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図書館はつくれる。空き店舗の新しい使い方、完全民営・黒字経営の「みんなの図書館さんかく」の思想。

今年の3月で「みんなの図書館さんかく」を開館しはじめて1年が経とうとしています。たった1年間だけど本当にいろんなことがあって、たくさんの参画が生まれる図書館に育ちました。

焼津駅前通り商店街の空き店舗を活用し、「一箱本棚オーナー制度」と呼ばれる月額制の本棚オーナーの仕組みで、家賃や水道光熱費などの最低限の経費を稼ぎ出し、本を中心にまちの新しいコミュニティをつくる。

シンプルにやっていることはこれに尽きるのですが、①運営者の持ち出しなく黒字で経営できること、②一箱本棚オーナーの参画によって自律的なコミュニティが生み出せること、の大きく2点がウケたのか、「うちでも真似したい!」「自分のまちにもつくりたい!」と視察や見学、図書館の開設相談もたくさんいただいています。

そして実際に、昨年だけで静岡県焼津市の「さんかく」に加え、石川県加賀市、兵庫県豊岡市、長野県茅野市にも、「一箱本棚オーナー制度」を導入したみんなの図書館が開館しました。

また、今年の4月には静岡県沼津市に沼津信用金庫の支店跡地を活用し、「みんなの図書館さんかく沼津」が開館するチャレンジにも取り組む機会をいただきました。

都市は縮小しない、スポンジ化する。

「さんかく」は、「三角」ではなく「参画」の生まれる場所になってほしいという思いから名付けた名前です。人口が減り、税収が減り、空き地や空き家が増え、高齢化は進み、、、これからのまちの未来は決して明るいとは言えません。

でも、私たちはこのまちで生活していかなければいけません。愚痴や文句は誰にでも言えるけど、それではまちは変わらない。だったら住みたいまちを自分たちでつくればいい。そんな思いで、様々なまちづくり活動、そして事業に取り組んでいます。

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そもそもこれからの都市がどうなっていくのか?を考える上での重要な議論に、饗庭伸先生が指摘された「都市のスポンジ化」があります。

つまり、人口減少社会への移行によって、コンパクトシティと言われるように、都市の機能や居住地が集約し、都市が縮小していくと思いきや、人間は自分の住みたいところに住むので、まちのなかに穴(空き地や空き家)がたくさんできて、都市がスポンジのようになっていくと論じられています。

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もちろんこれを阻止するために、行政が空き家対策で公共施設をつくったり、リノベーションまちづくりを促進したりの動きはありますが、それではとても間に合いません。そこで重要なのは、民間や市民の取り組みで、そのひとつが私たちが取り組む「みんなの図書館」の実践です。

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私設公共空間のコンセプト

いわゆるリノベーションまちづくりとは異なり、「さんかく」が担う機能のひとつの特徴は、私設公共空間のコンセプトを目指していることです。つまり、ただ空き物件を使って稼げれば良いのではなく、そこに公共圏をつくりだそうとしています。

公共圏は、ドイツの哲学者ユンゲル・ハーバーマスが提唱した概念で、人々が「共通の関心」について語り合う空間のことを指しています。(正確にはハーバーマスは公共圏を定義していませんが)ハーバーマスはもともとコーヒーハウスやサロンや読書会などで対等に議論する場を見て、公共圏の概念を思いつき、こうした市民的公共性がある社会の重要性についても指摘しています。

正直、ハーバーマスがこのことを書いている『公共性の構造転換』は難解な本なので、完全に理解はできていませんが、市民的公共圏、つまり市民が対等に政治や社会について対話できる場をつくりたい!と自分に思わせてくれた大事な一冊です。

いまの社会は効率性や生産性が先行し、意味のあることを話さなければならい圧力が強く、自らが属する社会のこと、政治のことについて対話する場が圧倒的に不足していると感じます。きっとハーバーマスが論じた昔のコーヒーハウスやサロンでは、「社会とはなにか?」「政治とはなにか?」「愛とはなにか?」といった哲学的な問いについて、みんなが真面目に、そして対等に語り合っていたのではないかと想像します。

