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【禍話リライト】「あめあめ……」

怖い話をするツイキャス【禍話】。
そこに、時折名前が出てくる人物に【多井さん】という方がいる。
語り手のかぁなっき氏のお知り合いであり、怖い話の最後に確信めいた嫌な一言を添えて、リスナーを震撼させるのが禍話における主な役割だ。
この話は、多井さんが嘗て住んでいた、大分県のとある地域に関する出来事だという。


当時、多井さんの住んでいた地域の近所に、ボロボロの家があったそうだ。
その家は、屋根が無く壁も崩れ、倒壊しかけている状態であり、とても人の住める代物ではなかった。

しかし、そんな状態なのにも関わらず、何故かホームレスや得体の知れない輩が集まって来ていたのだという。

最早雨風も凌ぐこともままならず、運が悪ければ建物の下敷きになる恐れがあるような場所だ。
それよりなら、公園なりを利用する方がはるかに安全といえるはずだ。
しかし、それでも定期的にそのような人たちが家の中に入っていたのだそうだ。

また、身元の分からない人達の他にも、カルト宗教に所属しているような人達も、その家に入り込んでいるとの話もあったのだという。


(なんか皆、あそこに集中して集まるね、ちょっとおかしい人が…)

多井さん自身も、その家を見かける度そのように思っていたそうだ。


そのような状況であったことから、地元の警察官等がその家の一帯を見張っていたのだが、それでもいつの間にか侵入されてしまい、時にはホームレスが、家の中で亡くなっていたということも度々あったのだそうだ。

取り壊せばよかったのであろうが、その家と土地の権利関係が複雑であり、持ち主が誰かもよく分からない状態であった為、当時は放置する他なく巡視を強化する等で、警戒を強めることしか出来なかったのだという。


多井さん自身は、『そんな所に行くやつは馬鹿だ。私は行かない』、とのことで進んでその家に近づくことはなかった。



しかし、多井さんの先輩にあたる人は、次のような体験を多井さんに話したのだそうだ。


その家の近くを通りかかった時のこと。
例によって、家の中に何者かがいるのが見えたそうだ。
その身なりからして、ホームレスだろうとのこと。

しかし、その時の天気は雨。
(馬鹿だなぁ、凌げないのに)
などと思いながらも、その場を去ろうとした。






「・・・・・・・・。・・・・・・・・。」





中のホームレスが、何かを話しているのが聞こえる。

いや、歌っているように聞こえた。
それも、何かの歌の一節のみをずっと繰り返しているようだった。


(うわ!気持ちワリ!何歌ってんだ!?)

足早にその場を去り、帰路に就く。
その時になり、漸くあのホームレスの歌っていた歌は、童謡の【あめふり】だったと理解できたのだという。

(あぁ!あれ、『あめあめふれふれ、かぁさんが~』のやつだ。いやでも、気持ち悪いなぁ…)

歌の正体が分かり腑に落ちつつも、それを雨の中ホームレスがあの場所で歌っているという状況に、気味の悪さを感じざるを得なかった。



そして次の日。
件の家にパトカーが向かっているのが見えた。

聞くところによると、またしても家の敷地内でホームレスが亡くなっていたのだという。
しかし、その死亡推定時刻というのが、昨日先輩が通りがかった時間よりも前なのだそうだ。


(アレ?怖ぇな…)

もし、歌っていたのが死後そこにいたモノだったとしたら…。
仮に生きている人間が歌っていたのだとしても、その近くにはそのホームレスの亡骸があったということになるはずでは…。

どちらにせよ、体験した身からすれば、気持ちのいい出来事ではなかった。


そんなことがあってもなお、その家は取り壊されることはなかった。
だがしかし、度重なる不法侵入の前例からか、家の周りに柵が設置され、容易に侵入することが出来なくなっていたのだという。


それから暫くして、奇妙な噂を先輩は耳にした。

「あの家で、誰かが歌っている」
「家の近くを通ると、童謡歌ってるのが聞こえる」

そんな話だった。

あのような体験をした先輩からしたら、堪ったものではない。

(誰が!?悪趣味な奴が作ったのか知んないけど!気持ち悪!!!)



