
作品鑑賞できるのは美術館だけではない!ドイツの墓地に設置された現代アート作品
ドイツといえば、現代アートを思い浮かべる人もいるでしょう。ドイツからはヨーゼフ・ボイスやゲルハルト・リヒターなど現代アートで重要とされている多くのアーティストが輩出されています。そんなドイツでは、かなり風変わりな場所に現代アートが設置されていることを耳にしました。展示されているのはドイツの首都ベルリンの墓地です。そこで今回の記事では、ベルリンの墓地にある現代アート作品を紹介したいと思います

現代アートの作品が展示されているのはベルリン中心部にあるドローデン墓地です。場所はベルリン中央駅から路面電車で5分ほどのところ。ターミナル駅からも近く、周辺には地下鉄の駅やSバーンの駅もあるベルリンの中心部であり、そして一等地でもあるのです。そんな場所に再開発されることなく商業的に利用されない空間が広がっています。

そんな都心に位置する墓地ですが、敷地は大通りに面しており、その通りを多くの車が走り抜けていきます。忙しなく人々が行き交う場所に墓地は位置しているのです。墓地の横にはイタリアンのお店や、ラーメン屋、そしてスーパーマーケットなど俗世間が広がっています。そのため俗世間と墓地空間のギャップに驚かされるかもしれません。

俗世間から墓地空間へと足を踏み入れると、そこに広がる空間に戸惑うでしょう。都心部であるにもかかわらず、公園のように多くの木々が枝葉を伸ばしているからです。墓石は木々の間にぽつぽつと並んでるため、モニュメントのある公園と言っても差し支えないかもしれません。そんな場所にはベンチもあり、日向ぼっこをしながら読書を楽しむ人さえいるのです。

ドイツに移り住んだ後に気付いたのですが、ドイツの墓地の多くは自然豊かな場所で公園と化しています。そのため墓地を散歩コースにしている人が多く、お墓参り以外の利用もかなり多い印象があります。こちらの墓地にはありませんでしたが、墓地(というよりも自然)を眺められるカフェを併設しているところもあるのです。だからこそ現代アート作品を設置することもできるのでしょう。

ちなみにドローデン墓地はベルリンでも知る人ぞ知る観光地となっています。それは現代アート作品が設置されているからではなく、墓地には多くの偉人や歴史上の人物が眠っているからです。おそらく、その中で最も有名なのはドイツ哲学の巨匠ヘーゲルでしょう。他にも哲学者のフィヒテ、劇作家のベルトルト・ブレヒト、そして建築家のカルル・フリードリッヒ・シンケルがこの地に埋葬されているのです。墓地を訪れると、訪れる人の多くが、ヘーゲルの墓石を探していました。

このような墓地で現代アートが設置されているのは礼拝堂です。設置されているのは、直島や金沢21世紀美術館に作品が設置されているジェームズ・タレルによる光を使った作品です。礼拝堂に特殊な照明を取り付けることで、礼拝堂の空間そのものが作品となっているのです。礼拝堂の内部を訪れるには体験ツアーに参加しなくてはいけません。そのためいつでも作品を体験できるわけではないのです。

体験ツアーは毎週末に開催されており、参加の難易度は高くないでしょう。ただし厄介なのが開催時刻です。作品は日没に合わせて光が変化していくため、開催されるのは日没の時間です。冬は15時過ぎに行われますが、夏は日没が遅くなるため開催時刻が遅くなります。いずれにせよ開催時刻が季節によって大きく異なることに注意してください。

ツアーでは礼拝堂の中に入り、建物内の光の色が刻々と変化していくのを体験することができます。礼拝度に入ると照明が灯り、礼拝堂の空間が光によって満たされます。その光は緑や青、そして赤といった鮮やかな色へと、ゆっくりと変化していきます。いつの間にか光の色が変わっているため、その変化に驚かされました。このような光の体験を1時間ほど楽しむことができるのです。

タレルの作品では墓地だからこそできる体験ができました。移りゆく光の色は神秘的な体験ともいえるものでした。単なる光の体験ではなく、禍々しくもあり、崇高なものでもあり、何か理解できないような体験でした。おそらく墓地という死を司る場所だからこそ、人智を越えるような感覚を感じさせる作品となっているのかもしれません。

今回こうした美術作品を墓地という特殊な場所で体験することができたのですが、ここではドイツと日本の墓地との違いや、墓地のありかた、そして生と死まで思いを巡らせることができました。もちろん、このような感覚は美術館で絶対に得られないものです。現代アートファンだけでなく、何か特別な体験をしたい人にもおすすめの作品です。ぜひベルリン訪問の際に、訪れてみてはどうでしょうか。
「ドイツ便り」のページではドローデン墓地の観光情報を紹介しています。