このコロナ禍によって、より一層、自分自身の生き方や社会のあり方を見直すひとが増えたと感じますが、まさに「さんかく」がつくりだしたい空間は、そんなモヤモヤとした気持ちや答えの出ない問いを分かち合い、一緒に考えていける仲間が集う場です。

物件は巡り合わせ

そんな思いを馳せて「みんなの図書館さんかく」が開館したのは2020年3月。「さんかく」だけに3にこだわろうと、3月3日3時33分33秒にテープカットをして、グランドオープンを果たしました。

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テープカットに駆けつけてくれたのは、一緒にさんかくをつくってきたしましまコーヒースタンドの三浦さん、いつもお世話になっている地元の自治会長、トリナスの副代表で焼津市地域おこし協力隊の愛さん、さらには隣の雑貨屋さんに委託をしている作家さんの娘さん(1歳)も一緒に入って、なんとも「さんかく」らしいグランドオープンになりました。

「どうやって物件を見つければよいですか?」とよく聞かれるのですが、本気で探すこと、それに尽きます(笑)というのも、商店街の物件は仮にシャッターが閉まっていても、住居と一緒になっていたり、別に貸さなくても困っていなかったりと、不動産情報に出ていない物件がほとんどです。

こういう場合は、とにかく地元と信頼関係をつくり、粘り強く「商店街の物件を借りたい、買いたい」と言い続けるしかありません。自分の場合、学生時代から商店街内で中高生施設を運営したり、道遊びのイベントの企画をしたりと、商店街の皆さんとは顔馴染みだったので、物件について相談をしたら、情報をいろいろもらうことができました。

ただ、不動産情報に出てこないということは、大家さんと直接交渉になるため、借りる側の信頼度がとても重要になってきます。「さんかく」の場合は、上で出てきた自治会長さんが「若い人の挑戦を応援してやってくれ」と大家さんに言ってくれたことが大きな信頼になりました。

プロセスを開く、参画してもらう

みんなの図書館づくりの重要なポイントのひとつは、プロセスをとことん開き、みんなでつくる図書館を実現することです。つまりとことんDIYをするのが大事です(単純にお金がないというのもあるけれどw)

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DIYをしているとおもしろいことに、いろんな人が手伝いに来てくれたり、差し入れを持ってきてくれたり、冷やかしに来てくれたりします(笑)商店街に面していることもあって、通りすがりの方が「ここになにができるの?」が尋ねてくれることもよくありました。

実は、この準備期間が長いほうが、たくさんの方に図書館づくりのプロセスに参画してもらえるので、知らぬ間に「さんかく」のことが自分ごと化する現象が起こります。自分ごと化すると「あそこに図書館ができるよ」と勝手に宣伝してくたり、「何か手伝えることはない?」と主体的に関わってくれたりと、開館後の強い後押しになります。

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ちょっとくらい開館が遅れたとしても、様々な形で図書館づくりのプロセスを開いて、たくさんの人に参画してもらうのがオススメです。そして何より「みんなの図書館」の名の通り、運営側だけが一生懸命に準備をするのは本質的に違うと思うんです。だって、みんなの図書館だから。

みんなの図書館さんかくの基本的な仕組み

「さんかく」の基本的な利用の仕方は、大きく分けて3つあります。

まず最もシンプルなのは、利用者として本を借りることです。本を借りるには、最初に利用者カードをつくる必要があります。利用者カードは300円でつくることができ、一度作ってしまえば何度でも本を借りることができます。貸出期間は大体1ヶ月、最大5冊までが決まりです。

「さんかく」の本には、背表紙に感想カードが入れられるようになっていて、本を読んだ方の感想がどんどん積み上がっていきます。こんなアナログの感想共有の仕組みも、人をつなぐあたたかいコミュニケーションを生んでいます。

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次に、「さんかく」の仕組みの根幹である一箱本棚オーナーとして本棚を借りる方法です。一箱本棚オーナーになるためには、月々2,000円のオーナー料を支払う必要があります。本棚は横長と縦長のふたつのパターンがあり、絵本や雑誌が置ける縦長の本棚が人気です。

2021年1月の時点で43名の一箱本棚オーナーが登録していて、一時はキャンセル待ちが出るほどの人気でした。実は、もともと20棚くらいの計画だったのが、あまりにも希望者が多いために本棚を少しずつ増やして、現在の数になっています。

