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短編集 ~冷~

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単発小説とかそういうのの置き場です。心が寒くなる感じのお話(作者による主観)が置いてあります。
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記事一覧

【こわい短編】ベッドの下には

【こわい短編】ベッドの下には

「くわぁ~、よっぱらったァ!」
 そう叫ぶ沙也を担ぐようにしながら、私は部屋に入った。
 よっこいしょ、と私は沙也をベッドに下ろす。沙也は「部長のバカ! しね!」などと叫んでいる。

 今夜はこのまま泊めてやるしかない。
 私は押し入れから掛け布団をもう一枚出して、テーブルをどけた。カーペットが敷き布団の代わりになるだろう……たぶん。

「……あれ? ここは令佳ちゃんのマンションじゃない?」
 沙

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【恐怖短編】見たら死ぬ絵

【恐怖短編】見たら死ぬ絵

 ……お手元の資料にございますように、今回のレポートは2024年に発生いたしました、いわゆる「見たら死ぬ絵」インシデントにつきましての私見となります。

 いま「私見」と申し上げましたが……「見たら死ぬ絵」を見てしまうとすぐ、あるいは数日内に死んでしまうということは、積み重ねられたデータ、報告によって証明されてしまっております。

 しかし「見たら死ぬ絵」を子細に分析することは、その性質上不可能…

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- 彼岸列車 -

- 彼岸列車 -

「すいません、あの」
 その声で目が覚めた。
 若い女が、私の顔を覗き込んでいる。
 背と尻に硬いクッションの感触、心地よい定期的な振動。あぁそうだ、俺は終電に乗ったんだと思い出す。ガラガラの車内に座り、そのまま眠ってしまったらしい。
 仕事終わりの深夜とは言え空いてるな、と座ったまでは覚えているのだが──。

 寝起きのぼんやりする頭を上げると、乗客が4人立っていた。
 若い女はワンピース姿で、

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華道書道茶道、全道是殺人道也 #パルプアドベントカレンダー2021

華道書道茶道、全道是殺人道也 #パルプアドベントカレンダー2021

 老人は会長室から飛び出した。
 和服の裾をはためかせ渾身の力で逃げる。

 片方の雪駄が脱げる。
 振り向けば暗い廊下に白い雪駄、それを拾った者がいる。
 侵入者だ。
 五階、会長室の窓を突き破って入って来た。
 細身の黒いパーカー、フードを深く被り、顔は見えない。

 侵入者は雪駄を掴んで立ち止まる。
 老人の視線を確認してから、顔のあたりまで上げ、前に突き出す。
 ぱきん、と、硬い木で作られ

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【恐怖短編】暗い夜道は ピカピカの お前の鼻が役に立つのさ…… #パルプアドベントカレンダー2021

【恐怖短編】暗い夜道は ピカピカの お前の鼻が役に立つのさ…… #パルプアドベントカレンダー2021

 しかし、と、真っ赤なお鼻のトナカイさんは思いました。
 自分の鼻が役に立つのは、クリスマスの日だけではないだろうか、と。
 この赤く光る鼻を誇れるのは、クリスマスの前後だけではないだろうか。
 それ以外の時期はやはり、自分は笑い者にされて、泣く毎日を送るのではないのか。

「アイツの鼻ってそりゃあ、クリスマスには役に立つけど……」
「でも他の364日は何の役にも立たねぇんだよな」
「そりゃそうだ

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【短編】レールの上に石を置く夏

【短編】レールの上に石を置く夏

 太陽の下、山の蝉が無数に鳴いていた。
 夏美は進入防止用の金網をめくり上げて、中に入っていった。
 サンダルがざくざくと砂利を踏む。薄い桃色のワンピースから出た腕の先には、小ぶりの石が握られている。
 俺と直人は金網の外で、彼女の背中を見ている。
 夏美の向こうにはもう一枚、水色の金網が延々と横に伸びている。その先には森がある。濃い緑のせいで夏美の首筋や足が、より一層白く見えた。
 線路のそばま

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【短篇】わたしは拳銃をもっている

 会社に行く時刻になった。
「じゃあそろそろ、時間だから」
 僕は美奈子に告げた。それから腰を曲げ、玄関脇に置いてある木箱に手を突っ込み、拳銃を一丁つかんで、取り出した。

 今朝は黒く重量感のあるトカレフだった。箱の中は覗かずに取る決まりを夫婦間で交わしているので、7丁入れてあるどの銃をつかむのかはわからない。朝のちょっとした楽しみだ。今日はどの銃だろう、と。朝のニュースバラエティーの星座占いや

