京都観光モラルワークショップ(第4回)~発表会~
記事作成日:2021. 11. 29
発表会
9月2日の第一回よりおよそ2か月に渡って開催して参りました京都観光モラルのワークショップも今回が最終回となりました。最終回はこれまで3回に渡るワークショップとワークショップ間の自主ミーティングでブラッシュアップしてきた京都観光モラルの普及啓発ツールのアイデアを披露する発表会となります。
これまでの3回は新型コロナウィルス感染拡大状況を鑑み、zoomでの開催でしたが、感染状況も落ち着いてきたことから、11月4日(木)10時~12時にQUESTIONにて初の対面形式で開催いたしました。
○QUESTIONとは
一人では解決できない「?」に対して様々な分野の人が集まり、みんなが寄ってたかって答えを探しに行く場所をコンセプトに2020年11月にオープンした京都信用金庫の新たなシンボルタワーです。
このレポートでは、各グループの発表内容や発表会の様子についてご報告いたします。読者の皆さまも各グループの発表を通して、京都観光モラルについて理解を深めて頂くと共に、観光客の皆さまと京都観光に携わる事業者や京都市民それぞれが京都観光モラルへの意識を高めるために何が必要か、未来の京都観光の姿を想像しながら考えて頂く機会となれば幸いです。
発表会プログラム
①主催者挨拶・審査員紹介
まずはじめに、開会にあたり主催者である京都市観光協会を代表し、専務理事の西村よりご挨拶を申し上げると共に、発表会の審査をしていただく7名の審査員をご紹介しました。
審査員
産学官7名の審査員の方々に審査していただきました。
(順不同・敬称略)
②京都観光モラルの説明・ワークショップの振り返り・発表会の概要
つぎに、京都観光モラルについて改めて説明すると共に、これまでのワークショップの振り返りと発表会の概要を事務局である京都市観光協会より共有いたしました。
約50年前の京都市の観光客数は、現在の約半分程度でした。1970年の大阪万博で観光客が3,000万人を突破したことがきっかけで、この当時からすでに観光客数を単純に増やすことを目指さない方針が掲げられています。しかしながら、2000年代に入り観光客5,000万人構想が新たに打ち出され、政府のVisit Japanキャンペーンも相まって観光客数の増加が始まりました。東日本大震災からの復興が進み外国人観光客が急増した2014年以降、混雑問題が懸念され始め、今日に至っています。
京都市民を対象に毎年実施されているアンケートでは、政策分野別に市民からの評価を5段階で回答してもらう定点観測結果を発表しています。観光分野に関する設問のうち、とくに京都観光モラルとの関連性が高い2問について平成24年(2012年)以降の推移を見てみましょう。「大変そう思う」を2点、「まったくそう思わない」をマイナス2点として平均値を集計したところ、どちらの設問に対する回答もゼロを上回っていることから、肯定的な回答のほうが多数派の状態が続いていることが分かります。しかしながら、ここ数年間で市民感情は悪化の一途を辿っており、少しでも市民感情を向上できるような取組みが必要となっている状況です。
このような状況の中、マナー啓発については京都市観光協会でも様々な取組みを行ってきました。一例として紹介するこの「京都まちけっと」は「エチケットをみんなで守りましょう」という標語を掲げ、京都市内の様々な場所でポスターを掲出をすることで、観光客の皆さまにマナーへの理解を深めて頂けるよう努めてきました。ただ、これらの取組みは観光客の皆さまに向けたものが中心でした。
そこで、2020年11月に発表されたのが「京都観光モラル」です。とくに、観光客と観光事業者に対しては、それぞれの実践内容を4つの分野に分けています。しかしながら、この「京都観光モラル」を策定しただけでは、一人ひとりの実践や行動が急に増える訳ではありません。よって今回ワークショップを通して、京都観光に携わる事業者の皆さまや観光について学びを深める学生の皆さまの日頃の経験や気づき等を基に、一人ひとりがモラルに沿った行動を増やして頂けるようなアイデアを考えていただきました。
最後に本日の発表と審査の流れについてお知らせします。3つのグループに分かれて検討したアイデアをそれぞれ発表して頂き、先ほど紹介した7名の審査員の皆さまに3つの観点で評価をして頂いた採点結果を踏まえ、審査員の全会一致で優秀賞を1グループ選出いたします。