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一箱本棚オーナーは本棚内であれば、自由に本や本に関連する物品を置くことができて、星の本を並べる人、けん玉を置く人、自分の釣り教室の宣伝用、好きな作家さんの本を並べる人など、多様な本棚が置かれています。最近は本棚に交換日記?を置く人も出てきて、顔の見えないコミュニケーションも楽しいようです。

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そして、最後は運営に参画する方法です。「さんかく」にはチャレンジスペースを併設しており、露天商許可を持っていれば飲食の提供をすることができます。(その地域の保健所によって考え方が異なる場合があるので、各自で確認をしてみてください)

運営団体のメンバーがいなくても週6日開館する図書館に

現在は、毎週火曜・水曜・木曜に、コーヒースタンドが、毎週土曜日にアジアのお茶BARが出店してくれています。実は、このスペースの利用料は無料としていて、その代わりに図書館のお店番もしてください!という仕組みになっています。

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さんかくの「一箱本棚オーナー」モデルは、一箱本棚オーナーの棚代によって家賃や水道光熱費など最低限の経費は賄うことができますが、誰かを雇う人件費が出せるほど潤沢なお金は湧いてきません。ですので、こうして色々組み合わせをして、多様な参画を引き出すことによって、運営を行っています。

また、一箱本棚オーナーには、お店番する権利がついていて、オーナーさんがお店番をしてくれることもよくあります。私たちにとって一箱本棚オーナーは、一緒に図書館をつくっていく存在であり、オーナーさんの参画で「さんかく」が成り立っているといっても過言ではありません。

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加えて最近では、一箱本棚オーナー以外の方で「お店番をしたい!」と言ってくださる方も増えてきており、気付けば運営団体である私たちがいなくても、週6日はそうした自発的な参画者によって開館ができるようになってきました。

一箱本棚オーナーはなぜ人気になったのか

最近、「さんかく」の取り組みに関心を持ってくださる方が多く、視察や見学に来てくださることが多くなりました。そのときに必ず聞かれるのは「どうやって一箱本棚オーナーを集めたんですか?」です。

月2,000円を払って本棚を借り、自分の本を貸し出す。さらにはお店番をしてもらうこともある。普通のビジネス的な感覚で言えば???になるこのシステムですので、どうして43人も一箱本棚オーナーが集まるのかを不思議がる方がいるのは当然です。

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上述したように、ビジネスの宣伝目的、社会活動の発信、仲間づくりなど、本棚の使い方はいろいろです。ただ、全体として共通しているのは、自分自身を表現する場として本棚を使ってくださっていることです。

いまの時代はブログやSNSなど、自己発信する場はいくらでもありますが、ビジネスに繋げるためだったり、自己PRのためだったり、どこか肩に力の入った情報発信が多いように感じています。

一方で、一箱本棚はそういう力んだ情報発信と異なり、気軽で無理せずできる自己表現の場です。自分の好きな本を本棚に並べるだけで、知らない誰かからの感想が書かれたカードが入っていたり、時には、お手紙やプレゼントが本棚に入っていることもあります。そして、偶然が重なり図書館の中で出会うことも。

顔が見えない、でもリアルに感じられる誰かとのコミュニケーションが生まれる不思議な空間がいまの社会に刺さり、一箱本棚オーナーの人気に繋がっているのだと感じています。本棚を借り、自分を表現すると、何かが起こる。そんな偶発性を生むのが一箱本棚の仕組みです。

実際に、本を通じてビートルズのパネルをもらう人がいたり、着物の本を置いていたら着物をもらっちゃう人が出てきたり、突然愛知の人が道を間違えて図書館に来てくれたり、いろんな事件が毎日起こっています。

運営が無理をしないのが決まり

「さんかく」を運営する上で最も大事だと考えているのは、運営側が無理をしないことです。運営が無理する図書館は絶対に続きません。そもそも、一箱本棚オーナー制度で最低限の経費はペイできるとはいえ、図書館の運営だけで生活できるほど儲かる仕組みではありません。

