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藤井二冠の2020年敗局より見えるもの

藤井くんの今年を振り返ります。ただ、棋聖、王位、の二冠獲得や銀河戦優勝などで華々しく活躍した場面はメディアにまかせて、藤井くんが年末、年始に対局が空いたこの間に「やっているだろう」と思われる今年の反省を中心に見てみようと思います。

2020年の対局結果は53勝10敗、タイトルに絡みながらの勝率0.841!で文句のつけようのない成績です。しかし敢えてその内の10敗の内容について検討します。

2020年内 藤井2冠の敗局(10敗、先手6局、後手4局)

2020.02/11 角換り (千田七段) 後手 朝日杯準決勝
2020.03/09 角換り (出口四段) 後手 棋王戦
2020.06/10 横歩取り (大橋六段) 先手 王座戦
2020.07/09 角換り (渡辺棋聖) 先手 棋聖戦第三局
2020.07/24 一手損角換り (丸山九段) 先手 竜王戦(千日手指し直し局)
2020.09/12 横歩取り (豊島竜王) 先手 JT杯
2020.09/22 横歩取り (羽生九段) 先手 王将リーグ第一戦
2020.10/05 相掛り (豊島竜王・叡王) 後手 王将リーグ第二戦
2020.10/12 角換り (木村九段) 後手 NHK杯二回戦
2020.10/26 四間飛車 (永瀬王座) 先手 王将リーグ第三戦
(段位、タイトルは対局時)

全体として見ると意外に藤井くんが得意としてきた角換わりでの敗戦が目立ちます。またかねてより苦手とされていた横歩取りがそれに続きます。
角換わり4局、横歩取り3局、一手損角換り、相掛り、四間飛車がそれぞれ各1局です。
矢倉は1局もありません。従って今や藤井くんの得意戦法は角換わりから矢倉に移行したことが分かります。このところ先手番の初手が2六歩から7六歩に変わってきたことがそれを証明しています。

この変化はコロナ禍での休業期間中に矢倉への傾斜を強めたものと思われます。AbemaTVでその間、深浦九段vs藤井七段のネット対局が企画され、レジェンドチーム(谷川、佐藤、森内)の眼前で先手矢倉で圧勝しました。これが休業明けの棋聖戦最年少挑戦・獲得の布石になったものと?

一方角換わりはソフト研究が進み、最終盤まで一本道の作戦にハマってしまうと藤井くんをもってしても挽回が難しい戦法になりつつあるのでしょうか・・・また横歩取りは従来ソフトが不利な戦法としていたものが、見直されてきたので藤井くんにとっては苦手戦法の克服と言った意味で今後の課題の一つになります。(角の使い手、必ずしも飛車の使い手では・・・)

ただ、10敗の中で有利とされている先手が6局、不利とされている後手が4局も気になる方がおられるでしょうが、これは偶々これまで振り駒率が後手に偏っていたものが今年は大巾に先手局が増えたせいです。

一方将棋界全体を見るとソフトと事前研究で圧勝する将棋もありますが、それに対抗するために終盤に局面を複雑化するような泥沼(米長流?)状態が出現することが増えています。(直近では豊島竜王vs羽生九段のA級順位戦など)

将棋は完全情報ゲームなので基本的には運の要素が少ないのですが、選択肢が多く複雑になると人間(コンピュータも含め)の判断にはまだまだ運の入る余地は大きい。ある意味ソフトによる序中盤の研究の整備が、逆に人間による終盤の乱戦を生み出している。

それに着目した豊島竜王が対人研究を再開したり、藤井くんが終盤の読みの精度を高めるため詰め将棋の勉強に力を入れるようにしています。

「混沌の制御」と書くと相矛盾した命題のように思われるでしょうが、局面を複雑化するか、簡明化するか、またソフトの読み筋を追うのか、あるいはその裏をどこでかくのか、等の判断はこれから益々重要になってくると
考えています。

2021年は「誰がこの混沌の泥沼から抜け出して来るのか?」楽しみは尽きません。

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