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桃花おちて身心脱落せん

さとりを開くということに関して、いくつか伝承されたエピソードがあります。小石が竹に当った音を聞いて悟ったとか、谷川の流れが突然説法に聞こえて悟ったとか。そのうちの一つで、霊雲禅師が山道を行く途中でふと里の方を見下ろすと、一面に桃の花が咲いているのを見て悟ったというのがあります。これについて如浄(道元の師匠)がこう言いました。なお「天童」は如浄の自称です。

 霊雲見処桃花開 霊雲は桃花の開を見、
 天童見処桃花落 天童は桃花の落を見る

これに道元が続けます。

 桃花のひらくるは春のかぜにもよほされ、桃花のおつるは春のかぜににくまる。たとひ春風ふかく桃花をにくむとも、桃花おちて身心脱落せん。
 |正法眼蔵第六十四・優曇華

桃の花は春の風に誘われて開き、春の風に憎まれて落ちる。たとえ春風が花を深く憎むとしても、落ちて身心を脱落しよう。

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