CASE 6 BIOMAN

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 久々のDONCAMATIQ、CASE6はミュージシャンだけでなく、デザイナーとしても活躍するBIOMAN(バイオマン)さんです!今回のインタビューでは、これまで取材をしたミュージシャンやアーティストの方々ともまた異なる、新しい音楽制作の方法や考え方を伺うことができました!お楽しみください。

DAWというものがあるらしい。遊んでみよう


― これまでのインタビューでは、PCやDAWをMTR的な使い方で作曲している方々が多かったのですが、BIOMANさんはどうでしょう。

BIOMAN(以下B) 「MTRをPC上に再現したもの」というDAWの存在は子供の頃から知ってて、俺が中学に上がる時、兄貴(オオルタイチ)が作曲で使ってたPCを実家に置いて大学に進学していって。それを何気なくいじってたら、そういう画面が立ち上がって。けど、その時は何の情報も無いし、「あ、これが例のそれなんや」って。でもいじってみても、もうなんのこっちゃわからない。とりあえず兄貴が作ってた曲が再生される。兄貴はもう、その時からオオルタイチとして活動してましたね。

ー 中学生でDAWの存在を知っているって、めずらしいですよ。当時のBIOMANさんは「自分も曲を作りたい」と思っていました?お兄さんがオオルタイチとしてそばで音楽活動されていたとなると、影響は大きそうですが……

B 作りたいと思っていましたね。親父がギターを弾いてたのもあって、自分も小4くらいにはギターを触ってたし。親父はもろに学生運動の時代のフォークとかの人なんで。家にマーティンのギターがあって、中1になって自分でギターのセットを買った。中3の時にはドラムもはじめたかな。

ー おお、なるほど。むしろお父さんの影響があったのかもしれないですね。ちなみに中学生頃って、何年頃ですか?

B 1999年とか?そんくらいかな。

ー 1999年だと、PCでDAWをする人自体、まだ多くはなかったかもしれないです。オオルタイチさんのPCに入っていたのは、『ミュージ郎』でした?

B 『ミュージ郎』!(笑) 兄貴のは『Cubase』だったと思うけど、『ミュージ郎』っていうものがあるんだって、存在は知ってましたね。

ー 『ミュージ郎』はRoland社の製品です。使っている人が多かったので。それから当時はみんな、デジタルハードディスクの『Roland VS-880』を使っていました。

B 俺は結局、ソフトの使い方が全然わからなかったのもあって、YAMAHAのオールインワンなやつ、シーケンサーとか音源が一緒になったMTRというかDAWの代わりになるものを使って、フロッピーに記録して曲を作るっていうのをやってましたね。型番とか忘れたけど。それ経て、大学に行く時にはじめてちゃんとしたDAWを買ったんかなー。

ー オオルタイチさんが残していったPCは使わなかったんですか?

B もうブラックボックスのままでしたね。「わからん!」ってほっといてた。俺も兄貴の真似して『Cubase』と『MacBook』を買ったけど、『Cubase』がわけわからなすぎて、しばらくは曲を作るというより遊んでた。使い方が分からんので「なんか違うな……」「DAWってもっと色んなことできひんのかな?」って思って(笑)それで『Ableton Live』に変えたんかな。

ー BIOMANさんが大学生の頃は、段々と『Ableton Live』を使用する人が増えていた記憶があります。

B わかりやすいし、何かアイデアを思いついてから形にするまでが速いのが良い。あんまり余計なことを考えなくていいし。大学在学中は誰に発表するわけでもなく、『Ableton Live』のWarp機能を使って、音を遊び倒してた。

ー ご自分で素材は集めたり、録音をしたりなどされていたんですか?

B いや、あり物の曲のテンポ落としたり。

ー DJのようなことをされていたんですかね?リミックスとか。

B そんな感じ。当時は録音はあんまりしてなかったかな。その頃はもう『neco眠る』をやりだしてました。

ー そうなんですね〜。『neco眠る』の活動開始と共に曲作りをはじめたのではなく?

