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本当に興味深いことはどこにあるかーミニ読書感想「シャーロック・ホームズの冒険」角川版


本の雑誌さんがまとめた若者向けの読書案内「10代のための読書地図」で推薦されているのを見て読んだ。あまりにも有名だけに、今更読むことをためらう人もいるのではないか。「むちゃくちゃ面白かったので、これはいつ読んでも遅いということはないですよ」と伝えたい。

何がそんなに面白いかと言えば、意外にも、ホームズの事件簿には殺人事件が少ないのだ。「名探偵コナン」のイメージで、推理ミステリーには殺人事件がつきものと思っていたのだが、それは先入観だった。

たとえば「青いガーネット」は、路上のケンカで落とされたクリスマスの鶏肉の持ち主を探すというもの。その胃袋から高級な宝石が見つかったことから、どうでもよさそうな話が闇深いミステリーにつながる。

普通なら結末までにひとりふたり命を落としそうなものだけれど、そんなことはない。でも物語はスリリングで、ホームズの推理は「なるほど」と頷ける。

読者が面白いと思う以上に、ホームズもまた、一見くだらない事件に楽しそうに首を突っ込んでいく。この姿勢は学ぶべきことが多い。人生において本当に興味深いことは、派手なものごとより一見地味な方に深く関わったときに見つかるのではないか、と。

物語の締めや要所で投げかけるホームズの台詞も滋味深い。「技師の親指」では事件に巻き込まれて指を失った男が、何も得ることがなかったと嘆く。ホームズは「事件の顛末を思い出話にすれば、一生話が面白いとの評判を得られますよ」と返す。これこそまさに。経験は何事にも変え難い財産だ。

ホームズの推理にのめり込むうちに、さまざまな人生訓が心に刻まれていく。子どもにとって大きな糧になりそうな小説だった。もちろん、そんなことは一言も言う必要がなく、ただただ楽しんでもらったらよいだろうけど。

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