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【怪談】ともだちの実家

【怪談】ともだちの実家

 大学に通っていた頃、同じゼミをとっていた、篠田(仮名)という男から聞いた話。 

 自分は怖い話が好きで、高校の頃から友達や親類に隙あらば、怖い体験はないか、不思議なものを見たことはないか、と尋ねて回っていた。
 その一環として、ゼミで知り合った彼にも聞いてみたのである。 

 篠田は、話は上手くないが、複数の怖い体験をしていた。以前書いた、
〈学校の運動場に黒いゴミ袋が舞っていると思ったら……

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【恐怖短編】 謝罪会見

【恐怖短編】 謝罪会見

 テレビをつけると、昼のニュースバラエティが放送されている。 
 スタジオにいる司会者が、前方にあるらしいモニタを確認しつつこう言っているのが映る。
「えー、会見ですが……そろそろでしょうか……。彼は会見で、一体何を語るのか……」
 画面の右上には「三田雄季 会見 緊急生中継 何を語る」と字幕が出ている。
 右下には別の画面が開いており、記者会見場が映り込んでいる。
 レポーターや記者らしい後頭部

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【怪奇短編】 からのつま

【怪奇短編】 からのつま

 妻がこなごなに割れたのはほとんど事故のようなものであった。わめきなから夫の服の袖をつかんだため夫が「離せよ」と腕を引くと妻は身体の均衡をくずした。マンションの廊下に夫の実家から届いた林檎の詰まったダンボール箱があったのも災いした。
「あっ」
 箱につまずいた妻はよろけて膝から倒れた。すると膝が砕けた。厚手の食器の割れるのとよく似た音がした。勢いをそのままに身体が廊下に倒れ伏した。太股から上、頭の

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106つ、または107つ、ないし108つのジョー・レアルの生首

106つ、または107つ、ないし108つのジョー・レアルの生首

 ジョー・レアルをぶち殺して首を持参した野郎には10万ドルくれてやる。
 そう俺たちが宣言したその翌日。さて、何人が首を持ってやって来たと思う?

 212人だ。

 持ち込まれたうちの半数は偽物だったが、あとはどっからどう見たってホンモノの、ジョー・レアルの首だった。
 信じられるか?
 俺には信じられなかった。バーにいる仲間の誰もがそうだった。

「ふざけやがってよッ!」
 ちびのトゥコは短い

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【厭短編】そらわたり

【厭短編】そらわたり

 ほれ。あんた。
 あんまし覗いとぅと、よくないで。あぶないあぶない。
 そこの谷ャ、底無しや云うからな。深くて暗くて、なんも見えンじゃろが。
 なんも見えんちうてよォく覗くと、落ちてしまうかもしれんからな。

 あんたさん、役所の人じゃろうね。それも村ン方でなくて、市の方のだがや。それとも、県の方からかの。
 ン。なして判るンやちゅうてョ。あんたみてぇに若いモンが、こがいな村に来るちうたら、お役

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【短編小説】[特-0001] 川岡猛浩 探検隊シリーズ/緊急生放送! 中国・絶叫省の奥地に、巨大マンドラゴラが自生していた!!

【短編小説】[特-0001] 川岡猛浩 探検隊シリーズ/緊急生放送! 中国・絶叫省の奥地に、巨大マンドラゴラが自生していた!!

☆参考資料

[録画、開始]

[再生]

(当時の中国、都市部と思われる風景が映し出される)

(効果音)
デギョーーーン!!!

(字幕1)
 川岡猛浩
 探検隊シリーズ
 

(字幕2)
 緊急生放送!
 中国・絶叫省の奥地に、巨大マンドラゴラが自生していた!!

暗転
ライトが点灯し、丸い光の中に「VHSテープ」が映し出される

(男性1=ナレーション)
 これが今回、我々の元に送られてき

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【短編】ある復讐者の話【二次創作】

【短編】ある復讐者の話【二次創作】

 冬の風が、墓地を撫でつけていた。
 そこらじゅうに雪が残っている。無数に並ぶ墓石は雪をかぶり、名前と墓碑銘は白く潰れ、どこの墓にも、供物は何もなかった。

 この寒さの中では当然だ、と俺は考えた。猛吹雪の翌日、曇った1月のこの天気の下、墓参りなどする奴はいない。普通は。
 その寒風の中で佇む男を認めた時、俺はため息をついた。吐く息が白い。つまり奴は、普通じゃないということだ。 
 奴は、ジョニィ

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