それなのに図書館の運営に力を入れすぎてしまっては、きっと運営側が疲弊してしまうでしょう。疲弊してまでやるものではないですよね。

だから、ほどほどが大事だと思うんです。例えば、物件を借りたら、できれば週7日、そこまでできなくても週5日くらいは開館したいと考えるかもしれません。ぼくも最初はそう考えていました。

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開館当初はワクワク感が高いので、毎日「さんかく」に行っては、朝から夕方まで、休みの日も問わず開館していました。しかし、そんな日々を過ごしていると「あれ、自分の時間がどんどんなくなっていく。自分だけが大変になっているぞ」と、途中で気づくのです。

いくらお店番をしてもお金がもらえるわけじゃないし、仕事をしながらお店番をしよう!と思っていても、利用者がたくさん来て雑談をしているとあっという間に1日が終わってしまい、仕事どころではなくなってしまう日々が続いていました。何事もやり過ぎは良くないことをお店番から学ぶわけです。

誤解のないように申し上げると、「さんかく」のお店番はとても充実した時間で、本当に楽しいです。本に囲まれた空間で、好きな作家の話に盛り上がったり、オススメの本を紹介し合ったり...。そりゃあ豊かで、本好きにはたまらない時間です。

でも、これはビジネスではありません。どちらかといえば「遊び」だと思うんです。だからこそ、無理をしてまでやるものではないことを決まりにしておくのが重要です。

図書館に来る人は「お客さん」ではない。

さらにいえば、ここは「みんなの図書館」なので、運営するのもそこに集う「みんな」であるべきだと考えています。つまり、この図書館のなかにお客さんは誰ひとりおらず、全員が運営者になることを目指しています。

「ここはいつが開館日なのかわからない」「もっと開館日を増やしてほしい」「開館時間を長くしてほしい」などと、利用される方からサービスについて色々と言われることがありますが、そのたびに自分は「だったらお店番してくれていいんですよ?笑」と切り返すようにしています。

これは半分冗談、半分本気で言っていて、「さんかく」の思想として重要なポイントです。というのも上記したように、「みんなの図書館」は、弱体化しつつある公共の編み直しを市民主体で進める取り組みです。もちろん人口減によって公共サービスがやせ細ってきていることも弱体化の要因ですが、市民のスタンスとして消費者的な市民性が染み付いてしまったことも大きな社会背景にあると考えています。

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これまでは成長が当たり前の社会だったので、まちづくりや都市計画も都市をどんどん成長させていく方向で動いてきました。都市が成長している間は、道路をつくったり、建物をどんどん建てたりと、どちらかといえば、まちは行政がつくるものという前提があったように思います。

もちろん市民主体のまちづくりの動きも各地で起こってきていますが、基本的なポーズ(姿勢)として、まちに受け身であること(消費者的であること)に慣れてしまった私たちは、まちで起こる問題や課題を行政任せ、政治家任せにしています。

例えば、公園に「◯◯禁止」の看板がたくさん立っているのは、きっと市民の側が行政に「公園で野球をするのは危ない」「子どもの声がうるさくてたまったものでない」と、クレームの電話を入れたことがきっかけなのではないかと想像したりします。「自分たちの公園だ」という意識があれば、行政に電話せずとも、市民同士が対話をすることで解決できることもたくさんあるはずです。

行政学や政治学の教科書で必ず扱われるもので、「本人代理人関係論(プリンシパル・エージェント理論)」があります。これは市民(本人)は選挙を通じて代理人である政治家を選び、政治家は立法作業のプロである官僚(行政職員)に仕事を委ねる関係性のことを指しています。

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これまで本人である市民は、代理人である政治家を選び、政治家の付託を受けた官僚がまちづくりや都市計画の大部分を担っていました。しかし、ある程度まで社会が豊かになると、個々人が求める幸福や価値観に違いが出てきて、行政だけで担える範囲は最低限の部分になってきます。

さらにこの人口減少時代への移行で、行政機能は縮小傾向にあり、代理人に任せていたことを市民が主役となって動いていく必要性がさらに高まっています。これまでは代理人に任せていたから、なにかアラがあれば「もっとしっかりやってくれよ」と言えたのが、いまは「そんなこと言ってないであなたも手を動かしてよ」と代理人から言われちゃう時代になったとも言えます。

