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高津新監督は現代的マネジャーである

今シーズンからスワローズの監督として一軍の指揮を取る高津新監督の著書「二軍監督の仕事」を再読。今回は一軍監督としてあらためて彼が何を重視するのかを分析。

高津監督が重要視するもの

本書を読んでの感想は、彼が非常に現代的なマネジャーであるということである。良くも悪くも日本的な「選手を管理する」「選手を教育する」といった従来型の野球の監督のイメージからかなり異なっている。著作はあくまで二軍監督としての役割から書かれたもので、一軍監督では状況は異なるが、それでも本質の部分は大きくは変わらないだろう。著書から彼を読み解くキーワードは、①対話②モチベーション③自主性④データの4つである。


重要視するもの ①対話

彼のマネジメントの基本は対話にある。コーチや選手との対話をベースにマネジメントを行う。

指導者にとっては、選手が話すことの「本質」を見極めることが大切だ。 選手の経験が浅いと、どうしても自分を冷静に振り返ることが難しく、本人の話を聞いていても、「まあ、そりゃそうだろうけど」とか、「ちょっとズレてるんだよなあ」と感じることも少なくない。 それでも、まずは聞くことを大切にする。
当然のことながら、選手の話が必ずしも解決につながらない場合もある。それでも、あえて「聞く」ということが大切だと僕は思っている。上から目線で「ここがおかしかったんじゃないか」と押しつけてしまっては、成長にはつながらない。選手の言葉に耳を傾ける方がよい。
相手を否定したところでプラスになるわけがなく、僕たち指導者がやるべきことは、選手の問題点を把握しつつ、選手自身の言葉を聞くことだと思っている。
三木をはじめとしたコーチ陣と、僕は意見を交換することを大切にしている。とにかく、みんなが集まったらにぎやかにいろいろな話ができる組織の方が、選手を育てるにはいいと思っているからだ。

特に高津監督は話を聴く、ということにこだわっている。相手に話させることで、自分で気づくヒントを与えている。マネジメントおいても部下の話を聴き、部下に考えさせることは鉄則とされている。

試合中継などでベンチの様子が映し出されることがあるが、スワローズの首脳陣がよくベンチ内で会話している光景を見かける。2015年のリーグ優勝決定時は、当時の真中監督はじめ、コーチ陣が飛び跳ねながら抱き合っていたのが印象的だった。対話を重視する管理手法はスワローズの伝統文化なのかもしれない。


重要視するもの ②モチベーション

高津監督はモチベーションがパフォーマンスに影響を与えることを知っている。すぐれたマネージャーは部下が働きやすい環境を整えることだと言われる。

選手が気分良くプレーできるかどうか、その環境を整えることを忘れないということだ。
もちろん、技術を教えることは大切な仕事だ。ただ、どの国であっても、いい野球の指導者というのは、試合で若い選手たちを送り出す時に、 「頑張ってこい!」 と背中をポンッと押せる人だと思う。
選手がもやもやしたまま打席に立ってしまったり、気分が乗らずにマウンドに向かったりするようなことがあっては、監督やコーチがしっかり仕事をしていないことになるのだ。
結局、モチベーションを高めるカギは、話し合い、監督と選手との間にどれくらいの信頼が生まれるかによる。 選手に宿題を投げかけ、それを根気良く見守る。 僕はそうやって選手のやる気を引き出したい。
この育てる組織の中で、僕ひとりだけが先走って育成しようと思っても絶対にうまくいくはずがない。やはり、みんなで一緒にチームを作っていかなければ、育てる組織として機能しないと思う。選手を育てるコーチのモチベーションを、監督が下げるようでは失格だ。

上記から、選手のモチベーションにかなり気を配っていることがわかる。今期キャプテンの青木宣親はインタビューで高津監督について「かなり選手に気を使う方です」と語っている。

特筆すべきは、選手だけでなくコーチのモチベーションにも触れていることである。ある意味でコーチは監督の直属の部下にあたる。ビジネスにおいても、部下のモチベーション管理はマネジャーの重要な仕事のひとつである。