B 何がきっかけで曲作りをちゃんとやりだしたのか覚えてないな……。あ、あれや、ソロ出したんだわ。あんまり人に聴かせたくないから言ってなかったけど。『ミサンガ』っていうやつ。作ったけど気持ち悪くて(笑)それが本格的に曲作りでDAWを使ったきっかけかな。

ー ソロ作品を作って以降、『neco眠る』でも曲を作り始めた?

B そうですね、セカンド以降。


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自分で自分に驚きたい


ー BIOMANさんは、曲の何から作りはじめます?

B 決まってないですね。リズムからだったり、メロディからだったり、コード進行からだったりすることもあるし、歌詞からの場合もあるし、単なるモヤッとしたイメージからもあるし……。

ー そもそも曲を作り始めるきっかけってあったりしますか?「何となく今、曲がかけそうだな」というふうに、いわゆる降りてくるタイプの人もいますけど、そういうことはあります?

B なんやろうな、何となくでできるのも無いことは無いけどね。仕事案件ならスムーズにできるかも。

ー お、そうなんですね。

B 仕事依頼があると「仕事をしてやろう」って気合いが出るから。けど、『千紗子と純太』みたいに自発的に作る場合はリズム、メロディ、コードとかの器楽的要素からはじまるんじゃなくて、自分がほんまにめっちゃ「伝えたい!」って思うことがあった時に作ることのが多い。めっちゃミュージシャンっぽいこと言うと(笑)

ー 今は仕事で作るだけじゃなくて、伝えたいことを曲にすることが増えたんですか?

B 伝えたいことがあって、そこから「これを伝えるためにはこういうコード進行」でとか「こういう歌詞で」みたいなことを考えてく。DJとか色々やってきたけど、すごいシンプルな姿に戻ってきた(笑)なんかミュージシャンのこうあるべきっていう感じに(笑)最近は。

ー なるほどー。その伝えたいことを音楽にする時はどんな曲作りをしてますか?

B コード進行とか、音階とかリズムとかが自分の感情にひっついてきたり、いろんな要素が一緒に浮かんでくる場合もある。頭の中で鳴ってる音を整理せずに一回鍵盤に落としてみたり。仕事的に、器楽的要素発進とか、何hzが気持ちいいとかの自分の音響フェチズムを頼って作れる時もままあるけど、そこに本気で気持ちを投影できるまで没頭する時間が余計に必要。

ー その時によるってかんじですかね。

B そうかな。でもその先が難しい。ただ出来上がれば良いとは思ってなくて、自分で自分の曲を聴いて驚きたいんですよ。曲を完成させることは簡単だけど、それが自分が作ったからこそ想定範囲内の音楽だと嫌。例えば、自分が作る曲の構造がどう成り立っているのか、予想できたり理解できてしまうのがすげー嫌で、それを避けるために試行錯誤手し出して、いつも完成までにめっちゃ時間がかかる。

ー わー、「自分が作る音楽に驚きたい」っていうのは面白いですね。ストイック。自分の色を追求したい人もいますけど、BIOMANさんは逆なのかな。常に新しい領域にいきたいということですよね。自分の手グセみたいなものを避けるために、具体的にはどんなことに時間がかかるんですか?

B 具体的にどれにっていうのは無いね。手グセを避けれる方法論を一度見つけてしまったら、またそれにも飽きてしまうから。だからすごくしんどい。今作ってる曲だと、ビートを作るのにもう3〜4ヶ月もかかってるとか……。

ー そんなにですか!?すごい精神力。他のパートは決まってるんですか?

B いや、ビートはじまりで、その曲。ビートから着手してるから先に全然進めへん。もう五里霧中なんよ。自分が驚きたいがために、例えばドラムなら、スネア、キック、ハイハットの相互関係が見えてきた時点でもう没にしたくなっちゃう。
うやむやに「わ〜!」ってやったりすると一小節だけ自分の手をある程度離れて良い感じになってるなって思う瞬間があるとして、それを曲全体に適応すると、その一小節の中だけで通用してたとか……。新しい言語が必要。

ー 言語?

