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富山のガラス

 富山はガラスの街だ。「富山ガラス造詣研究所」には日本屈指の設備と世界からの講師陣がそろっていて、未来のガラス職人たちが研鑽を積んでいる。さらに富山にはガラスの美術館もあれば、ガラス作家の工房も点在。空港には「無限の彼方」というガラスのオブジェも展示されている。
 富山は何度も訪れているけれど、その旅取材の目的はガラス作家ピーター・アイビーに会うためだった。
 ピーター・アイビーはテキサス州生まれのアメリカ人。もともとアートスクールの講師をしていたが、未知の世界を知りたくて日本へ。そして富山で本格的にガラス作家の道を歩むようになった。
 ピーターのことは雑誌で知った。それはグラスだった。後日、なんとか手にいれて使っているとますます彼の器に惹かれていった。機能とデザイン。繊細と温かさ。静謐と物語。職人的修練に裏打ちされた技術から生まれる彼の器には、実用とアートに必要なものが声だかに主張することなく共存していた。それはどのような場所で生まれるのか、工房を訪れたいという想いは大きくなるばかりだった。
 想像の通りだった。ピーターの工房はそれほど大きなところではなく、あちらこちらに手作りの跡がうかがえる空間だった。
 ピーターはわたしたちのためにグラスを創る過程をみせてくれた。型を使わず、宙吹きという技法で創っていく。息を吹き込み、引き竿を回転させて形を整えていく。
 ピーターが制作に入ると音が消えた。道具の音以外は、風と鳥とカメラのシャッター音しかしなくなった。彼は無心にガラスと向き合う。時間にして40分ほど。集中力と根気と体力のいる仕事だ。量産できないことはその場にいる誰もがわかった。
 終わったとき、ほっと吐息をもらしたのはわたしたちのほうだった。