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デザイナーの育ち⽅、育て⽅講座。〜DODO DESIGN 師弟トークショー〜

グラフィックデザイナーって有名になれるの︖ アートディレクターってどうすればなれるの︖ グラフィックデザイナーを⽬指す学⽣や若⼿デザイナーが抱くキャリアの疑問に答えるべく、BUDDYZでは「デザイナーの育ち⽅」をテーマにトークショーを開催しました。

登壇したのは、⼤胆なアイデアとユーモア溢れるクリエイティブで数々の広告を⼿掛ける株式会社DODODESIGNの代表取締役社⻑・クリエイティブディレクターの 堂々穣(どうどう・みのる)⽒、そして同社のアートディレクター ⻑⾕川和彦(はせがわ・かずひこ)⽒。⻑⾕川⽒がアートディレクターに昇格した軌跡たどりながら、熱いデザイン談議が繰り広げられました。

デザイナー初仕事は、築地へ買い出し!?


BUDDYZ ⻑⾕川さんはどのようにしてDODO DESIGNと出会ったのですか︖

⻑⾕川⽒ もともと⼤学時代は建築を学んでいました。DODO DESIGNを知ったのは、今から5年前、⼤学卒業後にデザインの勉強がしたくて⼊学した専⾨学校ででした。そこでDODO DESIGNに魅⼒を感じて、学校に通いながら週に2⽇のアルバイトとして⼊社しました。

堂々⽒ 最初は、マンションの⼩さな⼀室をオフィスにしていたんです。本当に普通の家みたいな感じで。怪しいと思われても仕⽅のないぐらい狭くて古いマンションだったのに、よく⼊社してくれたと思います(笑)。

BUDDYZ ⻑⾕川さん、初めて取り組んだ仕事を覚えていますか︖

⻑⾕川⽒ JR東⽇本の地産品ショップ『のもの』のフリーペーパー制作です。表紙に「うに」の写真が必要だったので、築地に「うに」を買いに⾏きました。だから⼀番最初の仕事はデザインではないんです(笑)。

堂々⽒ 当社では、デザイナーがありとあらゆること、トータルプロデュースをするんです。ロケハン、モデル事務所との交渉、⼩道具準備、スケジュール管理など。仕事を動かす、問題を解決する、それがアートディレクションだと思うので。だから当社では、⼊ったその⽇からアートディレクターというつもりで仕事の全体を⾒渡して動いてもらっています。

⻑⾕川⽒ 正直、⼊社する前は、デザイナーがまさかこんなことまでやるとは予想していなかったですね(笑)。


デザイナーの育ち方、育て方講座。~DODO DESIGN 師弟トークショー~ _ buddyz_2

⼊社後初めて担当した仕事を振り返る⻑⾕川さん(右)。
左はモデレーターのBUDDYZスタッフ


BUDDYZ ⼿掛けた作品をメディアに宣伝することも積極的にやっていますよね︖ それもデザイナーさんがやっているそうですね。

堂々⽒ はい、広報活動としていろんなメディアの関係者に宣伝することもデザイナーの仕事にしています。忘れられないように顔つなぎをするんです。これはデザイン会社の激戦区である東京で勝ち残るためには必要なこと。仕事はいかにコネクションがあるかで決まると思うんです。コネだと思われるかもしれないけど、コネも実⼒のうち、いかにしていろんな⼈とつながるのかが⼤事なんですね。今回⻑⾕川が表紙のデザインを⼿がけた『ブレ―ン』にも、作品を掲載してもらうために定期的に成果物を持っていくようにしていました。

⻑⾕川⽒ 最初は、とにかく失礼のないように丁寧にご挨拶をして作品を紹介するということをただやっていました。『ブレーン』の編集⻑、篠崎⽇向⼦(しのざき・ひなこ)さんはとても忙しい⽅なので、ご本⼈にお会いできないこともありましたし。でも編集⻑からデザインページの制作依頼をいただいたときに初めて、社内の広報活動として続けてきたことの⼤切さを実感したんです。

堂々⽒ 「DODO DESIGNでお願いします」という依頼ではなくて、「⻑⾕川さんにやってもらうのはどう︖」という指名の依頼でした。これは毎回⻑⾕川が訪問をしてコミュニケーションを取っていたからこそだと思います。


アートディレクターへの昇格、決め⼿は「信頼できる」こと

デザイナーの育ち方、育て方講座。~DODO DESIGN 師弟トークショー~ _ buddyz_3

印刷にこだわったDODO DESIGNの名刺は印刷⾒本としても活⽤できる。


BUDDYZ アートディレクターに昇格するのに何か決定打はあったのですか︖ たとえば「これが出来たら昇格できる」など⽬安が設定されているとか。

⻑⾕川⽒ まずはチーフデザイナーに昇格しました。チーフは現場のデザイナーの健康管理や進⾏で悩んでいたりなど、悩みを相談する⽬上の兄貴のような存在です。僕の場合、チーフになってからアートディレクターになるまでに時間がかからず、特にテストみたいなものもありませんでした。個⼈⾯談の時に昇格の話をされただけで。僕は⼊社するときに履歴書に「⾃分の名前で仕事をしたい」と書いていたので、⼀段階段を上がれたかなと思っています。