そこまで聞いて多井さんは、
(人が死んだ後すぐって、出来過ぎてるでしょ。何も考えてない人が言ってるにしてもねぇ、何年後ならまだしも…)
と、心中はドライに割り切りつつ、話を聞いていたそうだ。

そして後日かぁなっき氏に、
「そういう所があって。『不吉だ~』ってみんなが言って、馬鹿みたいだろ?」
と、軽口を叩きつつその話をしたのだという。




それから数年後。
時間はかかったが権利関係の問題が解決し、その廃屋は取り壊された。

そしてその跡地は、駐車場になったのだそうだが、不自然なまでに駐車料金が高く、おまけにすぐ近くにそこよりもずっと安いコインパーキングがあるという妙な土地になっていたそうだ。

料金の関係もある他、曰く付きな土地でもあった為、基本的にそこに駐車する人はまずいなかった。

しかしある日、他県から仕事でやってきた人が、そこの駐車場を利用してしまったのだという。


(変な停めにくいとこだなぁ…)

そう思いつつも車を停め、ビジネスホテルに向かおうとしたが、突如凄まじい睡魔に襲われたのだという。

(あれ…?すんげぇ眠い…。なんで…?)

移動もままならない程の眠気だった為、そのまま1時間程車内で眠ってしまったそうだ。


目を閉じ、倒したシートに身を預け眠りについていると、自分の車の周りで、パタパタと慌ただしく歩き回る音が聞こえた。

(んぇ…?うるせぇなぁ…)

それに反応し、夢現の中覚醒しかける。

その中で聞いた、車の周りを歩き回るナニカ。
足音は、幼稚園位の子供のような、体重の軽い人のそれであったそうだ。

しかし、それに混じり聞こえる呼吸音と発し続ける声。
それは明らかに子供のモノではない、中年の男の声だったという。


(なんか…意味不明なかんじだなぁ…ゆめでも見てんのかなぁ…)

自身の置かれている異様な状況と、車を回るちぐはぐなナニカの存在。
これらの情報から、自分はまだ夢の中なのだと、その人は思っていた。

そんな中徐々に、外の男が何を喋っているのかが、聞き取れてきた。

男は、ただひたすらに同じことを連呼し続けていた。







「かぁさんがー。かぁさんがー。かぁさんがー。」







(何言ってんだこいつ……。あぁこれ『あめあめふれふれ』のやつだ……ナンデそこやねん!)

そう思った瞬間に、漸く完全に覚醒することが出来たそうだ。



その時には歌う声も歩く音も聞こえず、周囲に人がいる気配はなかったのだという。
しかし、それ以上に気になることがあった。

異常なまでに疲れている。
鏡越しに自分の顔を見ると、はっきりと目の下にクマが出来ている。

(えぇ!?疲れたから寝たのに!?)

結局その人は、疲労困憊の体のまま仕事を終え、そのまま何事もなく帰路に就くことが出来たそうだ。



しかし、件の駐車場に駐車した社用車に問題があった。
その後、その社用車を使用した人の話によると、ある違和感を感じたのだという。

具体的には、サイドブレーキやハンドル等の手で触れる部位が、(ジトッ…)と、湿っている感じがしてならないのだそうだ。
何度拭いて、清潔に保とうとしても、いざ握ると(ジュク…)とした感触を一瞬覚えてしまう。

そんな報告が何度か聞かれ、流石に気味の悪さを感じた会社は、その車を売りに出し手放したのだという。



後年そのことを人伝手に聞いた多井さんは、
(あ!こりゃやべぇな!)
と思い、再びかぁなっき氏に、あの家と土地に関する話をするに至ったそうである。

そして全てを話し終えた多井さんは、最後にこう一言口走った。




「これは、私が一言足さなくても怖い!」




出典:【木曜怪奇スペシャル 投稿!特ホウ逢禍 第一回】

(2024/04/06)(1:16:28~) より



本記事は【猟奇ユニットFEAR飯】が、提供するツイキャス【禍話】にて語られた怖い話を一部抜粋し、【禍話 二次創作に関して】に準じリライト・投稿しています。



題名は【ドント】氏(https://twitter.com/dontbetrue)の表記の題名に準じています。



【禍話】の過去の配信や告知情報については、【禍話 簡易まとめWiki】をご覧ください。

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