B 1・3がキックでスネアが2・4、みたいなありきたりなビートがリスナーと俺の共通認識、母語みたいなもんだとしたら、リスナーと俺がまだ知らないけどなんとなく分かる第二言語以降で落ち合うのが理想で。主語をキックとするなら、英語だとキックは要るけど日本語ならキック無しでもそれはそれで成り立っている、要はキックスネア等の音素間に俺も知らない関係性を適用できたら最高で、それが新たな言語を見出す作業っぽいなと。かといって自分勝手に並べりゃいいってもんでもなくて、あくまで他人の存在を想定した上で。トラップのトリプレットとか1拍目にアクセントを置くグライムの感じとかの、百匹目の猿現象で生まれた形式美みたいなのがいいんですけど、自分も知らない言葉を一人で喋る気合と、言語として機能させなきゃいけないという塩梅がとても難しいですね。それが自分の手グセを避けてる所以でもあるんですけど、主観に染まってしまうという意味で。

ー 勉強しながら、探して探して。でもあんまり追求しすぎると、また自分の作るものの先が見えてきちゃって……

B そうそうそう。

ー それを永久に繰り返して……うわ〜〜〜。

B でもハマる時はあるんよ。完成したものの新境地っていうんですかね?自分のスキルの斜め上にいった瞬間、ほんまにずっとやり続けてたらどっかで落ち着くポイントがあるってことを信じてるから無駄に長くかかってしまう。

ー でも『千紗子と純太』のアルバム『千紗子と純太と君』に関しては、結構短い期間で作られてましたよね?

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B 考える時間を除いた実務時間はそんなかけてないですね。『千紗子と純太と君』は折り合いをつけたところもあるから。「折り合いをつけたらここらへんに落ち着くんや」というのは、発見できて良かった。

ー そうなんですね。探しながら、勉強しながらという作り方だと、例えば既存の曲からモチーフを得て作業を進めていくとか、こういう感じの曲を作ろうとかイメージを持ってはじめることはないんですか?

B いや、めちゃくちゃあります。でもそのままやるっていうのは自分の中では無いですね。サンプリングのノリも俺には無いし。

ー なんとなくBIOMANさんのスタンスがわかってきました。

B 曲作りには関係ないですけど……、たまにTips(※裏技など)とかあるやん。どうやったら早くやれるかとか、『Ableton Live』のショートカットだったり、ブラウザーをこうしたらより早く目的のものにたどり着けるとか。実作業に関することに留まってる情報ならいいんですけど、曲の精神性を決定づけてしまう領域まで言及されてて、無理。あんなものを皆有り難がってるんかな?

ー それは厳しすぎる(笑)

B けど、『FACT magazine』とか見てると、『Ableton Live』を使って「はい、10分でできました!」ってやってるやつとかあって、ああいうのキモくないですか?だってできた曲全部当たり障りないやん、そんな早くできたかどうかなんてどうでもええでしょ。逆に、『Ableton Live』のチュートリアル動画で、普通の人は「Liveのこの機能はこのショートカットを使えばより早く曲ができますよ」って紹介してる人が多いけど、なんか一人だけ「曲名を先に決めろ!」って人がいて面白かった。

ー (笑)

B 「曲名先につけたら、めっちゃ早くできるよ」って。こういう裏技は好き(笑)精神性のTips(笑)

ー Tipsだと思って読んだら「机の上は散らかすな!」って書いているものとかありますよね(笑)そういう世話は別にいらないんだけどなあと思いつつ、確かに作曲に置いての精神論、そういう気持ち忘れてたなって……(笑)

B 普通の技術的なTipsってクライアント仕事やったり、希望に沿って作曲するみたいなことでいったら有効なんやろうけど。

ー 完成形が見えた状態から作業を始める場合は良いですよね。

B うん、ある程度あたりをつけれてたらね。そういう作業はしないこともないんだけど、だんだん許せなくなってくる。あとから聞いたときに「全く……しょうもないことをしてしまったな」って、石川五ェ門じゃないけど「つまらんものを切ってしまった」みたいな。あたえられたルーティンでこなしてしまったことにすごい後悔するんよね。一人風呂入ってる時とかに。そういう気持ちになるのが辛いからこそ、予防線を張ってストイックにやってるところも少しはある。


機材にノスタルジーを感じたくない

ー DAWはずっと『Ableton Live』ですか?