堂々⽒ ⻑⾕川は総合評価が⾼かったんです。クリエイションという⾯ではスキルが⾼いデザイナーは他にもいるのですが、信頼という⾯で⻑⾕川は評価が⾼かったんですね。あとは、⾒た⽬の部分もあります。かっこいいとか、かわいいということではなくて、きちんと⾝なりに気を遣えているかどうか、ちょっとでもおしゃれしてみようかなと思うかどうかなども⼤事だと思います。

BUDDYZ 堂々さんから⾒て、アートディレクターになった⻑⾕川さんは変わりましたか︖

堂々⽒ 特に変わっていませんね(笑)。まだまだですよ。アートディレクターって、⾃分で決めるものじゃなくて、周りが決めることですから、「堂々さんではなく⻑⾕川さんにお願いしたい」と思ってもらえるまで成⻑してほしいです。

デザインは始めて10年~15年はベースづくりです。たとえば佐藤可⼠和さん(クリエイティブエージェンシー「サムライ」代表)みたいな、若い時から⼤活躍するようなすごい⼈はめったにいないから、地道に時間を掛けて積み上げていくしか⽅法はありません。

BUDDYZ ⻑⾕川さんが制作した『ブレーン』のデザインページですが、⾃分の好きなようにデザインできる案件はとても貴重ですよね︖


デザイナーの育ち方、育て方講座。~DODO DESIGN 師弟トークショー~ _ buddyz_4

『ブレーン』の編集⻑から直々に制作依頼があったデザインページ。


⻑⾕川⽒ はい、この案件はすごく貴重な機会だと思います。事前に⼀度別のデザインで堂々に⾒てもらったのですが、「⾃分の名前で出すものだから、⾃分が好きなものを突き詰めたほうがいい」と⾔われてこれをつくりました。この号は地域のデザインという特集だったので、地域という⽂字を分解してつくりました。⽂字を分解するデザインを学⽣のときからやっていて好きだったので、⾃分の好きな表現に⽴ちかえってみようと思ったんです。

BUDDYZ ⻑⾕川さんへのオファーですが、やはり堂々さんが⽬を通すんですか︖

堂々⽒ DODO DESIGNの社員として作品を出すので、⼀定のクオリティを保つためにある程度は私が⾒ますが、⼀番⼤事なのは⻑⾕川⾃⾝のオリジナリティだと思うんです。その⼈にしかできないもの、その⼤切さに気づいてもらいたいし、これからデザインの道を歩んでいく⼈にも学んでほしいことです。クライアントの意向などもあって⼀回はへこませられることもあると思いますが「これが好き」という⾃分のカルチャーを⼤事にしてほしいですね。


謙虚に、気持ち良くが基本。やらされるのではなく⾃ら感じる教育


BUDDYZ DODO DESIGNにお邪魔すると社員の皆さんがすごく気持ちのよい応対をしてくれるのですが、やはり教育は厳しくされてるんですか︖

堂々⽒ 僕の⽴場から⾔うと、社員に対しては「仕事をやってもらっている」という感じなんです。頭が下がるというか。その中でみんなが勝⼿に育ってくれているという感じもしますが、⼀緒に働き共に戦いながら気を付けていることはあるので、少し紹介しますね。

【率先垂範】
⾃ら先頭に⽴って⼀⽣懸命やる、みんなに背中を⾒せる、というのが⼈を育てる上でベースなんじゃないかと思っています。指導や教育は⼀⽅的に伝えてもある程度しか伝わらない。⼤事なのは本⼈が⾃分で気づくことなので、そのために私が⾃ら⾏動を起こして⾒せるようにはしています。だから私もトイレ掃除をしてるんです(笑)。

【限界まで追い込む】
ちょっと怖い話ですが、これも⼤事です。いいものつくろうと思うなら、限界に挑戦した先に、いいことがあるはずなんです。それから、働き⽅も⼤事ですが、それよりも働き甲斐の⽅がもっと⼤事。ただ働き⽅がよくなっても何も変わらないし、その⼈のためにならないと思うんです。最初の10年〜15年くらいは特に頑張らないと。だから健康に気づかいながらも、結果として⻑時間労働になってしまっていることはあると思います。

【謙虚である】
どんな⽴場であろうとも、常に謙虚でいることを⼼がけています。約束を守る、打ち合わせではきびきび挨拶をする、常に謙虚でいるなど、⼀般的なことですが。

【継続させる】
社員が会社を辞めないように環境を変えるなどの⼯夫をします。働いている⼈たちが「この会社⾯⽩いな、居続けたいな」と思うようにすることもそのひとつ。もちろん⾦銭⾯でのバックアップも⼤事なことだと思っています。

