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12/16開催【先進セミナー】 中国各地で進むスマートシティ産業の現状・ビジネストレンドの観察ポイント イベントレポート

皆さんこんにちは!ドコモ・ベンチャーズです。
今回は、2021年12月16日(木)に行われたイベント

【先進セミナー】中国各地で進むスマートシティ産業の現状
~ビジネストレンドの観察ポイント~

についてレポートしていきたいと思います!

本イベントでは、エクサイジングジャパン代表取締役の川ノ上 和文さんにお話しいただきました。

・中国のビジネストレンドを観察する上で見るべきポイントは何か?・中国の都市化率や人口動態の現況はどうなっているのか?
・最新のスマートシティ事例や政府が主導するスマートシティ構想はどのようなものか?

こういったことが気になる方に向けた内容となっていますので、ぜひ読んでみてください!

<エクサイジングジャパン 代表取締役 川ノ上 和文氏>

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<プロフィール>
2017年に深圳でエクサイジング(翼彩創新科技、現:翼彩跨境科創)を設立し、その後東京に進出。
“探索者(explorers)として人類の思考拡張の種を探し、未来想像・事業創造を誘発する場を創出すること”をビジョンとし、深圳・ベイエリア圏を中心に産官学の現地ネットワーク開拓、業界団体、企業家コミュニティ、インキュベーター、アクセラレーター、大学創業コミュニティ等との関係構築、国際連携のニーズ把握、日本企業との橋渡しやその後の事業開発を支援している。
2019年5⽉より⽇本発ドローンスタートアップであるエアロネクストの深圳法⼈である天次科技(深圳)有限公司の総経理を兼任。

■中国市場のトレンドを観察する上での基礎知識

まず、中国という巨大かつ変化が大きい市場を分析する上で、役立つフレームワークや考え方を3つご紹介します。

1.“IT・新興産業 × 現地環境 ×(想像力・線形 + 想像力・非線形)”

上記のフレームワークを使って、情報を整理すると中国に対する洞察が深まります。少し具体的に見ていきましょう。

「IT・新興産業」では、起業家のビジョン、それに対する政府の政策、新興産業の進化の時間軸、新興産業の普及を阻むボトルネックなどを考えていきます。
「現地環境」では、中国は5年毎に都市インフラや法規制、人口動態、ライフスタイル、世代別の考え方が変化していくため、常に客観的な状況変化を踏まえて中国市場を捉えていくことが重要です。
「想像力・線形」では、今ある産業がどのようにアップデートされていくのかといったフォアキャスティング型アプローチを用いて、未来を想像します。
「想像力・非線形」では、あるべき未来と今とのギャップ、望ましい未来を実現させるために必要なブレイクスルーは何かといったバックキャスティング型アプローチの観点から、今と未来を捉えていくことが重要です。

2.リープフロッグ

リープフロッグとは、既存の社会インフラが整備されていない新興国において、新しいサービスが先進国の歩んできた技術進展を飛び越えて一気に広まることです。
中国では特に内陸部において、新しいテクノロジーの急速な普及によって、利便性が向上し、人々のライフスタイルが大きく変化しました。
例えば、キャッシュレスやQRコード決済などのテクノロジー技術は三級都市のような地域でも、大小問わず様々な規模の事業者で導入されています。
こうしたテクノロジーの普及の背景には、途上国のサービス品質が悪い(例:店員が注文を取りに来ない、注文を間違える)などといった事情があり、簡単なテクノロジー1つでこれらの課題を解決できるため、テクノロジー導入に対するモチベーションが先進国よりも高いのが実情です。

3.ルールメイカーとしての巻き込み力広域経済圏(TPP、一帯一路等)への布石

米中対立が激化する中、中国は世界における自国のプレゼンスをさらに高めています。具体的には以下のような取組を一層強化しています。

a) 世論形成(海外華僑・華人向け中文メディアの海外拠点は37か国5大陸に跨っており、世界中にいる中国人に情報提供をし、世論を形成する力を持っています。)
b) 国際機関の要職獲得
c) 国際標準(ISO 等)への積極的な関与
d) 広域経済圏(TPP、一帯一路等)への布石