B そうですね。音は全然良くないけど。バージョンは9のままでも良かったけど、10にしたらちょっとは良くなったかな。

ー 音源はどんなものを使うんでしょう。ソフトシンセとか、使います?

B すごい使います。昔はハード主義者で、テープエコーとかラック型のめっちゃビザールなミキサーとか、色々集めてたんですけど、もう飽きて(笑)場所とるし、金かかるし。かっこよく言ったら今は「イン・ザ・ボックス」って言うんですか?「ITB」。全部プラグインで済ませる、もうそれで良いかなと思って。
ハードに対する神話的な期待とか無いすね。音は確かにすごく良いと思うんですけど、でも音が良いってだけで曲作りのやり方だったり自分の精神性を捻じ曲げてまで。わざわざハードを使う必要ないかなって。音の良さより、ハードを置いて部屋がごちゃっとすることによるメンタルへの弊害を気にするようになったみたいな。音色は別としても、シーケンスとしてリズムマシーンを使うとしたら、色々想定できちゃうじゃないですか、打ち込む前から。ボタン押して、BPMを決めて……。なんか俺としては「使う意味あるのかな?」って感じる。ハードの枠組みに自分がパッケージングされて、曲を作らされてるって気分になる。

ー 以前「機材にノスタルジーを感じる行為が嫌だ」と言っていましたね。

B さっきのハードを使うってことにも通ずると思うんやけど、808使っときゃいいみたいなノスタルジーに立脚した曲は嫌やね。ジャンルの文脈を斜めから突く目的で記号的に使ったり、逆に本気で機材にパーソナリティを宿してたり、音質そのものが良ければ聴けるんやけど。ほんまに上澄みのノスタルジーしか無い曲、たまにあんねんけどマジで無理。

ー そういう作曲法は好きじゃないということですよね。

B 好きじゃないな。聴くだけなら良いけど。自分が作るのは違うな。それよりももっと上の方で……。上か下かわからんけど、もっと別の、言葉で説明できないようなところで曲が成り立ってるものが良い。機材のノスタルジーそのものが目的になってる曲とか、全然面白くない(笑)しょうもないって思う。

ー 作る過程が大事?

B 自分が作るに置いてはそうかな。

ー じゃああんまり機材にお金をかけたりしない方ですか?

B ほんまに機材に金かけてない。ギターは『Squier』やし。『Gombo bass guitars』って工房があって、ヤフオクで買った安いギターを整備したのを安く売ってもらった。『千紗子と純太』のライブでは『Squier』と『BOSS』の一番安いマルチエフェクターで音作りしてる。アンプとか持ち込むバンドマンもおるけど、俺はええかなって。DTMの面で言っても、壊れたオーディオインターフェース使ってるし、最近やっとまともな『FOCAL Alpha 50(モニター)』を買って、でもオーディオインターフェースのアウト端子が壊れてるから、ヘッドフォン端子に二股のケーブルでつなげてる。『千紗子と純太』とか『neco眠る』のアルバムの曲作ってた時も、SONYの『MDR-CD900ST』でずっとやってた。

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ー へ〜、だから自宅の作業スペースがすごくシンプルなんですね。

B そう、ケーブルが一本二本繋がってるような感じ。『MDR-CD900ST』でずっと作業してたから、多分昔の人が「YAMAHA NS-10M(通称ビックベン。70年代以降、世界中で愛用されてきたスタジオモニター)」で作業してる時の感じに似てるんやろけど、『MDR-CD900ST』で聴いてこんな感じやったら、「ラージで鳴らした時こんぐらいかな?」ってだいたいわかる。自宅ミックスしたライブ用のオケを、知り合いがやってる箱のデカいスピーカーで聴かせてもらって確認したり、いろんな場所で聴いて比較したりしてる間に、「『MDR-CD900ST』でこんだけなってたら、30hzはこんくらい鳴ってるだろう」とか、予想つく。……まあでも、やっぱりちゃんとしたモニターはあったほうがええけど(笑)

ー 確かに、機材による音の世界ってキリがないですもんね。経験でカバーして慣れていくほうが実際賢いのかも。シンセのプラグインのほうはお金かけてます?