「誰か任せ」から「自分たちの住みたいまちは、自分たちでつくる」へと姿勢を変化させていくためにも、さんかくにお客さんはいないという前提は重要なポイントです。

本屋ではなく、図書館である理由

ご存知の方も多いと思いますが、「さんかく」と同じように月額を支払うことで本棚を借りて、古本販売をすることができる本屋さんは全国に多数あります。しかし、自分が知る限り一箱本棚の図書館は「さんかく」ではじめたモデルがはじめてです。

本屋ではなく図書館にした大きな理由は、一箱本棚オーナーの消費者的な人格を刺激したくなかったことにあります。もし一箱本棚の古本屋にしていたら、本棚を借りた人は頭のなかでそろばんを弾き、1ヶ月の棚代以上を本の売上で儲けられるかどうかを考えるでしょう。

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つまり儲けられるかどうかが本棚を借りる基準になってしまう可能性があり、「さんかく」がつくりたい「私がつくる公共」のコンセプトからはズレてしまいます。

だからこそ図書館にこだわっていて、本屋にはしなかったのです。(あと自分自身が本を自分の手元に置いておきたい性格なので、売るのが性に合わなかったというのもあります)

信用金庫とつくるみんなの図書館

おもしろいことに、みんなの図書館をはじめてみたら「うちでも図書館をつくってくれませんか?」と相談をいただくようになりました。その中の大きなものとして、2021年4月には沼津信用金庫の支店跡地に図書館をつくるプロジェクトも進行しています。

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これから信用金庫や郵便局など、人口減によって統廃合が進み、使い道に困る物件が増えてくることが目に見えているので、沼津信用金庫のモデルはきっと先駆的な事例として取り上げられることになると考えています。

地域性や立地、運営主体によってやり方が大きく変わってくるので、そのまちごとに合わせた図書館の形をぜひ見つけてもらいたいです。

こんな人は図書館つくるのをやめたほうがいい

最後にいろんな方から図書館づくりに関する問い合わせをいただいているので、変に一箱本棚図書館が増えてしまって、「やらなければよかった」と思う人が出てしまわないように、「こんな人は図書館つくるのをやめたほうがいい」について触れたいと思います。

一箱本棚図書館だけでビジネスとして成立させたい人

ぶっちゃけ一箱本棚図書館は儲からないです。これだけで生計を立てるのはどう考えても無理なので、ビジネスとして取り組もうと考えている方はやめた方が良いです。

ただ、図書館をコミュニティの中心にしながら、コワーキングスペース、カフェ、雑貨屋さんなどを経営していくことは十分あり得ると思います。

自分のこだわりが強くて本を選り好みする人

基本的に、どんな本でもOKのスタンスでないと、このスタイルの図書館の運営は難しいと思うので、自分の世界観があまりにも強い方はやめた方が良いです。逆にどんなジャンルの本でも関心を持って読める方は、一箱本棚の図書館が向いています。

他人を信じられず、誰かに任せることができない人

「さんかく」の場合、いろんな人の参画がなければ運営することができません。例えば、お店番を誰かに頼むということは、会計も預けることになるので、人を信じる必要があります。

もちろん誰にでも任せるわけではありませんが、人を信じることができない人、誰かに頼ることができない人は難しいかもしれません。

図書館の変化を楽しめない人

いろんな人がお店番をしたり、複数の一箱本棚オーナーが本棚を借りていると、図書館にいろんな変化が起こっていきます。気付いたら図書館のレイアウトが変わっているかもしれないし、知らないチラシが貼られているかもしれません。

また、一箱本棚オーナーさんから「こんなことやってみたいんだけど...」と提案を受けることもあると思います。内容によって「それは...」と思うことがあるかもしれませんが、こうした変化を面白がれる人じゃないと、一箱本棚図書館の運営は難しいかもしれません。

というのも「さんかく」的には、いろんな変化や提案が増えることは、「さんかく」に関わりを持ってくださっている方の主体的な参画と捉えているので、とっても嬉しいことです。

そもそもがたくさんの方の参画で成り立つ図書館ですので、自分の価値観と違うことが起こるのは当たり前です。それを不快に思うか、おもしろいと思えるかは重要なことだと考えています。

なんのために図書館をつくるか?