■グローバルの都市成長の中での中国事情

1.中国の都市化率と人口動態

中国では2000年以降急速に都市人口が増加し、2011年には農村人口と都市人口が逆転し、さらに2019年には都市化率が60%を超えました。
米国の都市化の速度と比較すると、米国では1950年代から徐々に都市化が進んでいるのに対し、中国は1990年代から2000年代にかけて都市化率が急上昇し、今後の30年間で米国と大差ないレベルまで上昇することが予想されています。

※都市化率・・・ある特定地域における人口集中度を表わす指標であり、都市化率=都市人口/人口の指揮で定義されます。

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2.諸外国の都市化率や人口動態

・今後の都市化の動向
2018年の都市化率を比較すると、北米・日本は80%以上、欧州は75%以上、中国は40~60%を推移していました。
今後2030年にかけて、北米・日本・欧州における都市の成長率は鈍化し、成長の中心は中国・インド・アフリカへ移ることが予想されています。

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・各国の規模別都市数、及び都市への人口流入の比較
日本は人口1000万~規模の都市に国民の過半数が集中していますが、米国では人口100万~500万規模の都市数が多く、2018年時点で36都市存在します。人口のボリュームゾーンを見ても、この規模の都市が1番大きくなっています。
中国においても同様に、人口100万~500万規模の都市数が多く、2018年時点で105都市、2030年には146都市まで増えることが予想されています。

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■中国のスマートシティ産業

このように、中国では急速に農村から都市に人口が流入したため、都市の生活インフラのアップデートが急務の課題であり、国家としてスマートシティ構想には大変力を入れています。中国のスマートシティ関連プロジェクトは約500個あり、これはなんと世界のスマートシティプロジェクトの48%を占めています!

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中国ではスマートシティの概念は10年以上前からありました。
ここでは3フェーズに分けてみていきましょう。

第1フェーズ:デジタルシティ(2008年-2012年)

既存産業の中で、スマートシティをどのように建築や都市設計に拡張させていくのかが議論され、また無線通信やいかにデータを共有するのかといったプリミティブな技術を取り入れることに重点が置かれました。
2012年には初めて国会レベルで、スマートシティのトライアルシティを作っていくことが発表されました。

第2フェーズ:スマートシティ(2013年-2015年)

様々な国家機関が協力して、スマートシティを進めるための方法論を策定しました。
また、通信、周波数、クラウドコンピューティングなどの技術を支えていく観点からもスマートシティのあり方が検討され、新興技術をベースにして、それらをどのように都市に導入していくのかについて議論されました。

第3フェーズ:新型スマートシティ(2015年-2020年)

スマートシティの方法論をベースにしながら、都市の特徴に応じた新型のスマートシティのモデルケースを各地で立ち上げています
それぞれの都市の課題を解決するために、ビッグデータ、ブロックチェーン、5Gなどの技術の活用も積極的に取り入れられました。

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例えば、北京のスマートシティ構想では、大気汚染問題を解決するため、環境対策ができるようビッグデータの活用が推し進められたり、杭州では都市渋滞をなくすようなAIシステムが導入されました。
また、上海ではリテール産業の発展を支えるテクノロジーが導入されたり、重工業が強い重慶では自動運転実証実験のための公道が開放されました。
さらに、深圳では、各産業における新しい取り組みを行う場として、行政の手続きを素早く完結できるようにデジタルガバメントの技術が導入されました。

2018年時点で、地方政府が募集しているスマートシティプロジェクトは10000以上あると言われており、大小様々なプロジェクトが中国全域で行われています。

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スマートシティ産業関連のカオスマップ

中国のスマートシティ産業を構成する企業には、ビッグデータを扱うプラットフォーマー、アプリケーションを作るプレイヤー、通信設備や半導体チップのサプライヤーなど様々な企業が存在しています。