③各グループの発表及び質疑応答
各グループで練ってきたアイデアをグループA、B、Cの順に発表しました。
パワーポイントの資料に加えて、寸劇を織り交ぜたグループもあり、工夫を凝らした発表となりました。
発表の持ち時間は15分です。各グループの発表後に、審査員の方々より感想等のコメントを頂きました。
グループAの発表概要
京都観光モラル劇場 ~明日の京都を育てるために~
観光に関わる様々な立場を理解することを目的とした京都市内の小学校高学年の総合学習の授業として、市民、観光事業者、観光客のそれぞれの役割で演じるロールプレイング授業を提供する
授業の構成は「お芝居鑑賞」「グループ討議」「全体での意見共有」「京都観光総合調査を交えてクロージング」の4つ
事実を基にしたコミカルなお芝居で生徒を引き込み、グループ討議では、「複数の登場人物の立場になって考えてもらう」ことで、観光現場で起きていることを生徒に疑似体験してもらうと共に、観光に対する理解を深め、自分なりの考えを持てるようにする
審査員からグループAへの感想
修学旅行生の受け入れを今後も京都は目指していくのだろうが、有名な観光地に集中していた問題を解決するには、訪問先を分散させることができるよう他の魅力ある場所を事業者の皆さんが周知していくことが大切であろう。
観光客である修学旅行生と京都観光に携わる事業者や京都市民は「お互いさま」の関係であり、それぞれの立場における感情をロールプレイング授業という形で知ることはとても良いことだと思う。
子どもたちにも理解しやすく、わかりやすい内容であった。授業の中では食だけでなく、文化的な要素を盛り込んだり、対象を修学旅行生だけでなくその他の観光客にも広げたりするのも良いのではないか。
グループBの発表概要
エコバッグ 京都が京都であり続けるために
伝統的な景観や文化の保全・維持・継承、そして時代の先端を歩み日本の心であり続ける京都が京都であり続けるために、「プラごみ削減に率先した取組み」であるエコバッグの提案
市民、国内外の観光客、観光事業者をターゲットとしたエコバッグを配布することで、同じエコバッグを持っていることで、相互にコミュニケーションが生まれるきっかけとする
京都らしいデザインやマナー啓発のイラストや防災情報のQRコードをプリントするといったような京都観光モラルを意識した工夫もすることで、モラルの普及啓発を図る
市民や観光客の京都観光に対する生の声を拾う仕組みとしてアンケートを実施したり、エコバッグ提示で割引サービスを提供するといったように、それぞれの立場におけるインセンティブ(動機付け)を設け、エコバッグの浸透・展開を目指す
審査員からグループBへの感想
具体的にエコバッグに絞ってプレゼンしたのは良かった。
持続可能で息の長い取組みとするためには、コスト面等色々難しさはあると感じた。
京都はこれまで各時代の人たちによる改革が連続して行われ、様々な改革の痕跡が残っている街である。このような面白さのある京都だからこそ、「京都が京都であり続けるために」という視点からアイデア出しをスタートした点が良かった。
既に普及が進んで様々な種類が出てきているエコバッグの中で、デザイン性等において群を抜いたものができれば良いだろう。
京都観光モラルのアンケートを取ることは非常に良いアイデアだ。ただ見聞きするより、自分で考え、答えると人間の頭の中に残りやすい。
グループCの発表概要
Kyoto with LOVE
観光客の分散と京都観光モラルの理解促進を目的としたアプリ開発
環境負荷が少なく、観光客にとって時間が読みやすい地下鉄利用を推奨とする地下鉄沿線の観光コースを設定し、一つひとつ観光地を訪問することでスタンプが貯まる仕組みとする
アプリのマップ上に表示する観光スポットは、歴史的観光地、写真映えスポット、テレビドラマのロケ地といった多様なカテゴリから選定
各観光スポットの近くに入ると自動的にアプリが起動し、観光モラルや京都の文化・歴史に関するクイズに回答させるだけでなく、アプリを通じ観光事業者をはじめとする地域の方とコミュニケーションを図るとポイントが獲得できる仕組みとする(貯まったポイントは特典と引き換えることが可能)
審査員からグループCへの感想
