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追加投資|カケハシ:薬局8兆円市場を革新するインダストリーSaaS

DNX Venturesは、株式会社カケハシ (以下、カケハシ) の18億円の資金調達 に、新規投資家であるジャパン・コインベストとSony Innovation Fund、および既存投資家であるCoral Capital、千葉道場、Salesforce Venturesと共に、追加出資させて頂きました。カケハシは、薬局と患者を結ぶクラウド型電子薬歴システム「Musubi」を提供する、インダストリー(業界特化型)SaaSのリーディング企業であり、我々はシードラウンドから今回に至るまで、全ラウンドで出資をさせて頂いております。本稿では、なぜ我々DNX Venturesがカケハシの挑戦を支援し続け、今回の追加投資に至ったか、についてお話したいと思います。

転換期をむかえる巨大な薬局市場

厚生労働省のデータ によると、日本全国に薬局は約6万店舗あります。この数は、コンビニエンスストアを上回るほど、我々の生活には欠かすことができない存在です。そのため、国内の薬局市場は2019年に7.7兆円に達する巨大市場です。この巨大な薬局市場は、昨年見直しがされた「改正薬機法」により、いま大きな転換期を迎えています。この薬機法の改正では、今まで“薬を渡す場所”として定義づけられていた薬局が、“薬の指導をする、患者さんの相談役になる”ことが強く求められるようになりました。つまり、薬局の現場では、患者さんへの適切なコミュニケーションがより一層重視されることとなり、そのためにもIT化等を進めることで、より業務の効率化を加速させていくことが求められるようになったのです。

しかしながら、現場の薬剤師の方々は「働き方」に大きな課題を抱えています。例えば、厚生労働省の規定により、薬歴の記入作業が重くのしかかり、毎日数時間の残業を繰り返し、疲弊されている薬剤師の方も多くいらっしゃいます。このような環境で、現場の薬剤師の方々が患者さんにきめ細かいコミュニケーションを取ることは本当に可能でしょうか?この一因となっているのが、アナログの紙ベースの薬歴管理やオンプレミスといった、記録を残す目的に特化したレガシーシステムです。

カケハシのクラウド型電子薬歴システム「Musubi」は、これらの課題の解決をしています。例えば、新千里薬局様の事例で見て頂けるように、これまで数多くのお客様の成功を支援してきました。結果、カケハシは、薬局業界において破竹の勢いで成長を遂げてきました。

また、「Musubi」のインパクトはこれだけに留まらず、患者さんの治療促進にも大きく役立っています。先日カケハシが発表した、緑内障治療薬の一種であるプロスタグランジン製剤を対象とした、「Musubi」を使った薬剤師の服薬指導による調査 では、患者さんの点眼アドヒアランス(患者が治療の意義や方針を理解・納得し、積極的に治療に参加すること)が8.7ポイントと大幅に改善したことが証明されました。

日本を変革するインダストリーSaaSの可能性

ここで一歩引いて、カケハシのような、インダストリーSaaSの日本の可能性を、我々がどう見ているか、について簡単にお話したいと思います。

DNX Venturesは、日本のインダストリーSaaSに大きな可能性を感じ、カケハシや、建設業界向けのANDPADのように、日本を代表するインダストリーSaaS企業を支援してきました。我々が日本のインダストリーSaaSに大きな魅力を感じる点は、大きく3つあります。

DNXがインダストリーSaaSに可能性を感じる理由
1. 米国市場でのインダストリーSaaSの成功事例と躍進
2.日本特有のレガシーな業界の多さと変革の余地の大きさ
3.FintechやECなどのSaaS以外の事業領域への展開の可能性の広さ

1点目は、先行する米国市場でインダストリーSaaSが大きく躍進してきた点です。少し古いデータですが、米トップVCの1社 Bessemer Venture Partnersによると、2010年から2016年の6年間で上場しているインダストリーSaaSの時価総額の合計は、約$50Bから$150Bの3倍まで成長しました。この代表企業の1社であるVeevaの時価総額は2015年に約$4B弱でしたが、2020年現在、$40B超と10倍以上に大きく成長しています。また、今後も建設業界特化のProcoreなど、インダストリーSaaS企業の上場は益々増える見込みです。

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BVP「Vertical software: a founder’s guide to success」資料より抜粋

2点目は、日本特有のレガシーな業界が多いからこそ、変革の余地が大きい点です。CRMなどホリゾンタルSaaSは市場が大きく、海外SaaSとの競争もあるため、デジタルによる課題解決は進みやすい一方、レガシーな業界はこの恩恵を受けにくい状況にあります。そのため、業界特有の課題を解決し、日本全体のDXの底上げをする変革者たる、インダストリーSaaS企業が、日本の産業の未来を築く上で必要不可欠だと考えます。

3つ目は、インダストリーSaaSは、FintechやEC、ビッグデータ事業などのSaaS以外の事業領域への展開余地が大きい点です。インダストリーSaaSは、業界でのリーダーシップが取りやすい利点があり、SaaSを基盤として、業界の課題解決をさらに進められるポテンシャルを持っています。このインダストリーSaaSから他領域への展開については、米トップVCのAndreessen Horowitzの『インダストリーSaaSをスケールさせるFintech 』などでも語られている通り、今後拡大が期待されるSaaSトレンドの1つです。

今回の追加投資によせて

DNX Venturesは、シードの頃からカケハシの成長を見守ってきました。業界変革の志に溢れたチームメンバーに導かれ、「Musubi」はインダストリーSaaSとして着実にマーケットシェアを広げています。昨年2019年後半のシリーズB完了後は、特徴である高いユニットエコノミクス、リテンションを維持しつつ、筋肉質で強い営業組織を構築すべく、オペレーションの改革にも取り組んできました。

その後発生した、新型コロナウイルスによる厳しい経営環境下においても、カケハシは柔軟に、かつ迅速に対応しました。今回の追加資金調達の実施を早急に意思決定し、顧客獲得ペースも加速。薬局経営の見える化を実現する「Musubi Insight」や、患者さんの薬局体験の向上を支援する、おくすり連絡帳アプリ「Pocket Musubi」のリリースも実現しました。こうしたシリーズB以降の成長もご評価頂き、今回複数の新しい新規投資家に参加頂くことができました。我々も、こうした事業成長や意思決定を側で見させて頂く中で、カケハシに対する信頼が更に高まった事を理由に、追加投資をさせて頂きました。これもひとえに、中尾社長・中川CEOを筆頭に、チーム・カケハシの皆様が、事業課題に真摯に向き合い、地道な改善を繰り返すことができたからだと思います。

「日本の医療を未来へつなぐ」カケハシの壮大な挑戦は、まだまだ始まったばかりです。我々DNX Venturesは、カケハシが日本の医療業界の変革のリーダーとして、日本を代表するインダストリーSaaS企業になることを、引き続き支援して参りたいと思います。

(文:倉林 陽、湊 雅之)

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