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■各都市事例

1.貴州省・貴陽市

貴州省はもともと中国で1番貧しいとされていた省でしたが、今まさに“リープフロッグ”現象が起きています。
この地域では、2018年12月に初めて電車が開通して、わずか半年後の2019年5月には顔認証技術の体験ができる改札が誕生しました。同時期に深圳でも同じような顔認証技術の実証実験が行われていましたが、深圳のような最先端の都市とかつて最も貧しいとされていた貴州省が、同じ時期に同じような最先端技術の実験を行っていることは、正に“リープフロッグ”が起きていると言えるでしょう。

また、モビリティ×都市の分野ではPIXという地元スタートアップが注目されています。

PIXの事業は、トヨタ自動車のe-Palatteの取り組みに近しいですが、“都市の観点からモビリティを考える”ことをコンセプトとし、ジムやオフィスといった様々なサービスを載せて自動運転する仕組みを作っています。

また、パソコンでデザイン・設計したものをメタル3Dプリンティングで作るので、低コストで早く商品が出来上がります。
このような取組は、都市計画がこれから本格化する貴州省ならではの取り組みと言えますし、実際政府からは多方面の援助を受けており、既に公道での実証実験も認められています。

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2.杭州

別名“アリババシティ”と呼ばれている杭州では、アリババのプラットフォーマーとしての強みを生かし、MaaSを活かしたスマートシティ構築が進んでいます。
バスの乗り降りや自転車・タクシーの使用時には自動的にアリババ系のサービスと連携され、シームレスなサービス提供が実現されています。
また、空の世界では、中国国内で唯一都市部でのドローン活用を実装化、ドローンポートが病院に設置されており、緊急の血液や医薬品の輸送ができる許可をとっている地域です。

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■Q&Aセッション

Q1. 日本でデジタル化が進まない原因の1つは高齢化だと思うが、中国では高齢者のデジタルリテラシー向上のためにどのような取り組みを行っているか。
A.  いくつか面白い事例があります。例えば、深圳では高齢化率が2%でほぼ高齢者がいません。そういう街を作ってしまうのも1つの方法です。
また、中国人特有の“家族意識が強くお年寄りをケアする意識が高い”という国民性を活かし、内陸部では若者がお年寄りにデジタルツールの使い方を教えてあげる役割を担っています。それが仕事になり、新たな雇用も生んでいます。
例えば、農業分野ではスマート農業を進めていくために、デジタルデバイスを活用することが求められますが、教育水準が高くない農業従事者は上手くデバイスを使いこなすことができません。そこで、若者が代わりに数値を入力して発注もしてくれるようなサービスが誕生しています。若者はそこでお金を稼ぐことができますし、高齢の農業従事者もデジタルについて学ぶ機会を得ることが出来ます。

Q2. 中国では日本ほどプライバシーや個人の権利が重視されていないように思うが、国民はこの状況に納得しているのでしょうか。
A. もともと中国は治安やサービス品質など様々な問題が抱えていたため、監視社会やテクノロジーの導入によるプライバシーの侵害といった負の側面より、それによって得られる利便性・安全性やライフスタイルの向上の方がはるかに大きいと多くの国民が感じていると思います。

Q3. 中国はこれまで他国のサービスをまねることで成長してきたイメージがあるが、中国初のサービスや製品の中で今後世界で流行りそうなものはあるか。
A. アリババもテンセントも最初は米国のサービスからヒントを得て、巨大な市場で鎖国することによりサービスを強くし、さらに情報とお金と知恵が集まってきたことで、本家を超える企業を作ってきたという背景があります。TikTokにおいても、米国のSNSサービスから発想を得て、独自のアルゴリズム開発やビッグデータを取りやすいという市場環境も追い風となり、世界的なSNSへと成長していきました。ライブコマースも都市でしか稼げないという概念を崩し、地方の中年層も日常をアップロードすることにより、バズって有名人になる事例が多々あります。このように、中国は外国のサービスを中国風にアップデートして発展させていくことが非常に得意な国だと思います。