重要視するもの ③自主性

高津監督はプロの選手として、またひとりの人間として、選手の自主性を重んじている。

「基本的に練習は自分でやってほしい。全体練習は1時間で終わります。それ以外のところは自分で考えて練習してもらいたい。とにかく見せ練はなし。監督が見てる、コーチが見てるから、打撃練習でもうひと箱打っておこうとか、もう少し走っておこうとか、絶対にやめてほしい。意味ないから」
せっかくプロ野球選手という好きな職業についたのだから、長時間労働よりも、短期集中の方が良くないか? パッと来て、ビュッと集中力を高め、いいパフォーマンスをしてもらう。それが僕の狙いだった。 いつか、このスタイルが定着しないかと、僕は密かに願っている。
もちろん、こちらはプロとしてのキャリアが長いから、治療法が分かっている時もあるのだが、いま時、「絶対にこうしろ」という指導の仕方では選手には受け入れられないだろう。基本的には選手がやりたいようにやってみて、それでうまくなるのがいちばんである。ただし、選手が取り組んでいく中で、「こういうやり方もあるからね。実際、このアプローチで成功した選手もいるから」 と、違った視点を提示するのが「指導」なのかなと思っている。 僕からすると、指導とは、決して引っ張るものではない。 正しい方向に視線を向かせるのが、指導ではないか――。

これは裏を返せば、過程は問わない、プロは結果が問われる、ということでもあり、自分の居場所は自分で勝ち取って欲しいというメッセージでもある。一方で著書ではそのためのサポートは惜しまないとしている。15年優勝時の真中監督も選手の自主性を尊重するタイプだった。自主性と放任は紙一重だが、自分で課題を見つけられる選手には、これほど恵まれた環境はないだろう。


重要視するもの ④データ

野球は数字のスポーツとも言われる。特に打率や防御率などの確率をどう分析するかが勝敗を左右する。高津監督はデータの重要性にもふれている。

日本でもアメリカでもいわれているのは、 21 世紀の野球は人間の目と、テクノロジー、そして数学の融合だという。
ビッグデータの分析が始まり、それを読み解く数学者とか、統計分析の専門家が野球の世界にどんどん入ってきているからだ。そう考えると、まだまだ野球には進化する余地が残っているはずなので、そこで乗り遅れてしまうわけにはいかない。僕としては、ちょっと先、半歩先を進んでいきたい。それが大きなアドバンテージになるから。

この考え方はデータ分析に重きをおく野村監督の影響やMLBでの経験が大きいと思われる。従来のセオリーから外れる戦術だったとしても、データの裏づけがあれば試してみる価値はある、とするスタンスである。このあたりは同じくスワローズに在籍したDeNAのラミレス監督に近いかもしれない。


影響を与えた3人の監督

独立リーグで選手兼任監督を経験し、2014年から一軍コーチ、二軍監督を務めた彼に、指導者として影響を与えたのは、現役時代の監督だった野村克也、若松勉、オジー・ギーエンの3人である。


僕自身、野村克也監督の影響を多分に受けているのは間違いないと改めて感じた。日本・アメリカ・韓国・台湾でプレーしたが、戦略・戦術的な発想という意味では、「野村野球」が根っこにある。
僕は「野村野球」がすごく好きだ。なぜなら、野村監督は野球の奥深さをとことん追求していたからである。「そこまで考えなくても、ええんちゃう?」と思うようなことも中にはあったが、あらゆる要素を考えて野球をするのが、僕には楽しかった。
僕の想像では、野村野球の快感というものは、なんとなく受験勉強に近いのかなと思う。勉強している最中はつらいのだが、結果が出れば楽しい。

入団時の監督だった野村克也から教わったものは、準備の大切さである。試合前のミーティングに一時間以上を費やし、映像を使いながら、対戦相手の投手・打者を徹底分析する。高津監督も野球の奥深さを追求する「野村イズム」の継承者のひとりである。


いま、二軍監督になって分かるのは、若松さんのアプローチは、なかなかできるものではないということだ。とにかく、若松さんは大きく構えていてくれた。若松さんのおおらかさは、プロの監督、特に一軍監督としての理想像だと思う。選手を大人として扱ってくれていたのだ。ただし、自由というからには、選手たちが「責任」を取らなければならない。

キャリアの中期を過ごした若松監督時代から教わったものは、人に任せるということである。ビジネスの世界でも、優秀な人ほど人に任せると言われるように、部下の主体性を尊重し、どっしりと大きく構える姿は彼に大きな影響を与えた。