【⼤⽬に⾒る】
細かいことは気にしません。未来進⾏形で考えています。今のその⼈の能⼒ではなく、成⻑した後を踏まえて判断します。

【話やすい環境をつくる】
上司と部下の関係なのですが、笑いを取ったりして明るい環境になるように⼼がけています。意外と気を遣っているんですよ(笑)。 共に戦っているので、困ったことがあれば話を聞くし、話かけるようにしています。それでもあめとムチで、厳しく指導することがその⼈の為になると思っているので、臨機応変に厳しいことを⾔うこともあります。

⻑⾕川⽒ 僕らは特に堂々から「こうしろ、ああしろ」と細かく⾔われたりはしません。ただなんとなく、「こうしたほうがいいのかな」という雰囲気がある。「やらされている」というよりも、背中を⾒て覚えたという⽅が近いかもしれません。

BUDDYZ デザインの技術的なことだけでなく、社会⼈として、⼈としての部分も⾃然と成⻑しているのですね。DODO DESIGNの皆さんがすごく礼儀正しくて丁寧に対応してくれる理由がよくわかりました。


デザイナーの育ち方、育て方講座。~DODO DESIGN 師弟トークショー~ _ buddyz_5

当⽇はDODO DESIGNの作品を⼿に取れるように展⽰しました


参加者からの質問タイム


トークの終盤は、参加者の皆さんから質問コーナーへ。その中からいくつかご紹介します。


Q. DODO DESIGNのお仕事はオリジナリティあふれるものが多いと思うのですが、保守的なクライアントとのお仕事でもオリジナリティのあるデザインが選ばれる要因は何ですか︖

堂々⽒ 相⼿の話をよく聞くことです。クライアントは何がしたくて、何をつくりたいのかをよく聞いてよく考えるんです。どんなに⾯⽩いアイデアでも、クライアントが求めているゴールに届かなければ納得してもらえません。だから、お客さんが求めているフィールドの中で提案することが⼤前提なんです。それから、クライアントから⾔われたことをネガティブに捉えません。難しいことを⾔われたら、逆にそれを「絶対良いものをつくる︕」というエネルギーに変えるようにしています。だからクライアントから⾔われたままのことはやりませんね。


Q. ⻑⾕川さんに質問です。新卒で⼊社して5年、違う会社に転職せずにDODO DESIGNに居続ける理由は︖

⻑⾕川⽒ 確かに友⼈の中で、新卒1社⽬の企業でまだ働いているという⼈はいませんね。私が今の会社を辞めなかったのは、少なくとも同じ会社に2年〜3年はいないと、できるようにならないと思っていたからです。

それから、もともと⼊社したときにいつか独⽴したいと思っていて、たぶん堂々はそれをくみ取ってくれているんだと思います。仕事をこなす中で、私の部署みたいなものをつくれるといいねという話がだんだんできるようになってきたので、そういう場を与えていただけるなら続けていたいと思っています。


Q. デザイナーになりたい⼈が、デザインのノウハウをまだ何も知らない段階からやっておいたほうがいいことは︖

堂々⽒ タイポグラフィですね。デザインのほぼ90%はタイポグラフィです。⽂字のデザインさえバシッと決まっていれば、多少へんてこな写真やコピーだったとしても成り⽴つこともあるぐらい。だから、⽂字にこだわって練習してほしいですね。

それから、私が若い頃に、佐藤卓(さとう・たく)さんというアートディレクターの⼤先輩に「デザイナーとして⼤事にしていることは何ですか︖」と聞いたことがあります。そのときに教えていただいたことが2つあるので、それを伝えます。

ひとつは「⽂字にこだわること」。「もし⽂字にこだわらない先輩がいたら、その⼈は信⽤するな」とおっしゃっていました。デザインにおいて⽂字というのは本当に⼤切なんです。そしてもうひとつが「常にニュートラルにいること」。これは、つねに柔軟な頭で、中⽴な⽴場にいなさいということですね。


今回のイベントでは、DODO DESIGNの作品を参加者の皆さんが⼿に取って⾒れるように展⽰台をつくりました。⾒たことのある広告やプロダクト、クオリティの⾼い作品に参加者の皆さんは興味深々の様⼦。これからのデザイン業界を担っていく皆さんにとって、有意義な時間になったようです。


堂々 穣 (DODO DESIGN 代表/アートディレクター)

デザインで⼈に感動してもらったり、⼼をつかみたいと思っています。 1974年⽣まれ、東京⼯芸⼤学芸術学部デザイン学科卒業。たき⼯房、BRIDGEを経て、2012年にデザイン会社DODO DESIGN設⽴。⽣活をより豊かに楽しくするHaveFunというデザイングッズのブランドを運営。
これまでの主な仕事︓ JR東⽇本地産品ショップ「のもの」シンボルマークデザイン、東急百貨店「トウヨコハチコウ」キャラクターデザイン、ダイハツ「TANTO」やアサヒビール「アサヒオフ」広告キャンペーン、アイセイ薬局「ヘルスグラフィックマガジン」アートディレクション、ミュージシャン「GOOSE HOUSE」アートワークなど。主な受賞歴︓ GOOD DESIGN賞、NY ADC賞、毎⽇広告デザイン賞、読売広告⼤賞、交通広告グランプリ、他受賞多数。

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