Q4. 中国のスマートシティは、農村と都市の格差を広げる可能性があるのではないか。政府が”共同富裕“の政策を打ち出してから、スマートシティ構想は何か変わったか。
※共同富裕・・・貧富の格差を縮小して社会全体が豊かになるという中国共産党政権が掲げるスローガン。先に富を得たものが後から富を得る人々を助けるのであり、「裕福な者を殺し、貧しい人に分け与えるものではない」という考え方

A. 中国のスマートシティの強みは、標準化が得意という点です。いろんなスマートシティの事例があるため、世界に打ち出していく中国式の標準を取り出しやすく、実際ISOのワーキンググループに対しスマートシティ参入におけるスタンダードを積極的に提案しています。格差を拡大させる可能性については、YesでもありNoでもあります。既に都市化が進み、都市に行って稼ぐという仕組みが通用しなくなっているという前提を置くと、スマートシティを作り物流を整えることで、農村の生産物を都市に流通させ、農村経済を向上させることができれば格差の是正につながると思います。その半面、スマートシティにより、さらに人口が都市部に流れた場合、格差が大きくなってしまう可能性があります。

Q5. 日系企業が、中国の地方政府からのファンディングと日本商社からのファンディングを協調させる方法はないか。
A. 中国の政府系ファンドから資金が入っている場合、米中対立の影響で企業活動を厳しく監視されたり、レピテーションリスクにつながる可能性があります。
日本企業が中国の政府系機関と組んでいることを積極的にアピールするのは難しいと思います。

Q6. 街中に監視カメラが設置されたことにより信号無視する人が減ったと聞いたことがあるが、現地に住んでいて実感できるメリットは何かあるか。
A. 人の信号無視はまだあるが、車の信号無視はなくなりました。車のような、監視しやすい対象や罰金制度を課しやすい対象の違反行為はかなり減ったと実感しています。

Q7. 日本が中国に学ぶべき点は何でしょうか。
A. カオスな環境ではないかと思います(笑)
深圳に住んでいると急に無人コンビニが出来たり、シェアリングサイクルも一時期流行ったりしましたが、失敗が許容できる範囲でいろんなことを実験的に試していける点が面白いなと思っています。こうした環境による恩恵として、中国のVCや企業は新しいビジネスを考える際に、非常に多くのケースや事例、データをフル活用して、ビジネスモデルを練り上げていくことが可能になっています。

Q8. 中国のスマートシティは利便性向上に焦点が当たっているが、欧米のような環境配慮の視点やライフスタイルの質向上などの視点は組みこまれているか。
A. “産業として国力につながるか”が一番の判断基準で、欧米で進めていこうとしているカーボンニュートラルの背景にも、欧米諸国にとっていかに国力につなげるかが重要視されています。中国も同様に、世界のトレンドの中で、どこでポジションがとれるかを考えています。そういった意味では、中国はカーボンニュートラルの領域に戦略的に取り組んでいて、テクノロジーを採用したり、CO2取引のイニシアティブを積極的に取ろうとしています。

まとめ

今回は、中国各地で進むスマートシティ産業の現状やビジネストレンドを読み解くうえでのポイントについてお話しいただきました。

中国では都市に限らず地方でもテクノロジーの導入がかなり進んでおり、まさにリープフロッグ現象が見てとれたと思います。
また、地方の高齢者のデジタルリテラシー向上のための取組は、日本社会のデジタル化を促進していくうえでのヒントになったのではないでしょうか。

スマートシティ構想についても、政府主導で積極的にテクノロジー技術を応用することで、社会全体の課題や負の側面を急速に解決していくダイナミックさが感じ取れたと思います。
今後の中国のスマートシティへの取り組みにも目が離せませんね!

今後もドコモ・ベンチャーズでは毎週1回以上のペースで定期的にイベントを実施し、その内容を本noteでレポートしていきます!引き続きイベントレポートを配信していきますので、乞うご期待ください!!
次回は【先進セミナー】復活する旅行業界の展望とポテンシャル~トラベルテックが狙うビジネスチャンスとは~についてのレポートです!

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