一箱本棚オーナー制度を導入した「みんなや図書館」の仕組みは、良くも悪くもコミュニティの活性化度を測る指標となります。一箱本棚オーナーの継続率が低ければ、そのコミュニティに何らかの問題があるでしょうし、誰もオーナーをやめない図書館であれば、良いコミュニティがつくれていると判断できます。(手前味噌ながら「さんかく」の一箱本棚オーナーの継続率は96%です)

最初は付き合いや一箱本棚のおもしろさに興味を惹かれて本棚を借りる人は一定数いると思います。しかし、継続に繋がらない可能性は大いにあり、もしそうなっているのであれば、コミュニティのあり方を見直す必要があるでしょう。

そもそもこの図書館の仕組みは「共感」を前提に成り立っており、図書館をつくろうとしている方が「なんのために図書館をつくるのか?」をきちんと言語化するのはマストです。

コミュニティづくりは焚き火のようなもので、その中心となる方が弱い種火だと、求心力の弱いコミュニティになりますし、裏返せば、強い種火を持っていると、強い求心力を持ったコミュニティに育っていきます。

誤解のないように補足すると、「さんかく」のようなみんなの図書館は、焚き火のようにみんなで薪を焚べながらつくる図書館です。ですので、ある程度まで炭が育てば勝手に自走していくものですが、炭にきちんと火がつくには、最初にそれなりに大きな火をつくらなければなりません。

それが最初に立ち上げる人の純粋な思いであり、その種火に惹かれて人が集まってくるんじゃないかと思うのです。

もしあなたが「一箱本棚オーナー制度」を導入して図書館をつくろうと考えているのであれば、なんのために図書館を作ろうと思っているのか?について、自分自身と向き合い、言葉にされることを強く勧めます。

「一箱本棚オーナー制度」を導入した図書館をつくろうと考えている方へ

「みんなの図書館さんかく」では、随時、視察や見学の受け入れをしています。有料対応にはなってはしまいますが、「さんかく」の事業計画、利用者数の推移、収支など、出せる情報はありったけ出していますので、ぶっちゃけ結構安いと思います。

また、熱量の強い方であれば個別相談も随時受け付けておりますので、トリナスの問い合わせフォームからご相談ください。一緒に、私設の公共を増やしたい仲間は大歓迎です。

沼津信用金庫のケースのように、金融機関、商店街の空き物件、商業施設、教育機関など、「一箱本棚オーナー制度」を導入した「みんなの図書館」を検討されている法人様は、継続的なコンサル、図書館の立ち上げ等も行なっておりますので、ケースバイケースでご相談いただければと思います。

最後に

この記事は、少しでも多くの地域に同じような思いを持った同士が増えていけばいいなぁと思い、書いてみたものです。

もし「こんなことも書いてほしい」「ここも聞きたい」というリクエストがあれば、随時記事を更新していきたいと考えていますので、コメント欄はもちろん上のフォームからリクエストいただければと思います。

そして、「みんなの図書館さんかく」は、「私設公共はいかにして可能になるか?」の社会実験として取り組んでいるものであり、この記事をきっかけに色んな方と議論ができたら嬉しいです。

また、少しでも気に入っていただけましたら、「気に入ったらサポート」ボタンからチップをもらえると励みになります(笑)

土肥潤也/JUNYA DOHI  コミュニティファシリテーター。1995年、静岡県焼津市生まれ。静岡県立大学経営情報学部卒、早稲田大学社会科学研究科修士課程 都市・コミュニティデザイン論修了、修士(社会科学)。2013年から若者の社会・政治参加に関する活動に参加し、2015年に、NPO法人わかもののまちを設立(現在は代表理事)。静岡県内を中心に、全国各地でわかもののまちづくりの中間支援に取り組む。2020年に、一般社団法人トリナスを共同創業、現在は代表理事。焼津のコーディネート集団として、市民活動センターの運営や本を通じたコミュニティづくりを実践中。元内閣府「子供・若者育成支援推進のための有識者会議」構成員。

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