B いや、『UVI』の無料で落とせるやつ(笑)なんやったけ、『UVI Workstation』の80年代、歴代のシンセコレクションみたいなの。

ー 買ったことはない?

B 『Native Instruments Komplete』は買った。アナログシンセを使いたいときは「Reaktor」内の『MONARK』を使ってる。ちょっと変なPadの音は『PRISM』で、和音は『KONTUOR』をよく使ってるかな。デモの段階でのストリングスは『KOTAKT』内のいろんな音がぎゅっとして入ってる『Factory library』で、場合によってはSESSION STRINGSも使うし、エレピとかは『KOTAKT』内のScarbee Vintage Keysを使ってるかな。ピアノは『THE GRANDEUR』ってやつ、『KOTAKT』の中にもアップライトとグランドピアノって何種類かあるけど、その中でも一番きらびやかなやつをよく使う。

ー 今でも『Ableton Live』の音源って使います?

B 使いますね。最終的な仕上がりを気にせずに、とりあえず音を並べたいときはAbleton Liveの内蔵音をバーって使う。バージョンが10になってWavetableシンセが増えたり、マトリクスみたいな設定の画面があって、それがすごく重宝してる。オシレーターの波形は何でもいいんだけど、俺はグライドさせる音が好きやから、そういう設定がいじれるプラグインが好きで。Wavetableのは、フィルターのアタック、ディケイ、サスティン、リリースに合わせてピッチも変化できるようにできる。しかも±48音階までできるから、それがすごくよくて。

言葉の力

ー 「千紗子と純太と君」を聴いて、ボーカルの存在とパワーをすごく感じました。どんな歌作りだったんでしょうか。

B うーん。自分の趣味で歌と関係がないものを歌に落とし込んだからかな?もちろん千紗子自身の歌声のパワーも凄いと思うんやけど、歌ものとしてメロディを補完する和音進行やリズムがあって、プラスアルファでインダストリアルな要素やスケールからはみ出たベンド音も多分に配置してるんで、そのギャップがより歌を際立たせてるんかも。けど、前までは歌メロをMIDIで打ち込んで「これを歌ってくれ」って渡してたのが、最近やりづらくなってきたな…。歌かオケか、っていう分け方。メロディと曲を分けて、デモのメロディをMIDIで打ち込んで渡すっていうのがやりづらくなった。

ー どういうことでしょう。

B というのも、町田康さんの『汝、我が民に非ズ』を見たとき、町田さんは「言葉きっかけで曲を作っているんやろうな」って感じて。言葉きっかけで曲が進行していくのを生のライブで体感して、DAW世代の俺からしたら全く違う手法で曲を作っていることに、すごい衝撃を受けた。「でも、この感覚ってMIDIで打ち込んでだと無理やし、こういう世界もあんねんなあ、こういう可能性を認めざる負えないな」って。言葉が先にあって世界を伝えるという。そういうことがあって、ちょっとMIDIでメロディを渡すの抵抗あるなっていうモードになりつつある。『武満徹』はDAWのグラフィカルな要素に着目して、「誰でも作曲家になれる時代がくる」って期待してたらしいですけど、無意識に横軸リズムと縦軸音程のグリッドに縛られてる自分に気づいてしまって。ディスプレイに映らない可能性を削いでたかもって。フロウですよね、単にリズムだけでなく、曲そのものを推し進めるものとしての。DAW外からもたらされるフロウということで、『Noname』のラップも町田さんも、同じなんかも知れない。そういう流れでR&Bを聴いてみたりしてるんですが。

ー 言葉自体にもパワーがありますからね。言葉が持つパワーをどう曲に乗せていくのか……。

デザインしていく作曲。自分の曲って何?

ー BIOMANさんは、色々な音源・材料の組み合わせが、デザインする感覚に近いのではないかと思っていて。それによって長所、クリエイティビティが発揮されていると感じます。ご自分ではどう思います?

