.これはなんですか?

A.「禍話を原作とした短編映画の脚本」です。詳細は上↑の記事をごらんください。

 当シナリオは採用されたため、映像化され、22年12月18日(日)のライブで公開&来年ソフト化・データ販売されるようです。おもしろくなっていればいいな……

「映画脚本」へと書き換える都合上、ツイキャスで話された内容から大幅な脚色がなされている場合があります。
 その点、ご了承ください。


●○●○●

【禍話短編映画シナリオ ③】
「あふれる」


【シーン1】
 マンションの外廊下

 ドアが映し出されている。
 じわじわとアップになっていく。
 薄暗く、どことなく忌まわしい雰囲気。

ナレーション
「九州某所に住むJさんは、いわゆる『事故物件』に住んでいます」


【シーン2】
 マンションの外廊下/夜

 外廊下を歩いて、Jさんが帰ってくる。
 自室のドアの前まで歩いていき、カギを出して、解錠し、ドアを開ける。

 この一連の流れに被せて、

ナレーション
「安いからという理由で借りたマンションの一室。幽霊なんて出ないだろうと考えて選んだはいいのですが、この部屋……」

 Jさん、部屋に入り、玄関に立つ。
 部屋の電気をつけようとする。
 ふっ、と廊下に目をやる。

 廊下の途中。
 真っ暗な中に、女が立っている。
 暗さのためシルエットのみ。女であることしかわからない。
 服装も表情も見えない。


ナレーション
「……女の霊が出るんです」

 が。
 Jさん、女の存在を意に介さず電気をパチン、とつける。
 照らされた廊下、女の姿はない。


ナレーション
「しかし、慣れとは恐ろしいもので、」

 一連の出来事になんの反応も示さず、Jさんは平然とした顔で玄関を上がり、廊下を歩いて、居間へと向かう。

ナレーション
「何年も暮らしているうちに、ちょっとやそっとのことでは驚かなくなったそうです。このように……」


【シーン3】
 同室・居間/夜

 Jさん、部屋を暗くして布団に横になる。
 幾度か体をモゾモゾさせてから、ちらりと部屋の隅に目をやる。
 女が佇んでいて、Jさんの方を見ている。
 暗いので顔も服装もよくわからない。


