賭博狂の詩

いつからこんなものが生まれてしまったのだろうか。

動物が持つ無欲な勤勉以外に、進化を経て知能が編み出してしまった悲しい副産物、賭博。会社組織や法律なんかができるずっと前に完成されたそれは世界中で人々を泡沫の夢と破滅の沼に導いている。

ー今回は破滅の沼の景色をお送りしたいと思います。ー

フィリピンのヤバ田舎に居を構えた俺は、毎日60円のフライドチキンとカジノから持ってきた無料の小さい水、朝方に行けば無料でもらうことのできるパンのみで生活している。早朝から約12時間は鳴き続ける鶏の群れと瓦礫で遊ぶ子供達を横目に良さげな屋台を探しながらパンを頬張り、唯一日本語が喋れる小売店のおばさんと世間話をし、1週間に一度洗濯屋さんで200円で洗濯をしてもらう。ここまでで1週間の生活費用は2,000円にも満たない。

給油口がなぜか運転手の手元にあり、飲み水と区別がつかない状態で置かれたペットボトルからこぼしながら給油される20円のバスに揺られ、3度か4度の乗り換えでカジノに到着し、荷物検査を通り過ぎ、スロットマシンコーナーを一瞥。微笑みながら「membership card.sir」と言うディーラーの手元にかつて鍛えたピッチング技術で華麗に会員カードを投げ、家の周りではありえないようなフカフカのソファに座り、なんなら偉そうに灰皿をフロアに取りに来させ、タバコを咥え、「日本のタバコの方が美味えな」なんて調子付いたことを考えながら俺は、俺は、20,000円を賭ける!!!!!

そして負ける!負けること火の如し!熱くなって40,000円を賭ける!

負ける!はああーーーーなんなんだこれは!遠隔だろ!!!100,000円を賭ける!!負ける!ここまでで160,000円!新卒の手取りが消える!日本人の知り合いに声をかけられる!

落ち着くんだ俺、ここはカジノ。自由とゴージャスの楽園、カジノ。日本人の知り合いにそんな無様な姿は見せられない。

「おっ、◯◯さんもバカラですか。僕はちょっとやられ気味です笑」

「おおー、罫線的には次は鉄板でプレイヤーじゃないですかー!ここから参加しますね」

え・・・バンカーだと思ってたのに・・・まあいいや、なんか逆に張るのも悪いしプレイヤー小さく7000円だけ張るか・・・

「banker win」

「ええ〜!?ここプレイヤーじゃないんだ笑 オカダ罫線難しいですね笑 悔しいな〜、まあ50%なんで運ですよね。じゃ!ポーカー行ってきます!」

ここで頭の血管が何本か切れ、気が遠くなる。なんだ今のは、罫線を舐めてるのか?もう一生罫線を読みに来ないでくれ。運なわけないだろ、罫線との対話、ディーラーの視線、監視カメラの挙動、全てを読んだ上で判断するのがバカラじゃないのか?なんなんだあいつ、もう無視しよう。次。

「player win」

いやいやいやいや今のはバンカーでしょ、だって2個ずつ交互にきてたじゃん、流石にやられちゃったな〜。ディーラーも笑ってんじゃねえよマジで。

「player win」

はいはいなるほどね、一個置いてまた伸びるパターンね。次が2個切れの鉄板バンカーだから負け分だけ戻しておくか。

「player win」

なんでだよおおおおお!!!!!!今までなかったじゃんそんなパターン!いずれはそうなるかな〜とか思ったけど今じゃなくてもいいじゃん!俺すげー負けてるのに、すげー俺じゃなくてもいいじゃん!俺ん時だけそんな、、、そんな、、、もう辞めます。今日はバカラおしまい。20万以上溶けちゃったし普通に運が悪いねこりゃ。家帰ってNETFLIXでアニメ見よ。最後チップ4,000円だけ余っちゃったから適当な台で一回だけ張って終わりにするかな。

カジノから出る道のりの中で本当に適当な台にしよう。カップルに嫌がらせでもしてやろうかな。次見つけたカップルの逆に張ってやろう、イヒヒ・・・

「player win」

ふふん、やっぱバカラ向いてるじゃん俺。このプレイヤー当てるって中々難しいからな〜笑 この中で当たったの俺だけなんじゃない?ざまあみやがれよ。

明日もカジノに行きます。

~fin~

集まったお金は全額僕の生活のために使います。たくさん集まったらカジノで一勝負しに行くのでよろしくお願いします。