僕はヤクルトからシカゴ・ホワイトソックスのユニフォームを着ることになったが、ここで出会った監督は、野村監督とは正反対の人物だった。ホワイトソックスの当時の監督はオジー・ギーエンで、この人の野球をひと言で表現すれば、「お祭り野球」だった。細かいことはまったく気にせず、とにかく選手を盛り上げまくってグラウンドに送り出す。オジーは、何から何まで日本とは発想が真逆だった。
僕が大切な試合で打たれてしまい、試合が終わってからクラブハウスで落ち込んでいると、「どうしたシンゴ、何を落ち込んでいるんだ。まあ、飲め」と言いながら、ビールを差し出してくれた。 それまで、日本の野球で育ってきた僕にとっては、負けた試合で監督がビールを飲めと言ってくれるなんて想像もできなかった。アメリカでは、こんな形で監督と選手の距離を埋める方法があるのかと驚いた。この時の経験を、僕はいつか生かせないかと思っている。

いかにもMLB監督らしいホワイトソックスのオジー・ギーエンからはモチベーションの大切さを教わった。指揮官のムードが組織全体に影響を与えるのはビジネスにおいても同じである。高津監督は影響を受けた3人の監督の良いところを融合させたいとしている。

僕は、野村監督の下でたっぷり勉強し、若松監督の下で責任を感じながらプレーし、そしてオジーのお祭り野球を体験してきた。いまは日本にはないオジーのアプローチを、監督として実践したいという気持ちもある。しっかりと勉強をしたうえで、あとはエンジョイしておいで、と選手を送り出したいのだ。


2番打者・6番打者がキーポイント

戦術面、特に打順については、2番打者と6番打者が重要と述べている。

2番は自分のバットでランナーを帰せるだけでなく、なおかつ自分もホームに帰ってこられる選手なのだ。現代野球では、この打順に座る選手はワクワクさせてくれる打者でなければいけない――と僕は思う。

2番に打力のある選手を入れるのはMLBでは主流になっている考え方だが、高津監督もこの方法を指示する。1番打者を得点圏に送るために2番打者が犠牲バントをすることは、高校野球などの負けたら終わりのトーナメントでは有効であるが、プロ野球では、2番打者でチャンスメイクをすることで、ビッグイニングを作る可能性を広げたいとする。個人的にも打撃力のあるスワローズにはマッチしている戦術だと思われる。

そしてもうひとつ、日本では見過ごされているのが6番打者の価値である。僕は6番打者こそ「ポイントゲッター」になれると思っている。なぜなら、クリーンナップは「OPS」の高い選手が並んでいるから(OPSとは、出塁率と長打率の総和で、アメリカでは打者を評価するにあたって重要な指標とされ、スポーツ専門のサイトでは、OPSがボックススコアに記されるほど)、6番に打順が回る時は、ランナーがいる可能性が高い。つまり、6番はかなり高い確率でチャンスが巡ってくる打順なのである。

打撃力の高いクリーンナップを打つ6番打者は、ランナーを置いた打席が多くなる。2番打者がクリーンナップの前でチャンスメイクをする役割なら、6番打者はクリーンナップがあげた得点にダメ押しをしてビッグイニングを作る役割が求められる。2番打者と6番打者を重視することで、実質5人のクリーンナップとなり、打撃力の高いスワローズにおいては、非常に理にかなった考え方と言える。


高津イズムはうまくいくか?

ここまで高津監督の目指す野球を見てきたが、高津イズムが成功するかは、選手が主体的に行動できるかにかかっていると思う。選手の自主性を重んじるスタンスは真中監督に近い。主体的に動ける選手は自分で課題を見つけてどんどん成長するが、するべきことを見つけられない選手は、どうすればいいのか戸惑ってしまうだろう。真中監督時代は優勝も最下位も経験した。個人的には現代的な野球観とスワローズ伝統のおおらかさを併せ持つ高津監督に期待したい。レギュラー選手の高齢化は進んでいるが、若手には原石も多い。昨年の村上のように飛躍を遂げる選手が現れることを今シーズンも楽しみにしたい。

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雑貨店のバイヤー。バッグ・服飾雑貨・ハンカチ・傘・バスグッズ・スマホグッズの仕入担当。趣味は野球観戦/スワローズ歴25年以上。