B 得意かもしれないですね。それがDJ的なことなのかも。同じBPMだけど違うジャンルのものを混じり合わせてみたり。何かしらのつながるところをひっぱてきて、ぜんぜん遠いところのもの同士をつなげるっていう能力はDJ的やからこそ、俺は得意のかもしれない。

ー 実際にDJでもあり、アート方面のデザインのお仕事も素敵なものばかりですよね。

B どっかとどっかを無理やり、ぐいぐいってつなげる人って音楽においてはあんまおらんかもしれないですね。ダンスとかエレクトロミュージックとかだったらまだあり得るけど、とくにバンドとかシンガーソングライターになったら、あんまいないかな。そういうのは得意かも。

ー BIOMANさんや自分たちの世代だと、極端にいないかもしれないですね。

B ちょっと上とか、下はいるかも。『Official髭男dism』がね、ちょっとアイドルっぽい感じだけど、めっちゃ良いなと思いますよ。大阪のスーパー玉出とかで流れてるけど、めっちゃ良い。彼らの「Pretender」とか、いくつかのジャンルの良いところをうまく繋ぎ合わせた感じ。それにちゃんと、影響を受けた音楽対しての愛を感じる。ユーミンにもあるし、マイケル・ジャクソンとか、ちょっとブラックミュージックの影響も感じるし、シティーポップもあるし、歌詞のギミックもめちゃめちゃ凝ってる。本人らは意識してるかどうかは別として、DAWっぽいコラージュ感かもしれない。DAWができることによって、既存の曲をすぐにトレースできる感じの最たる形みたいな。トレースできるからこそいろんなものをくっつけてみました。みたいな。

ー やっぱりそういうところに快感を感じてます?

B 感じます。「すげーのできた!aikoとJames Brownが合体してすげー良いの生まれたやん!」みたいな。やっぱり音楽を作ることへの興味は、人が作った曲がすごい好きっていう前提とか経験の上にあるから。でも、さっき言ったようなDAWによるトレースの簡略化で、曲に秘められたコラージュが透けてきてる気がする。透けてるんで以前は自分すら騙せれてたコラージュにリスナーも気づいてしまうようになってるし、そもそも、もう誰もそんなこと気にしてないよね、誰かのパクリでも。音楽に限らず、芸術鑑賞なんて「何々っぽさ」を享受していい感じになればOK、ってノリでしょ。tofubeatsくんも「自分の曲って何?」って同じようなこと言ってて、なんとなく分かる気がする。人は誰しもが誰かのキメラになるけど、今そういう循環スピードが早くなってると思う。あるジャンルが一つの伝統になる前に、キメラに取り込まれる時間軸になってもうてるから、これから先、音楽を取り巻く状況がどうなるか気になりますね。


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BIOMAN(バイオマン) 奈良県出身、大阪府在住。音楽家、グラフィックデザイナー。グラフィックデザインでは、音楽関係を中心にデザイン及びアートワークを多数手掛ける。2015年、イラストレーターの沖真秀との二人展「赤ちあん」を開催。2017年、伊波英里、南田真吾とともに三人展「ビッグ3」に参加。2019年、アーカイブ展「俺はこうやる」開催。音楽では、インストバンド「neco眠る」に所属、シンセサイザーと作曲を担当。2014年、2ndアルバム「BOY」にてメインコンポーザーを務め、2017年、安部勇磨(never young beach )、スチャダラパー+ロボ宙を迎えた両A面シングル「SAYONARA SUMMER / ひねくれたいの」両曲の作曲を手がける。CASIOトルコ温泉のMTGとのユニット「千紗子と純太」では作詞作曲を担当。2017年に初EP「夢の海」、2018年9月に1stアルバム「千紗子と純太と君」を発売。SSW王舟との「王舟&BIOMAN」名義では、2018年イタリアにて製作されたインストアルバム「Villa Tereze」をリリースし、2020年テレビ東京ドラマ24「コタキ兄弟と四苦八苦」の劇伴音楽を担当。https://twitter.com/BIO_MAN

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