Jさん
「………………。 (特に反応を示さない。またいるなぁ、程度の目つき)」

 Jさん、女を無視して布団をかぶって、寝てしまう。


【シーン4】
 同室/深夜

 横向きになって寝ているJさん。
 その背中側から、音もなくぬらっ、と女が姿を現す。
 顔や服装はやはりよく見えない。

 女の手がJさんの肩に乗り、指が這う。
 芋虫のように動く4本の指。

 普通の人なら飛び起きるような場面だが、しかし。

Jさん
「んんん~…… んっ、ふんっ!」

 Jさん、肩を動かして、女の手を振り落とす。
 動揺はなく、イラついた様子で鼻を鳴らして、そのまま眠り続ける。
 女の姿は、いつの間にか消えている。

 堂々と眠り続けるJさんの顔を映しながら、


ナレーション
「こんな具合に、Jさんは女の霊なんて怖くなくなっていました。
 しかし、ある日起きた出来事には、さすがのJさんも戦慄してしまったそうで……」


【シーン5】
 同室/別の日の夜

 Jさん、くつろいだ格好。
 台所で米を研いでいる。風呂場からはお湯を溜める音がしている。
 研いだ米を炊飯器に入れて、スイッチを押す。

 鼻歌混じりで風呂場まで行き、ドアを開けて浴槽を覗き、手を入れる。


Jさん
「熱ぅっ。……ま、いいか」


 Jさん、風呂場を出て居間に戻り、服を脱ぎはじめる。


【シーン6】
 同室/風呂場・浴槽
 シーン5の数分後


 Jさんが浴槽に、肩まで浸かりきったところ。
 湯気が上がる。
 お湯は浴槽のフチぎりぎりまで達している。

Jさん
「ふぅ~…… ハァ……(リラックスしたため息)」


 顔をザブザブ洗ったり、ぼんやりしたりと、ゆったりと熱い風呂を楽しんでいる。

 と、突然。

 浴槽のフチまで、ひたひたになっていた水面。
 それがじわじわとあふれはじめる。

 Jさんは身動きしていない。
 ツーッ、と浴槽の脇を伝って、あふれていくお湯。

 Jさん、異変に気づく。

Jさん
「ん…… え? えっ?」


 体を少し起こすが、お湯があふれるのは止まらない。どんどんあふれ出す。


Jさん
「え。なに? なに……?」


 そのうち風呂場の電気がカチカチとついたり消えたりしはじめる。
 狼狽したJさん、浴槽から出る。


【シーン7】
 同室/廊下

 タオルを腰に巻いて、ビショビショのまま風呂場から出てくるJさん。呆然とした面持ち。

Jさん
「へ……? なに……?」


 振り向く。
 少し開いた風呂のドアの向こうではまだ、電気が明滅している。

Jさん
「ちょっ、なにぃ……?」

 目を泳がせていると、不意に明滅が止まる。
 電気、点いている。

 Jさん、困惑顔でドアをそっと開け、風呂場を覗く。

 右から左に風呂場全体が映される。
 お湯が減った浴槽の他は、ごく普通の風呂場。

 Jさん、眉をひそめて首をかしげながら、中に入る。


【シーン8】
 同室/風呂場・浴槽

 Jさん、おそるおそるといった様子で浴槽に浸かり直す。
 それに被せて、

ナレーション
「Jさん、疲れていて幻覚でも見たのかなと、お風呂に浸かり直してみました……。お湯は、減っていました」

 浴槽、フチから5センチくらいのところまで、水面が下がっている。

ナレーション
「ちょうど、人、ひとりぶんくらい」

Jさん
「ちょっとぉっ!」

 飛び上がるように浴槽から出る。


【シーン9】
 同室/廊下など

 居間から、バタバタと着替える音。
 髪は濡れ、普段着も雑に着た状態で、Jさんが急いで居間から出てくる。手には財布とスマホ。
 顔は恐怖というより焦り、怯え。

 逃げるように廊下を突っ切って玄関へ。
 靴を履き、ドアを開けて外に出て、閉めようとする。
 隙間から顔を出し、怯え半分、怒り半分の形相で、部屋の内側に向かって、

Jさん
「ふ……風呂にまで入ってくんなよ!」

 Jさん、力強くドアを閉めてカギをかける。
 早足で歩み去る足音。

 カメラ、部屋の中から、閉じたドアにじわじわと寄っていく。

ナレーション
「さすがにこれは怖かったので、Jさんは2日後の昼まで、外に停めた自分の車で過ごしたそうです……しかし、一番イヤだったのはこのあとで……」


【シーン10】
 同室/翌々日の昼


 玄関のドアがそ~っと開く。
 外廊下からJさんが、中を伺うように顔を覗かせる。
 そ~っと廊下に上がって、風呂場を覗き、居間を覗く。
 女(霊)の姿はない。

Jさん
「フゥ……(安堵のため息) ……あっ!」

 炊飯器に駆け寄り、フタを開ける。

Jさん
「……うわぁ~」

 肩を落として、しゃもじを手にとり、中に入れる。
 固いものをまぜる手つき。

Jさん
「ご飯、カッピカピじゃねぇかよぉ! ハァーもう、もったいない……」

 悲しい顔で、どうにかしてご飯を柔らかくしようと、懸命にしゃもじを動かしている。
 その姿に被せて、

ナレーション
「まぁこんなこともありましたが、Jさん、2022年の今でも引き続き、この部屋にお住まいなんだそうです……」

 しゃもじを動かすJさんの背後、部屋の隅に女が立っている。
 こちらに背中を向けて立ちつつ、肩が細かく上下している。
 声を出さずにクックックッ、と笑っているのがわかる。

暗転


【終】


★本記事は無料&著作権フリーの怖い話ツイキャス「禍話」
 ザ・禍話 第四夜 より、編集・脚色・再構成してお送りしました。
 体験者は語り手・かぁなっきさんの先輩である「ジィル」さんです。本当に、事故物件に、お住まいの方です。


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 3巻までは完全完売、売り切り御免、増刷予定ナシ!
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 デザインがイケてるので、年末年始の飾りとしてもやっていけるポテンシャルもあります。


 
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