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『夜が明ける』を読んだ。誰かの人生は、わたしの人生だったのかもしれない。

西加奈子さん著『夜が明ける』が文庫化していたので早速手に取った。
この3日間ほど、泥の中に沈んでいくように読み耽った。

止まらなかった。
圧倒的な吸引力だった。
それくらい文章に力があった。

※以下、大きなネタバレはありません。


西さんはとにかく、人生を描くことにとても長けていると思う。
『夜が明ける』もそうだけど、
『漁港の肉子ちゃん』や『i』、『サラバ!』など、
登場人物の人生の何年ものを読まされるわけだから、
読んでいるうちにキャラクターと読者がリンクしていってしまう。

出てくる登場人物たちはいつもクセがすごく強い。
最初は自分とは全然違う人物像として客観的に見ることができるのに、
読み進めていくうちに共感してしまう。
「フィクション」を理解しているはずなのにいつのまにかその人生の苦しみが自分のものになっていたりする。


『夜が明ける』に出てくる主要キャラクター達は、
親からのネグレクトや過酷な労働、
たくさんのことに傷つきながら人生のあらゆる苦労を強いられる。

彼らの不安や苦しみは、
たとえ同じような経験をしていなくても、
誰もがどこかしら抱く不安や苦しみでもあった。

物語の軸にある「助けを求める」こと。
西さんは今日本にある不安や苦しみたちに真正面から向き合った小説を書いているんだと思った。

わたしは今、独り立ちし、生活にも特に困っていない。
だから生きることにギリギリになったり、生活保護を受ける人の気持ちはわからないし想像しかできない。

そんなわたしがこの小説から受け取ったのは、
現代社会で多様性が増え、労働環境が変わり、「個人」がどんどん強くなっていく中、
人に「助け」を求めることは恥ずかしいことではない、
むしろ結局人は手を取り合っていくことが大切なんじゃないだろうか、ということ。


読み終えた時、誰かに優しくしたくなった。
誰かを抱きしめたくなった。

そんな小説でした。


西さんの小説感想についてはこちらの記事でも。
『ふくわらい』もとてもよかったです。


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