スマートフォンを利用できない方に対する配慮がこれまでネックと考えられていたが、次世代の京都の観光を見据えると観光客の方とスマートフォンやタブレットを通じたコミュニケーションは必然となるだろう。
観光に携わる事業者のデジタル化が進んでいないことも課題であるため、このようなアプリを導入することで、DX(デジタルトランスフォーメーション)を進めていくことは重要である。
現在観光に関する多数のアプリが乱立している状況ではあるが、今回発表した規模感で京都観光モラルを軸に様々なインセンティブ(動機付け)を作ったり、リピーター確保への取組みをしていくことは、他のアプリとの差別化が図れ、今後の京都観光の成長へのきっかけになるのではないか。
混雑しているところだけが魅力がある訳ではない。観光には多様性が大事である。よって発表頂いたように時間や場所の分散が重要であり、このようなアプリを使って分散を図ることは良いアイデアである。
観光客と市民の間で起こりがちなトラブルはコミュニケーション不足に起因することが多い。観光客の方に「して欲しいこと」「して欲しくないこと」を直接伝えるのはぎくしゃくした関係を生んでしまうため、アプリを通じたコミュニケーションには新たな発想を感じた。
④講評・結果発表・表彰
結果発表の前に審査員を代表して京都大学経営管理大学院若林教授より各グループの講評を頂きました。
グループAへの講評
ロールプレイング授業というのは、シナリオ作り等大変な面はあるが、子どもたち本人にモラルについて考えさせることができる良いアイデアである。
京都市内の学生が対象であったが、他の地域に出前授業のような形にしても良いのではないか。京都市民や京都観光に携わる事業者が観光客に対して抱いている感情について社会科の授業で展開していくのも一案である。
グループBへの講評
コスト面等考慮して、最も実現性が高いと感じた。
京都には様々なデザイナーの方がいらっしゃるので、デザインをお願いするのが良いのではないか。
エコバッグを観光の中でどのように活かしていくのかまだまだ議論の余地はある。
グループCへの講評
観光産業のデジタル化という今、非常に求められている視点のアイデアであった
20代をメインターゲットとしていたが、それぞれの世代におけるアプローチも考えられるだろう。
続いて結果発表です。7名の審査員の皆さまの採点結果を踏まえ、審査員の全会一致で選ばれた優秀賞は、グループCに輝きました。採点結果は非常に僅差ではありましたが、「デジタル化」というこれからの京都観光の在り方において発信すべきテーマを体現していた点がグループCが優秀賞受賞に至った選考理由でした。
優秀賞を受賞したグループCには京都市観光協会より地元産品である黒谷和紙で制作された表彰状が授与されました。グループCの皆さま、おめでとうございました!
⑤今後の京都観光モラル普及啓発事業について
今回優秀賞を受賞したグループCのご提案を中心に、グループAとBのご提案も踏まえながら、今後アイデアの具現化に向けて動いていく予定です。また、京都観光モラルに関する特設サイトの構築や動画制作も進めて参ります。
京都市観光協会では、観光モラルに即した優れた取組について、事業者のインタビュー記事により情報発信を行っています。また、メディアでも観光モラルが取り上げられるなど、注目度も高まってきています。引き続き、様々な媒体を活用し、京都観光モラルの取組を発信していきます。
ワークショップ参加者の感想
本ワークショップ参加者の皆さまの感想を頂きましたので、一部ご紹介いたします。
まとめ
全4回にわたるワークショップは最終回となる発表会を以て、終了となりました。今回のワークショップを通して京都観光に携わる事業者の皆さまや京都観光への学びを深める学生の皆さまと共に、これまで京都が抱えてきた課題を共有し、コロナ禍後の新しい京都観光の姿を京都観光モラルを軸に議論を深めて参りました。様々な立場の方に京都観光モラルを理解して頂くだけでなく、行動にまで移して頂くには、長い時間と労力を要することは想像に難くありませんが、今回のワークショップはその長い道のりの第一歩となりました。読者の皆さまにとってもこのレポートがどんな小さな行動でも一歩を踏み出すきっかけとなれば幸いです。全4回にわたりお読み頂き、ありがとうございました。